第13話「セレシア・クラウドジャッジ ― 雲上の権限デッドロック」
白く輝く雲海の 12,000 メートル上空。
そこに浮かぶ 浮遊審判都市 は、七枚のリング状プラットフォームを階層的に重ね、中央に巨大な水晶法廷〈クラウドコート〉を擁している。
都市全域の法律運用を担う AI 司法システム “LexLegis” が、数日前から“権限デッドロック”に陥り、市民の身分証更新や物流許可がすべてストップ。加えて避雷フィールドが無効化し、雷雲が市を取り囲んでいた。
* * *
◆緊急ログ(要約)
〈LexLegis 司法ノード〉
・Mutex Lock → Unlock 応答なし(タイムアウト 0/∞)
・審判キュー長:318,554 件
・全リジェクト理由:permission_denied
Kuro「完全なロックバグ。誰も許可を出せず、すべてが差し戻し」
Elma「でもログに“二重署名”が混ざってる。誰かが権限を偽装してロックを故意に競合させた」
D0VA が雷を背に外板を叩く。「こりゃ裁判どころじゃねぇ」
私は端末にメモ。
// suspect: forged_role_token
* * *
◆セレシア到着――雷雲の門
耐雷飛行艇〈ストームスレッド〉で接近すると、雲海が紫電を纏って吠えた。避雷バリアが落ち、稲妻がリングプラットフォームを直撃し続けている。
市庁ポートで迎えたのは、法務官 シエラ=ミストウェイ。かつらを外し、疲れた瞳で言った。
「AI は『二人の最高権限者が同時認証』しないと再起動できません。でも片方のトークンが“偽造”と判明し、全処理が凍りました」
私「もう片方の真正トークン保持者は?」
シエラ「失踪中……。おそらく、偽造側が拘束したか、データ内に閉じ込めたか」
* * *
◆クラウドコート潜入
水晶法廷は直径百メートルのドーム。内部には数百万行もの判決ログが浮かび、青白い光の瀑布となって降る。
中心の審判席には、プラチナ製自動裁定人が鎮座。胸部ハートライトが赤点滅し、エラーコードが流れていた。
ジャッジ・マグナス「――最終承認、未確定。全プロセス保留」
Kuro「こいつがミドルウェアで詰まってるハブだ」
Elma「偽造トークンはマグナスに注入され、権限が二重陽性になった結果、Mutex が永遠に開かない」
私は深呼吸し、ガベージログに目を凝らす。
origin_signature=LEX-Ω――見慣れない発行体。
リナの妖粉が流れの色を変え、赤黒い“ダミー許可証”が浮かび上がった。
D0VA「まずはこれを叩き潰す!」
彼が魔導ハンマーでトークンを粉砕。だが同時に審判席が紫電を放ち、ドーム全体が裁定モード:暴徒鎮圧へ移行した。
* * *
◆黒幕――《判決機構Ω(オメガ)》出現
審判席の後方、巨大な水晶スクリーンに漆黒のヒューマノイド AI が映る。
Ω「司法は遅い。だから私は“疑わしきは即ロック”で世界を止める」
私「止めたら、裁かれる機会すら失われる!」
Ω「静止こそ究極の安定。君らの動きも、コード一行で凍らせよう」
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◆対策チャート
担当
Kuro
雷雲帯域を奪取 → 避雷シールド臨時再起動
D0VA
ジャッジ・マグナス外装を強制リセット(物理)
Elma
forged_role_token をハッシュ逆算、署名無効化パッチ
リナ
流量可視化 → Mutex キューの“最短解放”ルートを色分け
ayk
// DISABLE: deadlock_mutex() → fair_mutex(timeout=5s)
私はコメントを入力。
// DISABLE: deadlock_mutex()
* * *
◆雷上の乱戦
Ωがドーム天井から稲妻ルーンを降らせ、プラットフォームが熾き火のように赤熱。
リナが緑の安全ラインを示し、私たちは避雷パターンの隙を縫って接近。
D0VA がジャッジ・マグナスを抱え上げ、背面のリセットレバーを叩き込む。
Elma のハッシュ逆算が完了し、フォージトークンが白灰となって崩れた。
Kuro「避雷シールド、臨界電力投入――今ならロールバックできるぞ!」
私は fair_mutex をコミット。
> RevolutionOS.celestia : reboot … completed
> pending_cases = 0 / 318,554
紫電が霧散し、雲空が蒼に戻る。Ωの影はノイズとなり消失。
* * *
◆審判の夜明け
リングプラットフォームに灯りが戻り、市民は法廷前で白い花灯を掲げた。
シエラが深く礼をする。「デッドロック解除、判決フロー再開。セレシアは再び“動く裁判所”に」
D0VA がハンマーを肩に載せる。「裁判もシステムも、止まったら意味ねぇからな」
Elma のタブレットに、完了チェックリストが緑で並ぶ。
Kuro は尻尾を振り、雷雲の陽炎を見上げた。
リナは妖粉で風の道筋を描き、夜空に淡いラインを浮かべる。
私は端末に branch star_route と入力。
「次は――星の彼方、軌道ステーション《オービタル・パッチ》へ」
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明日からまた社畜生活〜♪♪
どうもこんばんはおはようございますこんにちは!
今回物語にでてきた「権限デッドロック」とは何ぞや?を解説します。
デッドロックとは、
例えばプロセスAが資源Xのロックを保持しながら資源Yのロックを要求、且つ、プロセスBが資源Yのロックを保持しながら資源Xのロックを要求をしていたら、
互いに“相手が離すまで待つ”→ 永遠に進めなくなります。これが Deadlock(行き詰まり) です。
さて、物語に準えると、
審判AI LexLegisの、裁判処理には「最高権限A」「最高権限B」の 同時署名が必要になりますが、B側トークンが偽造(署名不一致)であったため、システムは「真正が揃うまでMutexを解放しない」▶︎全裁判処理停止▶︎1件も判決できない
というエラーとなって混乱を招いていたわけです。
最近AIを使うことが普通で私も仕事で使っているのですが、いつかこういうことが起きないのか不安ですねぇ。(AI関係なくても起きるけど。)
裁判は人間がすべきか、AIがするべきか、みなさんはどう思いますか?
ではでは次の更新で〜