エピソード14:グアンロンチョン包囲戦③危険!ズイエーのギャングの悪魔的リーダーたち!
グアンロンチョンの中心部では、ヨンチーと15人の警備兵たちが、ピシャーチャの盗賊やブートゥに憑かれた市民たちと激しく交戦していた。
一方、ヌーリーは女性・子供・老人など約20人の市民を率いて避難を指揮していた。
「行くよみんな!急いで共同館に向かうの!」
ヌーリーは持っていた鍬でバイクに乗ってきた盗賊を叩き落とす。
そのとき、ブートゥに憑かれた人々の影が黒い触手のようにうごめき、地面を這い、建物を壊し、人々に襲いかかってくる!
ヌーリーは咄嗟に体を盾にして、市民たちを守った。
「ヌーリー!ムリしないで!死んじまうよ!」
「……私は、そう簡単には死なないわよ。
それに、グアンロンチョンの市民をこんな化け物どもに殺されるなんて、絶対に許せない!」
――その頃、少し離れた場所では。
シュエンウーがブートゥに憑かれた市民の一人を抑え込み、
お経を唱えて、悪霊を追い払おうとしていた。
「……あかん!お経が効かへん……!なんでや……?」
そのとき、シュエンウーの脳裏にヂーハオの言葉がよみがえる――
【言っただろう。お前が俺を倒さねぇ限り、これは止まらねぇ】
『……もしかして、ヂーハオが自分の邪気でブートゥを操っとる……?
せやとしたら……あいつを倒さへん限り、誰も祓えへんっちゅーことか!?』
――同じ頃。ヂーリーの家の近く。
フェイフォンはようやく立ち上がった。
その前に立ちはだかるのは、六本の腕を持つ巨大な盗賊。
筋肉がさらに隆起し、爪が伸びて鋭い鉤爪となり、牙も猛獣のように変貌する。
紫色の妖気が体から溢れ出していた。
「嬢ちゃん、よくもまぁ、うちの手下を九人も倒してくれたもんだ。
だが、たった九人でそんなに苦戦してたようじゃ、俺には敵わねぇよ。俺の名前はヌゥフオ。ズイエーの元リーダーにして、今はヂーハオ様のNo.2だ」
その時、空中に浮いていたフェイフォンの扇子が動く。
姿を現したのは――もう一人のピシャーチャの盗賊。
頭を丸めた禿頭で、服装はまるで少林寺の僧のよう。
だが、全身に刺青とピアスが光り、手にはフェイフォンの金属製の扇子があった。
「勇敢な子だね。正直、ちょっと妬ける。
君の戦い方は……実にユニークだ。
だが残念ながら、ここまでだ。
俺の名はイェンホン。ズイエーの元副リーダー、今は三番手だよ」
「ふーん、なるほどね。
自分の組織内で格下げ食らって、イライラを弱い者にぶつけるってワケか。
あー、いるいる、そういう小物」
次の瞬間、ヌゥフオが突如襲いかかる!
「ッ!!」
右腕の一撃でフェイフォンの身体を宙に持ち上げ、
左腕で首を掴み、さらに第三の腕で頬を強打!
「うるせぇんだよ、このアマ。今からバラバラにしてやるよ……!」
フェイフォンの両腕、両脚をそれぞれ一本ずつの腕で掴み、
残った中腕二本で胴体を左右から押さえ――全方向に引き裂こうとする!
「――ぎゃああああああっ!!」
フェイフォンが絶叫する――その時!
バンッ!!
銃声が響き、ヌゥフオの頭に弾が命中!
一瞬、体がよろめく!
彼とフェイフォンが振り返ると、そこには銃を構えたヂーリーの姿が――
その銃は、フェイフォンが倒した盗賊から奪ったものだった。
「その手を離しなさいよ、この化け物!全部の六本ともね!!」
ヂーリーは続けてヌゥフオの背中に銃弾を浴びせかける!
その時、フェイフォンが素早く周囲を確認する――
だが、そこにいたはずのイェンホンの姿がない。
「ヂーリーさん、逃げて!もう一体、見えない妖怪がいるわ!!」
ヂーリーはフェイフォンの警告を聞いた瞬間、発砲をやめて、近くの家へ走り出した。
彼の狙いは――妖怪の目から逃れ、物陰に隠れること。
その隙に、フェイフォンもヌゥフオの攻撃をかわし、脱出を試みる。
手首をひねり、足を旋回させ、力ずくでその拘束から抜け出した!
地面に着地するとすぐに扇子を拾い、後方宙返りで腕を地面につきながら後退する――
まるで蝶が宙を舞うような優雅な動きで、距離を取る。
『……クソ!ヂーリーさんのおかげで助かったけど、
今度は彼がヤバい。六本腕のこいつと戦いながら、透明な奴まで相手するのはムリだわ』
その時、フェイフォンはイェンホンが自分の扇子を手放していたことに気づく。
フェイフォンは即座に駆け寄り、両方の扇子を再び手にした――
だがその瞬間!
「このアバズレェェェ!!逃げんじゃねえぞ!!」
ヌゥフオが突進してくる!その目は怒りに染まり、真っ赤に燃えていた。
六本の腕すべてで同時に殴りかかる――
フェイフォンは体を捻り、優雅に踊るようなステップでかわしていく。
彼女のパンチの嵐の中、まるで風のようにすり抜ける!
『……この音の感じ、前の盗賊の2~3倍の威力はある。
一発でも食らえば……腹に穴開いて即死だわ』
「てめぇのそのクネクネした動きがマジでムカつくんだよ、
この踊り狂ったクソガキがァッ!!」
フェイフォンは両膝を曲げ、一気に天高く跳躍!
その身体は10メートル以上の高さへと舞い上がる。
宙に浮かぶ中で、彼女は夜空と星々を一瞬だけ見上げ――
髪が風に揺れ、静かにつぶやいた。
「……あたし、死ぬためにこの砂漠に来たんじゃない。
腕がもげようが、体がボロボロになろうが――絶対にここで死なない」
――その頃。
ヂーリーはすでに民家に逃げ込み、拳銃を手に息を殺していた。
すると――
ドゴンッ!!
扉に強烈な衝撃音! 誰かが体当たりしている!
外では、イェンホンが姿を現し、ドアを破壊しようとしていた。
「……なんだよこれ!?素手で岩砕けるこの俺が……
なんでこんな木のドア一枚も壊せねぇんだよ!?」
『……グアンロンチョンの家はどこも、扉や窓に結界の文字や符が彫り込まれてる。
それは、夜中の妖怪対策と、非常時の避難所としての意味もある……
どんな怪力でも、そう簡単には破れない』
イェンホンは舌打ちし、数歩下がって――
「邪魔くせえ!!」
両足を揃えて跳び、ドアに強烈な飛び蹴り!!
バリィィィン!!!
ドアはついに破壊され、イェンホンはゆっくりと立ち上がる。
再び姿を消そうとするが――また現れる。
「……ッ!? うわああああああ!?なんだこのクッセぇ匂いはッ!?
体の中が燃えるような痛みがするぅぅぅ!!」
部屋には何本もの線香が焚かれていた。
『……グアンロンチョンの家々では、必ずオリバナム、没薬、ニームの香を焚く。
寝る前の習慣でもあり、妖怪にとっては強烈な拒絶反応を起こす防衛策でもある』
ヂーリーはその隙に、家の窓から脱出。
家の入口に火のついた松明を投げつけ――自分の家に向かって走る!
「待てコラァ!!どこ行くつもりだクソ野郎がァ!!」
イェンホンは彼が逃げるのを見て、松明の方向へ突進し、線香から逃れようとする。しかし松明を飛び越えた瞬間、炎が青白く燃え上がり、まるでアルコールに火がついたように彼の体に引火!!
「ぎゃあああああああッ!!アッツッ!!なんだこれ!?
あの松明、ちょびっとしか火出てなかったじゃねぇかよ!?
しかも触ってもねぇのに、なんで燃え移ってんだよォォォ!!」
『あれはただの松明じゃない。この家にあったポタラ寺院の灰と聖油を使って火を点けたんだ。
妖怪の体はこういう聖なる物質に対して、自然と引火しやすい構造になっている』
イェンホンは再び姿を消す――
だが、燃え上がる炎はその体を包み込み、位置を丸見えにしていた。
ヂーリーはそれを利用し、家に向かいながら銃でイェンホンの体を狙い撃つ。
「てめぇええええ!!殺してやる!!ぶっ殺してバラバラにして犬の餌にしてやるぞ、コラァァァ!!」
炎に包まれたまま、イェンホンは吠えるように突進する。
ヂーリーは急いで家の中に入り、扉を閉めて鍵をかけた。
またしても、イェンホンは扉を破壊できない。
――その様子を、空中のフェイフォンが見下ろしていた。
彼女は空中で体勢を変え、扇子を開き、両腕を伸ばして逆さまの姿勢で急降下する。
その体を包むのは、まるで水流のように美しく舞う淡青色の気。
《舞鳥流 :鷹の狩!!》
一瞬のうちに地面に着地!
フェイフォンは両腕を広げた状態でポーズを決める。
その前にいたヌゥフオの全身には、いくつもの切り傷が走る。
「てめぇえええええ!!殺してやる……!
地獄見せてやるぞ、このクソアマがァァ!!」
ヌゥフオは再び地面にいるフェイフォンを殴り始める。
フェイフォンはその場でブレイクダンスのように体を回しながら攻撃を回避!
しかし、ヌゥフオの一撃一撃は強力すぎて――
その拳が地面に着くだけで、大きな穴が穿たれていく。
あっという間に、地面はまるでザルのように穴だらけに。
フェイフォンは腕で支えながら後方に跳び、すぐに立ち上がった。
そのままヌゥフオに向かって突進!
ヌゥフオも怒りに任せて前進する!
『……前の盗賊たちよりはるかにタフで、しぶとい。
つまり――殺す心配をしなくていい。
なら全力でいける。弱点狙って、ひたすらダメージを重ねてやる』
《舞鳥流 :殺鶴の舞!!》
激しい打ち合いが始まる!
六本の腕を同時に振り下ろしてくるヌゥフオの猛攻。
だがフェイフォンは、それらを華麗にかわし、扇子で受け止める!
反撃の一撃一撃は確実に命中し、ヌゥフオの体を斬っていく!
フェイフォンは彼の左側へ回り込み、攻撃のスピードをさらに上げる。
ヌゥフオは側面からの攻撃に対応できず、正面を向こうと体をひねる――
だが、フェイフォンもすぐに回り込む。
「動くなってんだろ、アマァァァ!!」
次々と傷を負っていくヌゥフオ。
その足元の地面には、じわじわと赤い血が広がっていた。
そして、ついに彼の怒りが頂点に達する。
「もういい加減にしろやああああああッ!!」
彼は右側の三本の腕を同時に振りかざし、
凄まじいスピードと力でフェイフォンを殴り飛ばす!
ドガァッ!!
フェイフォンの体は空中を舞い――
15メートル以上離れた家の窓に激突!
ガシャンッ!!
一方その頃――
ヂーリーの家では、再びイェンホンが扉を破壊しながら侵入していた。
その手には巨大な丸太が握られていた。
彼はそのまま家の中を荒らし、置かれていた香や結界の道具を次々になぎ倒していく!
青白い聖なる炎も、ついに弱まりつつあった。
イェンホンの姿も、徐々に見えなくなっていく。
そして、暗闇が家を支配した。たとえ姿が見えなくとも、こんな暗闇ではヤンホンなどまともに見えやしない。
「もう逃げられねぇぞ、クソが……
その首、引っこ抜いて全市民に晒してやるからなァ!!」
共同館の前――
ロンウェイは、全身を傷だらけにして、血に染まりながらも、
まだ立っていた。息は荒く、膝が震えている。
その周囲を、ピシャーチャの盗賊たちが取り囲み――
彼らの手には、銃火器があった。
その中心で、ヂーハオがゆっくりと右手を上げる。
「撃て」
バンッ、バンバンッ!!
ロンウェイに向かって、再び銃撃が始まる!
彼は両腕を掲げて、体を守ろうとする。
弾丸は普通の人間ならば即死級――
しかし、ロンウェイの身体には完全には貫通せず、
皮膚を裂き、肉をえぐるだけにとどまっていた。
それでも、当たるたびに猛烈な衝撃が走る。
まるで全身に、石をスリングで打ち込まれているような感覚。
「うあっ……がっ……!」
しばらくして銃撃が止む――
ロンウェイはついにその場に膝をついた。
血まみれになり、顔を歪めながら、それでもまだ意識を保っている。
「……惜しかったな、ガキ。
お前が完全な竜人だったらな。
本来、竜の鱗なら弾丸ごとき、かすり傷一つ負わん。
だが半竜人のお前は……人間の弱さまで受け継いじまったんだよ」
そう言いながら、ヂーハオは突然消えるような速さでロンウェイの目の前に現れる!
ドゴッ!!
鋭い一撃がロンウェイの腹を突き上げた!
「がっ……!!」
そのまま、彼の首を掴んで持ち上げ――
片手で宙に吊るす。
「つまらねぇな。お前、なんつったっけ?『ヒーロー』……だっけか?」
その時だった。
共同館の前に、ヌーリー、ヨンチー、そして他の警備兵と避難していた市民たちが到着した。
彼らは目の前の光景に、言葉を失う。
ロンウェイがヂーハオに首を掴まれ、血だらけの状態で宙に浮かんでいた。
その周囲には、ピシャーチャの盗賊たちが配置され、完全にヂーハオの配下として動いていた。
「……ヂ、ヂーハオ……?」