さようならバス
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朝のバスはいつになく、とんでもなく混んでいた。いや、その表現は適切ではない。何かの詰め放題の袋のように人・ひと・ヒトで埋め尽くされている。
苦しい・・・。きのう焼酎を飲みすぎたようだ。ユーチューブをあれこれザッピングしていたら、あっというまに日付は変わり、2リットルパックも空になり気づけば3時をいくらか過ぎていた。よく6時に起きれたもんだ。
気持ち悪い。頭が痛い。眠い。喉が渇く。神様お願いします、ぼくの体内のネガティブ要素をすべて取り払ってください。無理か。知ってる。
あー、吐き気がしてきた。というか、この前に立ってるおじさんのポマードか何かわかんないけど、整髪料の匂いがエグいんだけど・・・。それに体臭もひどいなぁ、ワイシャツの襟が黒ずんでるし。
あー、ほんともどしそう。後ろに立ってる同年代のマッチョくん。股間が当たってるんだよ、もうずーっと。ぼくのお尻にその不快な温もりはいらないから。あんた自覚あるよね?半身ずらしてくれよお願いだから。
あー、もう喉元まできてる。マジでやばいって。顔を左に向けると厚化粧のおばさんと目が合った。きつい。香水つけすぎだって、あんた。顔と首の色が明らかに違うって。もっと明るい鏡面の前でお化粧されてはどうですか?余計なお世話ですね、すみません。
あー、限界が近い。たまらず右に顔を向けると、いかにもヲタ風のまばら髭がこちらを向いてあくびをしていた。うおーっ!吐く。くち筋肉。漏らすな一滴たりとも。口臭がえげつないって!!がまん、がまん、がまんしろ。さらにこの男はワキガだよ〜っ。死ぬって、マジで。がんばれ、がんばれ、がんばれ。せめて吊革を持つ手を逆にしてくれ~っ!!
頭が沸騰しかかってる。どうしたらいいんだ?バス車内の中央付近でまったく身動きできないこの状況。目的地はまだ先だけど、とにかく次の停留所でいったん降りて、吐こう。もう手で口を押さえてないとすぐに出る。
誰か窓を開けてくれ。みんなわかってるでしょ、この車内の空気を。もうどぶだよ、どぶ。というか、次のバス停まで遠くない?あとひとつでも負荷要素が加われば、ぼくはマーライオン確定です。
脂汗が背中をしたたる中、ようやく車内アナウンスがあり、バスは停車した。だが、前後の扉が開く音は聴こえたが乗降の気配はまったくない。あわてて、ぼくは降りますと口を開いたつもりだったが・・・。