任務だよ!
失態かもしれない記憶を押しやった透夜は、食卓に広げた地図をにらんだ。
「お茶会は冒険者同盟からの情報によると、この庭園で行われるらしい。馬車はこう入って、ここが車止め、ここからこう、徒歩になる。おそらく警護は、こうなると思う」
皆で描いた地図のうえに、透夜が赤いインクで衛士の配備を点で描きこんでゆく。
見つめた紅蓮と常葉がうなずいた。
「だから俺たちの侵入経路は、こう。俺と紅蓮と木蓮で行こう。何かあった時の後方支援隊として、皆を、ここに配置したい。昼間だからな、なるべく見つからぬよう、視界を広く取れるよう、屋根の上で腹這いがいいと思う」
皆の経路と待機場所を青で描きこんでゆく透夜の手元を、皆が確かめる。
「常葉、柳、藤は、ユィルとロロァさまを、この家で守ってくれ」
「わかった!」
『いちばん強い』に気をよくしてくれたらしい、藤、柳、常葉が笑顔でうなずいてくれた。
「とーや、危ない?」
ロロァが心配の目で見あげてくれる。
天使だ。
「だいじょーぶ。ちょっとお仕事してくるだけだから」
ロロァの髪をわしゃわしゃなでる。
くすぐったそうに首を竦めたロロァが、恥ずかしそうに笑った。
天使だ。
「トゥヤ、昼間だから、気をつけて」
ユィルが心配そうに見あげてくれる。
天使だ。
「ありがとう、ユィル。がんばってくるよ」
「お、応援、してる」
きゅ、と拳をにぎってくれる。
天使だ。
夜の任務は闇衣に身を包むが、昼の任務は任地にあわせて装いを変える。
帝宮は白石で建てられているので、今日の装束は真っ白だ。顔も白いフードを被って、髪の色が目立たないようにする。
しかし帝都では、めちゃくちゃ目立つ。
「正義の味方のおじちゃんだ!」
指されては大変なので、白い衣の上から風通しのよい、だぼっとした麻の服を着る。
ちょっと暑くて、もこもこだが、問題ない。
こんなもので弱るほど柔弱な者は、孤児仲間にはひとりもいない。
というより、弱った者は、儚くなってしまった。
思いだすたび、えぐられる思いを、振り切る。
──もう誰も、死なせない。
「行こう」
「おー!」
拳をかかげて笑うようになってくれた皆を守るためにも、完璧に依頼をこなしてみせる!
攻略対象たちには、一切近づかないように頑張ろう──!
透夜と紅蓮、木蓮は、お茶会のはじまる一刻前から庭の近くの建物の屋根に張りついた。屋根の色は確認してある。それぞれの配置にあわせ、最適な色になるよう染色を調整した。隠匿の基本技だ。
透夜たちに何かあった時に、すぐフォローして逃走できるよう、周りの建物に、空と皆が屋根に腹這いになって待機していてくれる。
それぞれが監視の目を光らせていた。
ふつうの衛士は、来客や不審者や木陰や物陰を警戒するが、屋根の上まで警戒しない。
たまに敏い者が上を見あげたりするが、殺気や気配を漏れさせるような者は、透夜の仲間にはもういない。
頭のうえに鳥が止まって、困るくらいだ。
「ピピピピピ!」
かわいい声で鳴くのをやめてほしい。
皆が見るから!
「ぷくくくく」
近くの建物の屋根のうえで、紅蓮と木蓮が笑ってる。




