もしかして到来?
見えない壁を見つめても、何も思い浮かばなかった透夜が振り返る。
「あるじ、どーしよー。ユィルの伴侶に、なってみちゃう?」
「私には聞いてくれないのか!」
ユィルが涙目だ。
「順番に聞こうと思って」
「な、ならいいんだ」
すんすん鼻をすするユィルのちっちゃな頭をなでなでしたら、ロロァが頭を差しだした。
「ぼ、僕も、とーや!」
……天使か!
なでなでしてみた。
ロロァの頬が、とろけてる。
「そ、それで、あの、ユィルと結ばれる気持ち、ある?」
緊張の面持ちで聞いてみた!
身体の前で指を組んだロロァが、もじもじしてる。
天使だ。
「……あ、あの、あの、ね、僕……」
きゅうっと、そでを引かれた。
「……とーやが、いー」
………………!?!!!♡♡♡♡♡
ばくはつするかと思った。
命のぴんちだった。
「……ぜーぜー、はーはー……」
がくりと膝をつく透夜に、ロロァの大きな藍の瞳が、うるうるだ。
「……とーや、いや……?」
「いや全く全然違うんです! ちょ、ちょっと発作が──!」
隣で、ぷっくりユィルがふくれてる。
「トゥヤの、あんぽんたん」
ぎゅっと唇を噛んで、ほんのり赤い頬で、上目遣いでにらむユィルが、可愛いよ!
「なんだ!? 前世の俺には一切来なかった、微塵も来なかった、欠片さえなかったモテ期が、まさか今来たのか──!? ちょっと早過ぎないかな!?」
透夜、12歳。
ロロァ、5歳。
ユィル、6歳。
何もできない。
ぼうぜんとしている間に、モテ期が終了するに違いない。
成長した暁には『ああ、昔にそんなことがあったよね。初めてやさしくしてくれた人だったから、すごくかっこよく見えたんだ(我に返ったらそうでもなかった)』確率120000000%だ!!!
しかし今は、打ちひしがれてる場合じゃない。
後でゆっくりじっくり、この辛いモテ期を噛みしめよう。
12歳の透夜、6歳のユィル、5歳のロロァ、生まれたてな感じの孤児12人の仲間たち、となると引率するのはどうしたって透夜だ。
「と、とりあえず、ほら、紙のうえでの伴侶ということで、結界が通れるようになるか、やってみましょうか。皆の命の危機ですからね!」
子どもたちを引率するお兄ちゃんになった気分で役場に行こうとした透夜を、ユィルのちっちゃな指が止めた。
「待て。私の出生証明書は、提出されていない」
「……え。そ、そうなの!?」
こくりとユィルはうなずいた。
「トゥヤも、孤児の皆もないぞ。身分証も通行証も作れない。国外に出るには裏の道しかない」
ユィルはロロァに目を落とす。
「きみの死亡証明書も、遠からず受理されるだろう。トゥヤが死亡工作をしたからな」
「……ずさんって言ったのに」
ふくれる透夜に、ユィルはまるで大人のように嘆息する。
「邪魔な者は、死んでほしいんだよ。どこの家も。
きみは憎まれ、虐待されていたんだろう、継母と義理の弟と、きみが邪魔になった父親に」
ガリガリの手足と、あざだらけの身体に、ユィルはすべてを理解したのだろう。
ひとめで分かられるほど、ロロァは傷つけられてきた。
今までたすけられなかったことが、傍にいられなかったことが、たまらなく、くやしい。




