おうち求む
惨敗にぷるぷるする透夜の隣で、ユィルと孤児仲間たちの目が生温かくなって、ロロァが不思議そうに見あげてくれる。
天使だ。
無残な敗北から気を取り直すように、透夜はふたたび髪を掻きあげた。
まだ12歳くらい? なので、ちみっちゃい子どもだが、なるべく堂々と見えるように、唇を開く。
「雇い主に突然、契約を解除されちゃってさ、住むところがなくて、困ってるんだ。ボロでいいから、貴族とかの息が掛かってない、皆で寝られるような屋敷、できたら一軒家、ないかな?」
透夜の言葉に、眠そうだったおじちゃんが目をむいた。
「子どもばっかを集団解雇か、ひでえ雇用主だな」
「だろ!?」
「ちょっと待ってろ、確か帝都の外れに農家の備蓄小屋が──」
後ろの部屋に引っこんで、書類をごそごそしてくれるおじちゃんに、ユィルのほうが目をむいた。
「……冒険者同盟で、家まで斡旋してくれるのか?」
「大陸中から流れてきて依頼をこなして生計を立てる冒険者が一番困るのが『宿や家をどうするか』だと思うんだよ。同盟なら、困りごとの相談にも乗ってくれるかなって。重傷で運ばれてくる冒険者のために、夜中も開けてくれてるみたいだし」
「あったあった!」
おじちゃんが持ってきてくれた羊皮紙には、物価のよい時に売れるように農家たちが作物を備蓄しておく倉庫の簡単な絵と見取り図が描かれていた。
「作ったはいいが、近くで砂金が採れるって噂になってな、皆、農業止めてそっちに行っちまってさ、荒れ放題だし買い手もつかねえしで、叩き売りだよ」
提示された金額が、高いのかリーズナブルなのか今ひとつ相場がわからないが、うむうむしておいた。
スパダリっぽく見えるように!
「この家が買えるくらいの依頼ってあるかな」
「いくら叩き売りっつっても、家だからなあ。土地つきの。ちっと値が張る。ってことは依頼の難度もそれなりだ。ぼっちゃん、腕はあるのかい」
ふふんと透夜は力こぶを盛りあげてみた。
ちょこっと、盛りあがった。
「うぷぷぷぷ」
孤児仲間たちが、後ろで笑ってる。
感情がどんどん戻ってきたようで、大変よろしい。
ユィルが、恥ずかしそうに目をそらした。
ロロァがぱちぱち拍手してくれる。
「とーや、すごぃ!」
天使だ。
「……あぁ、まあ、うん、そうだなぁ、ぼっちゃん、得意なことは?」
「隠遁、偵察、監視、暗殺」
あ、最後のは、うっかり。
目をむいたおじちゃんが引きつった。
「てへ♡」
笑って、ごまかしてみた!
「うくくくく」
孤児仲間たちが、後ろで笑ってる。
ユィルが、恥ずかしそうに、うつむいた。
ロロァがぱちぱち拍手してくれる。
「とーや、すごい!」
まごうことなき、天使だ。
「さ、最後のは聞かなかったことにしとくぜ」
ちょっと青い顔になったおじちゃんは、依頼書が貼られた掲示板を見ることなく、奥の部屋に引っこんだ。書類を掻き回してごそごそしてから戻ってきてくれる。
「ぼっちゃん、窃盗の才はあるかい」
おお、すごい質問来た。
「スリは難しいな。アレは技術だ。鍛錬が要る。置いてあるものを盗むなら、偵察の一環でできると思う」
悪役だからな。
窃盗くらい、サクっとこなさねば!
よい子や、やさしい人から盗る依頼なら、受けないけど。
ひどいことする輩から、いただいちゃうのは、ねえ……?




