ぎわく
「支部長!」
メメの声も、ふるえてる。
殺気をぶつけられたのは、初めてだったのかもしれない。
首に刃をあてられるように、恐ろしいものだという。
そんなものにまみれて生きてきた暗殺人形の皆は、殺気を完全にコントロールできる。
殺気をぶつけて相手の間合いを外したり、踏みこむ隙を作ったりできる。
感情がないから、微塵も殺気を放たず、刈ることもできる。
──おそらく、今も。
冒険者たちは農作物に被害を及ぼす獣を狩ったりするのが仕事で、人間を相手にしていない。
だから対人の殺気に慣れていないのかもしれなかった。
「きみたちがどう出るか、どんな人なのか、知りたかったんだ。試すような真似をして、すまなかった」
汗でびっしょりの、ぴかぴかの頭を下げてくれる。
「ご、ごめんなさい」
メメも一緒に頭を下げてくれた。
透夜が殺気をほどくと、皆からも殺気が消える。
獲物をしまうのも一瞬だ。
音さえ立てない。
それは熟練の暗殺者の所作で、とても子どもが行えるものではなかった。
支部長とメメの顔が青くなる。
「色々あってね、俺たちはしばらく帝都で暮らしていかなきゃいけないから、できればよい関係を築きたいんだけど」
透夜の言葉に、支部長は色を失くしたままの顔でうなずいた。
「あ、ああ、本当にすまなかった。儂は冒険者同盟バギォ帝都支部を任されておる支部長のボホだ」
差し出されたごつい手をにぎる。
「『よい子の隠密団』の透夜です」
初対面の印象が最悪だったので、握手はちょっと気まずい。
しかし、これが大人の階段なんだな。
──あれ……? 前世の俺、大人だったよな? も、もしかして、こーゆーことが一切なかった、だめな大人だった……!? BLゲームしかやって来なかったのか──!
引きつる透夜の前で、ボホは長々吐息する。
「……これでも名の知れた冒険者だったんだが……きみたちは一体……いや、止めておこう」
ぴかぴかの頭を振ったボホは、きらきらの羊皮紙を示した。
「これはとある大国の宰相殿からの依頼で、断ることはできない。だが残念ながら我が支部に、帝宮の警護を潜り抜け、帝太子のお茶会に気づかれずに潜入できる腕の密偵がいない。我らの窮地なだけではない、ろくな冒険者がいないとなると、我ら帝都支部の名声が失墜する。冒険者の皆に渡る仕事が激減、酷い場合は消滅する。きみたちに仕事の紹介ができなくなる」
透夜は肩を落とした。
「最初っから、そう言ってくれれば──」
ため息をつく透夜に、メメが泣きだしそうな瞳で叫んだ。
「ごめんなさいごめんなさい! だってかわいー子はいじめたいっていうか、どう見たって、めちゃくちゃチョロそー……あばばばば!」
……………………。
あれ?
今世の俺、スパダリじゃなかったっけ?




