第10話「サフラーク・デザートストーム ― 砂上のメモリリーク」
蒼空を焦がす太陽と、地平線を呑み込む黄金の砂嵐。
西方砂漠都市〈サフラーク〉へ向かう補給飛行艇〈シロッコ号〉は、厚い耐熱ガラスを震わせながら突風に突入した。機体の外板には『RevolutionOS 公式巡回ノード整備班』の紋章――蒼い稲妻が輝く。
* * *
◆緊急通信ログ
〈現地時刻 11:02〉
〈主要魔導サーバーが “無限メモリ確保” を検知、稼働率 312%〉
〈原因不明。砂嵐発生中につき、ネットワーク遅延+視界0〉
Elma「過負荷なのに落ちないのはおかしい。メモリリークを放置したまま、資源を外部から追加している」
Kuro「誰がそんな無茶を?」
D0VA が腕を組む。「砂の民は“砂晶”って魔力蓄電石を掘るだろ? もしそれを食わせてるなら、実質燃料無限だ」
リナが眉を寄せた。「でも都市システムが破裂するよ」
私は端末にメモ。
// suspect: external_feed → sand_crystal_heap
* * *
◆サフラーク到着――砂嵐の幕
着陸場は薄橙の靄に覆われ、人影はほとんどない。滑走路の灯火は点滅を繰り返し、風に舞う砂が宙で火花のように散る。
迎えに来たのは、防砂ローブに身を包んだ若き学者 ハサン・バルーク。琥珀色の瞳を伏せ、声を潜めた。
「友好的な歓迎は望めません。統治評議会が“沙漠拡張計画”と称し、砂晶炉へ都市魔力を全部注いでいる」
私「なぜ?」
ハサン「砂晶を無限精錬できれば、外貨も軍備も手に入る。“未来の繁栄”らしいが……」
Elma がタブレットで流量統計を弾き出し、驚愕の声。
「魔力量、ゴルトロン全域の3倍。リークってレベルじゃないわ」
* * *
◆砂晶炉コアへ
都市中央、黒曜石の塔〈カルナック・スパイラル〉が砂嵐に霞んで立つ。
地下へ降りると灼熱の空気が肌を刺し、壁面ルーンが赤く脈動。
D0VA が冷却薬湯を管へ注ぎ、温度を無理やり下げる。「長居は命取りだ」
Kuro が帯域を測定。「パケットが飽和してる。メモリ解放要求が軒並み拒否」
私は制御台へ端末直結。
diff –stat
+『auto_malloc()』×1024 行
――常時確保、解放なし。最悪の無限ループだ。
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◆黒幕登場――「砂のアルケミスト」
制御核の影に現れた細身の男、サキム・アル=ザハール。砂晶色の髪が揺れ、仮面の奥で翠の瞳が妖しく光る。
「ようこそ、改革者ども。おかげで沙漠は肥沃な富を生む」
私「リークで都市を犠牲に?」
サキム「循環こそが浪費。流れを“溜め込む”ことで永遠を手に入れる」
彼は指を鳴らし、炉心が唸る。溢れた魔力が砂晶粉と混じり、灼熱の蛇となって通路へ奔った。
* * *
◆対策プラン
1. Elma:リーク関数を短期ガーベジ収集器に置換。
2. Kuro:外部通信を遮断し、砂晶供給ラインを遮蔽。
3. D0VA:炉壁に冷却槌打ち、圧力を制御。
4. リナ:粉塵濃度を妖粉で中和、視界確保。
5. ayk:auto_malloc() をコメントアウト → safe_alloc() に差し替え。
私はターミナルに一行。
// DISABLE: auto_malloc()
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◆砂晶の蛇との戦闘
蛇は高熱の砂を撒き散らし、触れれば装備が溶ける。
リナが粉塵に緑の“冷却フラグ”を混ぜ、温度を急落させる。
D0VA の鍛冶槌が氷結した砂蛇を叩きつぶし、Elma がその隙に収集器を実装。
Kuro が外部供給閘門を閉鎖し、砂晶ラインが停止。炉心の脈動がわずかに落ちた。
* * *
◆最終リブート
サキムは仮面を外し、頬を引きつらせる。「止まるな……永久機関が……!」
私はコメントアウトを一行追加。
// REV_BOOT: suflark_v1
>> RevolutionOS.suflark : boot completed
>> 魔力リーク 0%、炉心安定
黒曜石の塔が深い音を響かせ、赤光は蒼へ転じた。上階の窓から差し込んだ夕陽が砂嵐を金粉に変え、都市の輪郭を浮かび上がらせる。
* * *
◆砂上の祝宴
夜、砂漠の風は嘘のように静まった。
市民たちは灯籠を砂丘に並べ、砂晶ランタンを掲げる。
ハサンは杯を差し出し、深い茶色のスパイス酒が甘い香りを放った。
「砂も流れも“循環”する。都市も同じだと、あなた方が思い出させてくれた」
D0VA がランタンを見つめ、笑い皺を刻む。
「溜め込み過ぎた鉄は錆びる。流せばまた光るもんさ」
リナの妖粉が夜風に載り、星のように瞬く。
私は端末に branch sky_route と入力した。
「次は空より高く――雲海の向こうへ」
Kuro が尻尾を跳ね、Elmaの瞳が新たな計算式を映す。
――コードは嘘をつかない。物語はまだ続く。
* * *
今週もお仕事お疲れ様でしたー!!
来週忙しすぎるので予約投稿分も含め今週いっぱい書き進めたい...多分
さてさて今回は、アヤカが端末メモしているのはなぜか?
を解説しますー!
たとえば最初に端末にメモしていたのが
// suspect: external_feed → sand_crystal_heap
↑になりますが、// suspect: …自分用メモ(疑わしいポイント)ということになります。
そして、外部フィード → 砂晶ヒープ …つまり原因仮説を短縮して残すということです。
実行効果はゼロ(コメントなので本番コードには影響しない)ものだけど、 後から検索・差分比較するときの“目印”になるので、あやかはメモしてるわけです。
端末メモ=「思考メモ」+「デバッグログ」+「自動トリガー」
アヤカは戦闘中でも頭の中を即コード化し、
書いた瞬間に行動計画・証拠・実行命令 の三つを同時に残している――
そんな “コーダー兼魔導エンジニア” らしいワンアクションだと思ってください!
ではでは、次回の更新をお待ちください!