でっかく!
「だ、だが、あんまり目立つと、国外逃亡するのに不都合なんじゃ……」
心配してくれるユィルに、透夜はどーんと胸を張る。
「名を揚げれば、堂々と国を出ることができるようになるかもしれない」
ニィ、と透夜の唇が弓を描く。
「せっかくだから、でっかい悪役になってやろうぜ! この国を倒せるくらいに!」
「おー!」
ちっちゃい拳をかかげてくれるロロァは、たぶん意味がわかってない。
天使だ。
「……お、おー」
恥ずかしそうに、ちょこっと手を挙げるユィルが、天使だ。
によによする透夜に、孤児仲間たちの生あたたかい視線が降りそそぐ。
何の感情もなかった、まさしく人形だった皆の顔が、少しずつ少しずつ動いて、眉をしかめたり、目を細めたり、ほんのり笑ったり、生あたたかい目で見つめてくれたりする。
ほんのちょっと前までのことを思うと、奇跡だ。
「感情が生まれてきたみたいで、ほんとに、よかった」
皆の肩を叩いて笑ったら、皆も笑顔になってくれる。
おお!
表情筋も仕事をするように!
「なまえ!」
「なまえつけて、トゥヤ!」
……12人分の名前……ちょ、ちょっと待ってくれないかな!?
「名前は大切だから、じっくり考えたい。どんどん夜も更けてきたし、このままじゃ夜明けだ、何とか皆が住める拠点を考えないと──」
透夜の提策に、ユィルは残念そうに首を振った。
「私が所有する別邸や離宮は、すぐ足がつくだろうな」
心当たりを考えてくれたらしいロロァも、残念そうに首を振る。
「ギビェ家のものには、近づかないほうがいいかも……」
しょんぼり肩を落とすユィルとロロァに、透夜は胸を叩く。
「やっぱりここは、スパダリ(自称)な俺の出番じゃないかな!」
胸を張ってみた。
ロロァもユィルも、孤児仲間もきょとんとしてた。
なのにロロァは、きゅっと衣のすそをにぎってくれる。
「とーや、頼りに、してるの」
真っ赤なほっぺで、見あげてくれる。
「あぁ!」
わがきみが、天使だ──!
その期待に、是非とも応えたい!
透夜は、壊されたはずの頭の中の情報をサーチする。
個人的記憶は徹底的に破壊されているが、身体記憶や、業務に必要な記憶は生きているらしい。
異世界の文字が読めるのも、そのためだと思われる。
建物の位置や邸内の様子を記憶することも、業務記憶だ。ということは──
苦心して探すより早く、透夜の頭のなかに、帝都の裏道まで詳細な見取り図が浮かびあがる。
この世界には珍しい、ほぼ24時間営業の冒険者同盟の3階建ての邸の位置もばっちりだ。
しかし、入ったことはない。
暗殺人形は暗躍しかしないので、表舞台に出たことは一度もなかった。
だがここは年長者だ。
『おお、頼りになるスパダリ!』と思ってもらえるように、胸を張らねば!
皆を引率した透夜は、冒険者同盟の明かりの前で息を吸った。
中が見えて安心安全をアピールするように、ふつうの扉の丈の半分しかない、向こうが見渡せる両開きの扉を軽く手で押し開けた透夜は、さも常連のように手を挙げる。
「やあ、こんばんは」
決まった!
髪まで掻きあげてみた。ばっちりだ。スパダリっぽい。
うむうむ満足する透夜に、受付のおじちゃんは眠そうな目を擦った。
「どした、子どもは寝てる時間だぞ」
──はい、惨敗です。
ありがとうございました。




