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【短編小説】言葉にできない

作者: 青いひつじ


"本が好き"とは、どういうことでしょう。


本が"好き"とは、

本を読むのが好きなのか。物語を書くのが好きなのか。はたまた、本を読んでいる自分が好きなのか。

はたまた、物語を書いている自分が好きなのか。


もっと言えば、モノトーンの洋服に身を包み、黒縁の眼鏡をかけ、モダンなカフェで大して何かを書いているわけでもないのに果物マークのパソコンと、革製のカバーがついたノートを開き、コーヒーと共に休息風を装い本を読む自分が好きなのかもしれません。


"好き"とはどういうことか、それは人それぞれありますので、一言で説明するのは容易ではありません。

"好き"という言葉は漠然としており、それを聞くと、"どういう好きなのか"と聞き返したくなってしまうのですが、あまり突っ込んで聞くと、人は私と会話することが嫌になってしまうでしょう。




私は、言葉が好きです。

言葉から、相手がどんな方なのか、あれこれ妄想するのが好きです。

ある日の放課後、学校の廊下に作文が掲載されているのを見つけました。

学年全体で応募したコンクールで、優良賞に輝いたとある生徒の作文でした。

そこには、ペットである犬との話が書いてありました。


その文章に、私は釘付けになってしまいました。

作文とは、作者に会いに行ける扉みたいで不思議です。

彼の言葉は、高い柵を軽々と乗り越え、私の中に入ってきたかと思えば、ティシュに水が滲むように、心にじんわりと広がっていきました。


きっと彼自身がそんな人柄なのだろうと考えていたその時でした。


「あ、それ俺のー」


後ろから声がして振り向くと、ひとりの男子生徒が「いいっしょ」と、ブイサインをして去っていきました。風が通り過ぎるように、一瞬の出来事でした。

「いいっしょ」とは、作文の内容のことでしょうか、賞を受賞したことでしょうか。

ともかく、あの方が作者らしいです。

私の心臓が、少しだけ音を立てた気がしました。



次の日の朝、下駄箱で彼と会いました。


「あ、昨日の人だ!おはようー!」

「お、おはよう」

「あれ?違った?昨日、俺の作文読んでなかったっけ?」

「よ、読んでた!すごく素敵な文章だったから!」


私は思わず、心を丸ごとぶつけてしまいました。

彼は少し驚いていましたが、「やったー!ありがとう!」と、またブイサインをしました。



その日から、彼とは会えば挨拶をする仲になりました。廊下で私を見つけると手を振ってきたり、先日は教科書を貸して欲しいと、私の教室までやってきました。


「お、今から体育?あっちーよ」

「そうなんだ!気をつける!」


私たちは廊下ですれ違う時、少しだけ会話するようになりました。

初めて、男の子の知り合いができました。



朝から雨が降っていても、不思議と幸せな気分です。

なんとなく髪を結んでみましたが、今朝は下駄箱で会えず少しだけがっかりしています。

1限目の社会の教科書を探しましたが、机の中にはありませんでした。家に置いてきてしまったようです。

最近は、ぼーっとすることが増え、忘れ物が多くなってしまいました。

なんだか私らしくありません。



ある日の帰り道のことでした。

グラウンドの横を通ると、フェンスの向こうで走っている大勢の中に、彼の姿を見つけました。彼はサッカー部だったようです。


"がんばれ!"

私は鞄の持ち手をぎゅっと握り、心の中で叫びました。

知り合いを応援するのは、当たり前です。


パスを受けた彼は、その勢いのままゴールに向かって走っていきました。

人の間をスルスル通り抜けるその姿は、まるで風のようでした。

彼を風のようだと感じたのは2回目です。


「キャー!ナイスー!やっぱ、わたしの彼氏かっこいいー❤︎」

「やだ、のろけ?でも確かにかっこいいね〜」



私の心臓が音を立てるのも2回目です。

フェンスを掴み、瞳に焼き付けるように彼を見つめるその子は、私と同じふたつくくりをしていましたが、なぜか別物に見えました。




夕暮れの帰り道は、ひぐらしが鳴いています。

私は、束ねていた髪をほどきました。


非常に混乱しております。

彼への感情は、友情に近いものだと思っていたのですが、なんだか少し違う気がするのです。


なんというのか、言葉にできません。

16年生きてきて、こんな気持ちになったのは、初めてなのですから。





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― 新着の感想 ―
[一言] 可愛いと可哀相、エールとほんのちょっとの淀んだ何かが(魅惑だと思います)
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