転生ぱわー
「とーや!」
くるりと腕のなかで、透夜を振り向いたロロァが、ぎゅうぎゅう抱きしめてくれる。
もうふるえなくなったその背を抱きしめたら、溜め息が落ちてきた。
「まるきり私が、悪者じゃないか」
「ご自覚があられるんですね」
思わず突っこんだ。
目をまるくしたユィルが、声をたてて笑う。
「はは! 私にそんな口を利いたのは、きみが初めてだよ。
49番じゃなくなったの? きみが、49番に名をつけた?」
ロロァの顔をのぞきこもうとするユィルを、透夜はその身体で遮る。
「前世の記憶を思いだしまして。感情もそれで戻りました。透夜は前の名です」
「ぜんせ?」
氷の瞳が、瞬いた。
「ファンタジーです」
「ふぁんたじー?」
首を捻ったユィルが、喉の奥で笑う。
「私が知らないことが、この世界にまだあるだなんてね。益々49番は手放せないな」
薄い唇が、弓を描く。
「私の下僕にお戻り」
有無を言わせぬ声に、胸を張って透夜は微笑んだ。
「謹んで、お断り申しあげます」
ビキリと氷のかんばせが、歪む。
「……へぇ。私に刃向かうと死ぬけど?」
こてりと首を傾げて微笑むユィルに、透夜もにっこり笑った。
「暗示と洗脳なら解除しました」
「それはそれは、優秀だなあ。……ほんとうに?」
ユィルの氷の目が細くなる。
キィイィン──!
頭のなかに走る異音と、まるでゲームの強制力のような、頭のなかを掻き回す感覚に、透夜は目を細めた。
49番の心と身体を縛り続け、感情を壊し、記憶を壊し、指令を遂行するためだけの暗殺人形へと変える、呪術のような暗示と洗脳は、帝家が千年掛けて造りあげた秘法だという。
降り積もる時と、降り積もる憎しみと怨みに縛りあげられるように、透夜の頭が悲鳴をあげた。
49番なら、耐えられなかった。
この痛みと苦しみの先に、何があるのか、知らなかったから。
でも透夜なら、ブチ壊せる。
今なら、きっと。
透夜の魔力を喰らい続け、強大になった精霊さんたちが、透夜の頭のなかで輝いた。
指先が、額が、髪が、きらめいた。
莫大な光が、あふれてく。
パァン──!
今まで49番を縛り続けた、呪いのような暗示が、硝子のように砕け散る。
暗示を、壊す。
洗脳を、壊す。
願わないと、叶えられない。
ずっと、ずっと、願うことさえできなかった49番は、正しく暗殺人形だった。
それを透夜だけでなく、孤児仲間の皆にも強いた帝家に対する憎しみが噴きあがる。
「せっかくなので、皆の暗示も壊しましょう」
唇の両端を吊りあげる透夜に、ユィルが目をみはる。
「な──!」
「転生者、なめんな」
透夜に襲いかかろうとしていた暗殺人形の皆が、止まる。
集中する透夜のなかから、あふれる魔力が、噴きあがる。
精霊さんたちが、力を貸してくれる。
──どうか、皆に、心を。
祈りが、ひかりに変わってゆく。
パァアァン──!
闇衣に包まれた皆の額で、まばゆい光が、弾けた。
感情も記憶も、すべてを壊された虚ろな瞳に、微かに光が射した。
まるで今、生まれたみたいに、ぽかんとした瞳が透夜を見つめる。
殺意が、消えた。




