エピソード10:ヂーハオ①村を離れたヒーロー!残された者たちの祈り!
グアンロンチョンに夜が訪れる。ヂーリーの家で、フェイフォンは桶に満たされた湯に浸かり、疲れと安堵が入り混じった表情を浮かべていた。
「ふう...やっぱりあたしは農作業向きじゃないわね。砂漠で失われたテクノロジーを探す方がまだマシ」
突然、ロンウェイが全裸で笑顔ながら浴室に入ってくる。
「やっほー、フェイフォン!待ってくれなかったんだね」
「一緒にお風呂に入るものじゃないのよ、このバカ!」
「え?前にやったじゃん。なんで今はダメなの?」
「あの時は仕方なかったの!普通お風呂はプライベートなものなのよ!今すぐ出ていきなさい!!」
フェイフォンが石鹸を投げつけると、ロンウェイは転がるように浴室から出ていき、石鹸は左の角に引っかかったまま。
「フェイフォンってほんと難しいなあ...」
ヂーリーが困惑したロンウェイを見つける。
「どうしたんだい、少年?」
「うん、多分。フェイフォンが一緒に入ろうとしたら怒っちゃった。前に一度やったのに、今はダメなんだ」
「そ、そうか。たぶん...状況が違ったからだよ。特に女の子は、お風呂のような場ではプライバシーが必要なんだ」
入浴後、ロンウェイとフェイフォンはヂーリーと共にグアンロンチョンの共同食堂へ向かう。多くの村人たちが夕食を楽しんでいた。
ヌーリーは大きな鍋でダルバート(豆のスープ、米、野菜カレーの組み合わせ)を盛り付けていた。テーブルにはナンと紅茶も並んでいる。
シュエンウーが恥ずかしそうに到着すると、村人たちは料理を取り分けるよう誘い、席に招いた。村の子供たち(6~10歳くらい)が笑顔で駆け寄り、彼を囲んで賑やかに話し始める。
(フェイフォン)「へえ、この村のみんなで一緒に夕食食べるの?それとも今日は何か特別な日?」
(ヂーリー)「通常は特別な日──例えば妖怪の襲来予測や、村人が不安を感じる客人が来た時などにこうして集まるのだ」
(ロンウェイ)「じゃあ僕が来たのは特別なんだ!ヒーローになったらもっとすごいよ!」
(フェイフォン)「……相変わらず何も理解してないわね」
遠くからヌーリーがフェイフォンに手を振る。
「ねえ、フェイフォン!こっちで食べようよ!」
フェイフォンはヌーリーのもとへ向かい、ロンウェイは取り残される。彼はダルバートの列に並ぶが、村人たちの疑い深い視線を感じ、シュエンウーの近くに座ることを選んだ。
シュエンウーは5人の子供たちに囲まれて食事中だったが、ロンウェイが近づくと、子供たちはシュエンウーの大きな体の後ろに隠れた。ロンウェイはシュエンウーの前に座る。
「ああ、ロンウェイ。どうぞ、楽になさい」
にこやかに言いながら、シュエンウーは微笑む。ロンウェイが座ると、物陰から覗く女の子に舌を出して変顔をしてみせる。しかし女の子は驚き、さらにシュエンウーの背後に隠れた。
「ほら、怖がらなくていい。人を外見で判断しちゃいけない。心で見るんだよ」
「でも…シュエンウーお兄ちゃん、こいつは…妖怪だよ。妖怪はいつも村を襲うじゃん」
「そうか?でも人間だって村や他の町を襲うぞ。お前らは人間全部が怖いか?それとも悪い人間だけが怖いのか?今まで会った妖怪が全部悪かったからって、全部が悪いわけじゃねぇべ」
「そうだよ!それに僕は半妖だし、ヒーローなんだ!遠ーーーい町で『ハシイ』ってでっかい悪い奴からみんなを守ったんだ!金属の腕と、こーーんなでかいブーメラン持ってた悪党をね!」
少年たちの目がキラキラと輝く。
「ほ、本当?シュエンウーお兄ちゃん?」
「ああ、ヂーリーさんからその話は聞いてた。ロンウェイが来る前からな。本当だ」
子供たちは興奮し、ロンウェイに質問攻めにする。
「で、で、なんで妖怪…じゃなくて半妖がヒーローなの?」
「世界中のいい人たちを悪い奴から守りたいからだよ!強い仲間を集めて『天上戦隊シェンレンジャー』って戦隊を作るんだ!」
「戦隊?それって何?」
「軍隊みたいなの?」
「違う違う!カラフルなスーツ着て、カッコいいポーズ決めて、『正義は必ず勝つ!』って言いながら悪と戦うヒーローグループだよ!」
「わあ!そ、そんなの初めて聞いた!それってシュエンウーお兄ちゃんやヂーハオお兄ちゃん、ポタラ寺院のおじさんたちみたいなの?」
「うん、多分そうだよ!でも彼らには特別な力があるんだ。だから僕はシュエンウーを仲間に誘いたいの。世界中を旅しながらみんなを守るためにね」
子供たちがシュエンウーを見つめる。
「シュエンウーお兄ちゃん、村からいなくなっちゃうの?」
「ああ…その…おいら…わかんねぇ。ロンウェイの考えは素敵だべ。でもどこにだってヒーローが必要だし、おいらの役目はグアンロンチョンのヒーローでいることかもな。ロンウェイには世界の他の場所を守ってほしいべ」
一方、フェイフォンはヌーリーと話していた。
「ねえ、ヂーリーさんが砂漠を彷徨ってる人物のことで質問してたわ。悲しそうだったけど、何か事情があるの?」
ヌーリーの表情が曇り、心配そうになる。
「ああ…ヂーリーさんはヂーハオのことを話してたのね」
「ヂーハオ?さっきもその名前が出たわね。話し方から察するに、彼も気を使えるの?」
「ええ。ヂーハオはヂーリーさんの養子なの。リエシャージョウの孤児だったけど、ヂーリーさんが旅の途中で見つけてグアンロンチョンに連れてきたの。昔ヂーフェイ大師がヂーリーさんにしてあげたようにね」
ヌーリーは紅茶のカップを強く握りしめながら話を続ける。
「ヂーハオは気を操る稀な才能があったから、ポタラ寺院で修行して少林僧になったの。シュエンウーと同じようにね」
「なるほど。でもなぜ砂漠を彷徨ってるの?」
「それが…誰にもわからないの。1週間前、ポタラ寺院からいなくなって、ただ『もっと強くなって戻る』という手紙を残しただけ。どこへ行ったのか、なぜそんなことをしたのか、誰も知らないの」
「なるほど。行き先も告げずにいなくなるのは確かに心配ね。父親としては尚更だわ」
「ええ。私たちがまだ冷静でいられるのは、ヂーハオが強いのを知ってるからよ。それにヂーフェイ大師が『グアンロンチョンに戻る』と予言してくれたから。でも...いつ、どうやって?水も食料もない砂漠で、盗賊や妖怪だらけなのに...安心できるわけないの。ただ大師の言葉を信じてるだけよ」
「ヂーハオは元来自信家で、努力家で、負けず嫌いだった」
ヂーリーが静かながら心配げな表情でテーブルに着き、フェイフォンの隣に座る。
「彼は少林僧であることに誇りを持ち、どんな脅威からもこの街を守ってきた。才能もあった。だが...無力さを感じるのが嫌いだった。近隣の盗賊や妖怪を討伐するために旅立ったのではないか...大災厄前のポタラ寺院の僧侶たちのように」
「ああ、そういうこと。だから1週間も経つのに誰も追いかけなかったのね?」
「大師の予言を信じてるの。彼が戻ると。それに彼の強さも」
「それでもヂーリーさんはリエシャージョウまで旅したわ。道中で会えないか、情報が得られないかと...あそこは彼の故郷だから」
フェイフォンはヂーリーの肩に手を置き、自信に満ちた口調で言う。
「経験から言わせてもらうと、そのヂーハオって子、ただ強くなるための新たな挑戦が必要だと思っただけかも。私にも似たような姉がいるの。リェンフー・ダ・ジョウの市場を制覇した後、いきなり近隣都市に進出し始めたわ。二人とも野心家タイプなんでしょうね」
ヂーリーはかすかに微笑んだ。
「ありがとう、フェイフォン。私も同じように考えていた。だがどうにも...嫌な予感がする。説明できないが」
夕食後、フェイフォンはヌーリーと一緒に皿洗いを手伝った。終わると、ロンウェイを探しに行き、子供たちと「悪い怪物ごっこ」をして遊んでいるのを見つける。シュエンウーがそれを見守っていた。
ロンウェイ(怪物の声で):
「がおー!お前らを倒すぞ、小僧ども!」
「絶対に負けない!みんなの力を合わせるんだ!ウルトラ・ギガ・虹光・破滅・砲!!」
「ぐわあああ!」
ロンウェイは強力な攻撃を受けたふりをして、地面に倒れ込む。フェイフォンはその様子を見て微笑んだ。その後、子供たちは母親に呼ばれて寝るために帰っていった。
フェイフォンがロンウェイとシュエンウーに近づく。
「どうやら人との接し方にも慣れてきたみたいね、ロンウェイ」
「ああ!ヒーローになるには人に信頼されなきゃいけないって言われたから、勉強中なんだ。みんなを笑顔にできれば、きっとうまくいくよ」
「ロンウェイは、年のわりに、ほんとに賢いべ。人間だったら、きっと立派なポタラ寺院の僧侶になれたと思うだよ」
「あ、そうだ!シュエンウー、話があるの。あなたの答え次第では、明日ポタラ寺院に行かなくても済むかもしれないわ」
「え?どうして、フェイフォン?」
「ここに来た目的を忘れたの?ポタラ寺院でジュウラオの手がかりを探すためでしょ。でもシュエンウーが寺院の僧侶なら、直接聞けばいいじゃない」
「じゅ…ジュウラオ?200年前の、あの伝説の武術家のことかい…!?」
「その通りよ。私がここまで連れてきたのは、ジュウラオと、ロンウェイが持ってるこの魔法の宝玉について聞くためなの」
「あっ、フェイフォン!シュエンウーはもう一つの宝玉を持ってるんだ!緑色の!それで『店主』って言ってた!」
「はぁ!?何よそれ!?店主って…あんた別に店とかやってないでしょ」
「ああ…ロンウェイが言ってんの、多分『天選』のことだべ。宝玉に選ばれて、その力を使えるやつのことさ。ロンウェイが本当に宝玉の力を出せるんなら…そりゃ、火の龍の天選に間違いねぇべ」
「うん、でもおじいさんは、ジュウラオを探して宝玉の真の力を解放する方法を教わってこいって言ったんだ。シュエンウー、ジュウラオがどこにいるか知ってる?」
「ええと…たぶん、もう亡くなってるんじゃねぇかな。なんであんたのおじいさんがそんなこと言ったのかは、わかんねぇけど…おいら、ジュウラオのことは何も知らねぇべ。でも、ヂーフェイ大師なら、なにか知ってるかもしんねぇな」
「ふーん、結局明日は寺院に行くしかないわね」
一方、街から離れた場所で…
斗笠を被った男が、冷たい砂漠の風に後押しされるようにグアンロンチョンの門へと歩みを進めていた。風が巻き上げる砂塵が、彼の周りに不気味な雲を形作る。