たぶん違う
心配そうに見あげてくれるキァナの前に、透夜はかがむ。
『親が暗殺しようとしている』告げたらきっとキァナを追いつめる。
だから、ただ聞いた。
「身分を捨てて、平民になることになるけど。それでもよかったら、うち、来る?」
ぎゅう、と唇をかんだキァナは、何もかもを悟ったように目をふせた。
長い水のまつげが、ふるえてる。
「……トゥヤと、行く」
そうっとのばされた手を、ぎゅっと、つなぐ。
「よし」
抱きあげて、笑った。
目をまるくしたキァナの顔が、真っ赤になって、ふうわりほどける。
「で、でも、とーやは、僕のなんだからね!」
闇衣のすそを引っ張って見あげてくれるロロァが、天使だ。
ててれってってってー!
キァナが仲間になった!
喜ぶ間もなく、透夜は目を細める。
「なるべく早く、ずらかった方がいい。暗殺者が来るかもしれない」
見開かれたキァナの瞳が、かすかに揺れる。
「……僕はほんとうに……いらない子なんだね」
壊れそうなつぶやきをさらうように、抱きしめた。
「親がくそなことを、哀しまなくていい。苦しまなくていい。そんな気もちさえ、もったいない」
さらさらの水の髪をやさしくなでて、ささやいた。
「誰かに求めるんじゃなくて、自分で自分を大事にできたら、自分で自分を大切に思えたら……自分を愛せたら、きっと、世界が変わってく」
くしゃくしゃちいさな頭をなでて、笑う。
「それでも欲しいなら、俺が言ってやるよ」
まっすぐキァナの瞳を見つめる。
「キァナが、たいせつだ。
生きてくれたら、俺が、うれしい」
ちいさな顔が、ぐしゃりと歪んだ。
「……僕のものに、なってくれないくせに──!」
ちいさな拳に胸を叩かれた透夜は、ふるえる身体を抱きしめる。
「キァナだけの誰かを見つけるまで、俺が、キァナを守る」
心からの言葉だった。
「……トゥヤは、だめ……なの……?」
涙の瞳で見あげられたトゥヤは、切ないモテ期を実感した。
いやモテてるんじゃなくて、子どもに懐かれてるだけとか、聞こえないから!
初めてやさしくしてもらったから勘違いしてるとか、痛いくらいわかってるから!
モテるなんて、ものすごく、うらやましくて、楽しいことなんだと思ってた。
でも、身体も、心も、ひとりにしか、捧げられないから。
「ごめんな、キァナ」
ささやいて、そっと腕を解く。
「俺のあるじは、ロロァさまなんだ」
心配そうな涙に揺れていたロロァが、真っ赤になって跳びあがる。
「トゥヤの、いじわる!」
ふんと顔を背けたキァナが、涙の上目遣いでロロァをにらんだ。
「これからって可能性もあるんだからね!」
わたわたしたロロァが、涙の上目遣いで透夜を見あげる。
「ふ、ふぇえ、とーや、もてたら、やだ──!」
しがみついてくるロロァを抱きあげた透夜は、首をふる。
「最初にやさしくしてもらったら、かっこよく見えるものなんだよ」
せつなく、ささやいた。
つらい目に、苦しい目に遭ったからこそ、ちょっとやさしくしてくれた変なの(透夜でないことを祈る)にひっかかりそうでとっても心配だ。
皆がちゃんと相手を見つけるまで見守りたい!
暗殺者からも、物理的にも守らないとね。
だからきっと
「モテじゃないと思うんだな……」
自分で認めました。
ありがとうございました。




