5 パートナー
自宅で繰り広げられる、母とカケルくんの会話。
ズレてる。
ズレてるから。
カケルくんが言ってる、パートナーっていうのは人外と戦う時の相棒であって伴侶じゃないから。
「そうなのね。一目惚れ」
「は?」
めっちゃ、絡まれたよね。私?
あれが一目惚れ?
カケルくん、どうしちゃたんだ。何があったの?あなたに。
「そうだ。お母さん」
「まあ、お母さんなんて」
カケルに見つめられて、ぽっと赤くなる母さん。
いや、お母さん。
っていうか、なんでカケルくんもお母さんて呼ぶの?
「お母さんの祖先に市松って言う名の方がいませんでしたか?」
「市松、ああ。いるわよ。確か、私のひいおばあちゃんの旧姓が市松だったわ」
「え?本当。聞いたことなかったけど」
「それはそうと思うわ。私だって記憶の片隅にしかないもの」
ひいおばあちゃんの旧姓だし。そっか。
っていうか私も市松だって事⁉
「お母さん、今日は遅いし、また日を改めて来てもいいですか?」
「もちろんよ」
また来るの?なんで?
母に言われた事もあって玄関先までカケルくんを送る。
「どういうつもりなんですか?」
「俺は市松と葛木の子だ。だけど力がない。だから葛木になろうと思った。葛木だから、綺理子や他の市松に追っかけられて嫌だったんだ。そこに善子が登場。ちょうどいいなあと思って俺のカモフラージュになって」
「嫌です」
「え?なんで?彼氏いないでしょう?」
「い、いませんけど。でもこのパートナーって伴侶とか恋人とは違う意味ですよね」
「一緒だよ。本当は一緒なんで。だけどお袋が間違った。あの女、夜乃子様は間違ってない。間違っていたのは俺のお袋だ」
市松さんと葛木さん、二人の間には甘い雰囲気はなかったけど。信頼で結ばれ、お互いを信じきってる感じだった。
「明日、親父連れて挨拶するから」
「え?フリだけでいいんですよね?」
翌日彼と葛木さんは家にやってきた。交際を認めてくださいとかなんとか。
市松さんにももちろん伝わっていて、何故か嬉しそうに「鍛えてあげるわ」と言われた。
流されるまま、市松の力を制御する訓練を市松さんとする事になった。
私はいつの間にか立派な市松の1人となり、今日もカケルくんと人外と戦ってる。
多くの人外はその性質からか飲食店に関わってる人が多い。だから資金回収系は人外エキスパートの市松が担当することが多いみたい。
市松の組織はよくまだわかんないけど。横関係も楯も関係もぐちゃぐちゃらしい。
私は一般市民だから、戦うのは好きじゃない。仕方なく応戦してるだけだ。
ちなみに市松さんと葛木さんは結婚した。カケルくんが勧めたらしい。
カケルくんも回収一課に加わったおかげで、回収一家と揶揄されることも増えてしまった。
あの日、見かけた非日常の光景。
それは私の日常になった。
「善子、お寿司食べに行こう!」
「絶対に回転寿司ね」
「わかってるって」
カケルくんは相変わらず食べるのが好きだ。まあ、可愛いんだけど。
私たちの関係、パートナーはまだ相棒と伴侶の間を彷徨っている。
(おしまい)