ただしい悪役
確か6歳だった、ロロァより1歳年上の、ちっちゃなユィル殿下の前に、かがんだ透夜は、目を合わせる。
氷の瞳を、のぞきこむ。
「せっかくです、俺たちと一緒に、逃げませんか」
「……え?」
「最低な国に、さよならを」
透夜の手が、ユィルの手を包む。
「俺たちは、自由です」
見開かれた氷の瞳が、揺れる。
「……49番……」
「それは名ではありません。透夜と」
瞬いた氷の睫が、ふせられる。
ほんのり、まなじりが朱に染まった。
「……トゥヤ」
ちいさな声が名を呼んでくれた瞬間、きゅ、とちいさな指に、すそを引かれた。
「と、とーやは、ぼ、僕の、なんだから!」
ぎゅうううう
透夜の闇衣をにぎって、涙の上目遣いで、真っ赤な頬で、すねた唇で叫んでくれる、天使がいる。
「暗殺人形にされた皆とユィル殿下と、わがきみと俺で、逃げましょう。
ちょっと大所帯になりますが、監視と偵察を売りにした密偵屋でもやれば稼げるんじゃないでしょうか。
とりあえずこの国を出ましょう!」
断罪を、悲惨な最期を阻止するためには『どき☆ワク☆イケメンパラダイス♡』の世界から遠ざかることが大切だ!
全然、全くBLゲームマスターの方針じゃないが、ロロァを守るためだ。
ついでに暗殺人形の皆も、ユィル殿下も守れるなら、うれしい。
「……国を、捨てる、のか」
ユィルの瞳が、さまよう。
「このまま、お母上やお父上の傍で、暗殺されることをお望みですか?」
ユィルは笑った。
みずからを、嘲るように。
「……両親の、ほんとうの気持ちは、知っている。私が生まれた時は、皆が祝福してくれると思っていたのだろう。だが糾弾されて、汚点と言われるようになって……もう私に、死んで欲しいんだ。だから、暗殺人形しか下賜されなかった。……皆殺しにしても、何の証拠も残らない者たちだけ」
ユィルのちいさな顔が、歪む。
「大きくなって愛玩動物として足らなくなったら、殺す気だった。
そう遠くなく、私は……殺されていた」
「ゲスめ」
吐き捨てる透夜に、ユィルが瞬く。
「孤児を暗殺人形にする帝家なら、当たり前のことなのかもな。
……フフフフフ」
突然笑いだした透夜に、ユィルもロロァも、ビクリとふるえる。
暗殺人形たちは、初めて世界を見るように、ぼんやり皆を見つめていた。
「くそな国に生まれた、くそ民な俺たちは、ちょぴっとでもクソじゃない方へ向かうために尽力する義務がある。
虐げられた皆で強大になって、この国を、ブッ潰してやりましょう。
それこそが正しい『悪役』ってもんです」
透夜は力こぶを盛りあげる。
「腐った帝家を、王を、撃ち倒す力になってやりましょう!」
ぽかんとユィルは口を開けた。
「とーや、すごぃ!」
ぱちぱち拍手してくれるロロァは、何が何だかよくわかっていなさそうだが、とりあえず、ほめてくれる。天使だ。
「……そうか、私は……反逆して、いいのか」
ぼうぜんとつぶやくユィルに、うなずいた。
「皆、生まれながらに、自由です」
ほんのり頬を染めたユィルが、うなずく。
「トゥヤと行く」
ちっちゃい拳をにぎって見あげるユィルの目から、死んだような氷が、はがれ落ちた。




