お昼なのに
確かキァナは帝太子の側近になるはずだ。
帝都学院での3年間がゲームの舞台で、メイン攻略キャラは勿論帝太子だ。
その側近たちやクラスメイトが攻略対象として、学院の先生や隣国エゥゲ王国の王子が隠しキャラとして登場する。
主人公が奇跡の治癒魔法使いとして、平民として初めて帝都学院に入学してきて、恋がはじまるという鉄板の展開だ。
治癒魔法士は大変貴重な奇跡の子なので、どの貴族も欲しがる。
逆ハーし放題な環境がかんぺきの『どき☆ワク☆イケメンパラダイス♡』
『一度に何人落とせるか、BLゲームマスターとしては是非とも挑戦せねばならぬ!』とか言ってプレイしてる時はウハウハで大変楽しかった。
「はー、ちっちゃいキァナ、かわいーな。おっきくなっても細くて色っぽいんだよなー」
じゅるり。
お、涎が。
やばいやばい。12歳の反応じゃなかった。
さらにお仕事中だった。
透夜はあわてて口元を拭う。
お仕事モードに切り替えだ。
「なるほど、伴侶候補でもあり、側近候補でもある訳か」
となると、やはりここは、攻略対象が勢ぞろいの場か……?
いや、学院の教師や隣国の王子は流石に来ないだろう。
隠しキャラだしな。
隠れててもらわないと。
透夜がうむうむしている間にも、眼下はどんどん、にぎやかになった。
次々に馬車がやってきて、めかしこんだ令息たちが降りてくる。
『帝太子の伴侶になるんだ!』意気込んで可愛く着飾っている子もいれば、親に無理矢理連れてこられたのだろう、ふてくされている子もいる。
側近候補を狙っているのだろう、帯剣している騎士見習いっぽい子もいて
「お預かりします」
騎士に剣を取りあげられてた。
お茶会だからな。
「く──!」
くやしがっている赤毛は、見覚えがあるような? 攻略対象?
従僕が次々に呼んでくれる名と、帝太子の対応を書き留めていた時だった。
殺気が、香る。
影が、跳んだ。
その瞬間、透夜は屋根から飛び降りていた。
騎士は、間にあわない。
敵が、速すぎる。
あれは、暗殺者だ。
精霊さんに頼むより早く、意を汲んで透夜の願いに応えてくれる。
ドォン──!
風魔法の衝撃を背に加速、飛んだ透夜は振り下ろされた剣を止めた。
ガキィ──!
「な、にィ──!?」
闇衣の暗殺者が、目をむいた。
いや、昼間に闇衣とか、なくない?
同業者として突っこんでしまいながら
ガァン──!
暗殺者の剣を弾き飛ばし、返す柄でこめかみを横から思いきり殴りつける。
「が、は──!」
昏倒する暗殺者を転がし、透夜に続いて降りてこようとしてくれた紅蓮と木蓮を、目だけで制した。
『暗殺者が他にもいるかも。そっちの捜索を頼む』
言わなくても、唇を動かさなくても、視線だけで思考を読んでくれる。
今までずっと、そうしてきたから。
うなずいた紅蓮と木蓮が散る。
後方に展開していた仲間たちが、援護と他の暗殺者の探索に前に出てきてくれる。
「……ぁ、トゥヤ……?」
ちいさな声がした。
陽の髪が、ふるえてる。
見開かれた緑の瞳が、透夜を見あげた。
ちいさな頭のうえには、ちっちゃな王冠が、ちょこんと載っていた。




