扉へ誘う側に ~深淵~
ティファナが5段階で堕ちるに合わせて5話に納めたようと思ったら、最後はちょっと字数が多くなってしまった……。
「流石ティファナです、こんな短い期間でこのクオリティとはやはり私の目に狂いはありませんでした、惚れ惚れしそうになりますっ!」
「……っるさい」
――勿論誘惑に負けて本を描く事になった。本が沢山売れればその分お小遣いが増えるという悪魔の囁きに……私は首を縦に振ってしまった。私死ねば良いと思う。
「その上ツンデレムーブ、もう私お腹いっぱいなのに殺す気ですかっ!? あぁ、もう! ティファナの性格が反映されたこの本で尊死してしまいますっ! 幾らお金を投げれば良いですか!? 最低でも赤色分は払いますっ!」
「…………死ねっ!」
また馬鹿が訳の分からない事を言って身をくねくね捩ってるけどそれどころじゃない! 今の私は羞恥心で死にそうになっている。机に顔を埋めて必死に悶えていて声にならない声を吐き出している。誰か私を殺してっ!
事の発端はつい先程、二ヶ月の期間を掛けて描いてしまった黒歴史の本を持ってリアの家にやって来て私は、この諸悪の根源である馬鹿令嬢を前にしてやっと正気に戻った。自分が何をして何を描いたのかをはっきりと自覚したからである。
それからの行動が早かった私は自分が書き上げた醜態の塊である黒歴史の原稿を破り捨てようとした。だけどソレをあっさりとリアに奪われたのだ。
この馬鹿は今まで当たり前のように私に殴られていたのに、今回私が反応出来ない神速の如き速さで接近して手からブツをあっさり絡め捕った。コイツがやったソレは普段の授業でも見せた事のない私とは明らかに次元の違う機敏の動きでかなり驚いたし実はちょっと怖くて泣きそうになったのは内緒。
それでも反射的に取り返そうとした私にこの馬鹿は超高度な魔法を無詠唱で瞬時に構築して発動、一切の抵抗する間もなく無数に伸びた光の帯に拘束されて身動きが取れなくなった所に……所にこの悪魔の如き馬鹿令嬢は私の目の前で人の黒歴史を読書と耽やがったのだっ!
多分一番この馬鹿に殺意が湧いた瞬間だと思う。だから殺す気で全力の魔法をぶつけてやろうとしたのに帯に魔力が掻き消されて……それでも唖然としたのは一瞬、力の限り暴れ続けたけど抜け出す事が一切出来ずに何もかも終わった……ついでに五回読み直された。シニタイ。
「コレならきっとティファナの本は沢山売れるでしょう! ファンも直ぐに付いて有名になりますよっ!?」
「………………くたばれっ!」
お陰で羞恥心のあまり心が折れた私は解放されるとフラフラと近くの机に倒れ込んだ、だってしょうがないでしょう!? 醜態を晒してしまったのだからっ! 以前の私が見たら今の私を絶対に軽蔑してるわよ!
因みに私が描いたモノはリアの執事が受け取ってどこかに持って行った。もっと早くに解放されていたら執事ごと黒歴史を葬ったっていうのに……。
「それでティファナ、次回作はいつ描いて下さいますか!?」
「もう二度と描かないわよっ!? あんなのっ!」
「でもティファナ、私の予想だと最低でも一冊でティファナにこれだけの金額が入りますよ?」
「…………………………考えとく」
あー……その、別に違うわよ? なんとうかそのね? 頷いてしまったのはこの馬鹿から提示された金額が予想より桁が二つ多かったであって本当は描きたくないのよ? 嫌々なのよ? 全然嬉しくないのよ? ただ金欠なだけでそれ以外に理由は無いのよ? 私本当は……なんでまた自分で自分に言い訳してるんだろう? この頭お花畑の馬鹿みたいに開き直ったら楽なんだろうけど、やっぱりこの感情だけは認めたくない……。
「………………私の話はもう良いわよ。それよりもリアはどうなの? なんか婚約者との雲行きが怪しいじゃない?」
「ウールニング様の事とクリスさんの事ですか? えぇ、心躍りますよね。皆が今注目していますしとっても楽しみです」
「この頭腐った馬鹿は……」
話題を変えたくてジド目でリアの婚約者の話をしたのに、そっち系の話は止まらなかった……選んだ話題が悪かったわね、うん。でも分からなくは無いのよね、ウールニング様とあのクリスって男爵子息――奇跡の癒しの担い手の距離感がおかしいのよね。なんというか、恋人みたいに凄い近い距離で……私がこの世界に踏み込んでいなかったとしても変に勘繰ると思う。だって恋人繋ぎで歩いてるの見たという噂があるし……。
その上クリスって子以外のウラニズム男爵家は全員突然の病死と発表、そのクリスって子自身も暫く療養で姿を見せなかった思えば急に王家が後ろ盾になったし……そして私達よりも年下なのに同じ学年に中途入学して殿下と常に一緒に居る。普通なら在り得ないもの、だって私達はそろそろ学園を卒業するのによ?
間違い無く箝口令が敷かれていて相当な事件でもあったのでしょうね。噂では悪魔も関わっているとか聞いたけど……真意は闇の中だろうし、この馬鹿令嬢も知らないって言うし。
少し……うん少しよ? ほんのすこーしだけ気になるのよね。きっとすっごい事があって殿下とクリスの二人にただならぬ事が起こって、とんでもない事が起こって、ビックリするような事があって……うん、止めましょう。虚しくなって来たわ、気になるけど世の中には知らない事があった方が良いっていうし、馬鹿な妄想はヤメヤメ。
それよりも、今はコイツの事ね。
「色々忙しくて詳しく知らないんだけど、社交界じゃ婚約の話が揺らいでるって噂も聞いたわ、そこの所実際どうなの?」
「実際にかなり怪しいですね。なのでお父様も公爵家としての立場上仕方なく私に命じられたので、私も嫌々殿下と対話をと歩んでみましたが正直手応えがありませんでした。コレでも『男同士で恋人繋ぎは素晴らしいくてついつい笑みを浮かべてしまいます、ありがとう御座います……じゃなくてやり過ぎではないか?』とか、『公衆の面前で膝枕をするなんて最高っ! コレだけでご飯十杯はイケます私達への愛の供給助かります……じゃなくて、おかしくないか?』とか――」
「……ねぇ? 突っ込み待ち? 馬鹿じゃないの!?」
とんだ馬鹿……じゃないわね最早、大馬鹿が頭お花畑な事言ってトチ狂った狂言を吐き出して妄想を垂れ流してやがるのよね。流石に全部聞く気は無いわよ?
「――流石ツンデレムーブ、ティファナはお約束を外しませんね」
「死ねっ!」
やっぱり分かってて言いやがったわこの馬鹿令嬢。活き活きとしやがって本当にウザい……。そういえば私この世界に沈んでから相当口が悪くなったわね、パーティーとかで気を付けないと。
「ふふっ、冗談ですよ。勿論この溢れ出る妄想は必死に頑張って途中で抑えましたよ。本音を言い切る前に舌を噛んだお陰で建前を絞り出す事が出来ましたから。ただちょっと舌を噛み千切りそうになって失血死し掛けましたけど」
「そのまま死んだ方は良かったんじゃない?」
本当にこの馬鹿は……呆れてモノも言えないわよ。本当に頭お花畑よね、イヤそこまで来ると逆に尊敬するわ……。
「褒められても何も出ませんよ?」
「心を読むな馬鹿。で、そうなると派閥とか王家の威信とか本気で色々ヤバいんじゃない?」
「ん~大丈夫じゃないですかね? 一応国王陛下や父上も動いてますから大事になる前になんどかするでしょう。それにですよ? そもそもウールニング様も愚直な所はありますがそんな馬鹿ではありません、殿下と私の婚約は国からの打診で受けた話なんですから……なので落としどころとしてはクリスさんを第二王妃にするぐらいだと思いますね」
「イヤそれはそれで問題あるでしょう……」
王族が複数の妻を持つっていうのは国の為だから分かるけどさぁ? 男を第二王妃ってどうなの!?
「流石にウールニング様としても子供を作るぐらいは果たすと思いますよ? それに私の同志や鉄の教えを守る同志が居ますから問題ありませんね。なんだったら国を乗っ取る事も不可能ではないですし、国が二分するような事態にはなりません」
そういえばこの馬鹿は教祖染みた立ち位置にいるんだった……。国の重鎮もコイツの傘下だし下手したらこの国一番の派閥なんじゃないの? 因みに王女の中にも二人程傘下に堕ちてたりする……今ここでコイツを殺しても止めた方が良いんじゃないのかしら?
「……取り敢えず乗っ取るのだけは絶対に止めなさいよ? イヤ冗談じゃなくて本気で」
「勿論分かっていますよ? ただ少しばかり国には私の趣味を融通して貰いたいだけです♪」
「この馬鹿は本当に欲望に忠実ねっ!?」
絶対に少しで収まらないわよねっ!? コイツが王妃になったら絶対にリアの新作が滞って中々読め……じゃなくてっ、国が更におかしくなるじゃない!? 殿下もアレだし国の行きつく先が心配過ぎる。下手すればヴィクトリア王国の歴史上最大の汚点になるんじゃないかしら?
お願いだからコレ以上変な問題が起きませんようにっ……フラグじゃないわよ? 無いからね!?
▼
「リアステラッ! 貴様との婚約を今ここで破棄する! お前のような悪逆非道な女など視界に入るだけでも虫唾が走るからな! そして俺は今ここにクリスを生涯のパートナーとし婚約する事を発表するっ! クリスこそが真実の愛だと気付いたのだ!」
私の願いも虚しく大問題が起きた……起きてしまって頭を抱えたくなった。あの日から一ヶ月後で学園の卒業パーティでの終わり際、第一王子のウールニング様が盛大にやらかした……いくら何でもコレは予想出来なかったわよ!? 本当に嘘でしょ!? 婚約破棄なんて!? そして男をパートナーって予想の遥か斜め上で最高……じゃなくて在り得ないでしょう!?
その上二人とも幸せそうに腕を組んで……ヤバイわね。妄想のあまり七冊目の本の構想が浮かび上がってしまったわ。その上殿下の甘く囁く言葉に脳を揺さぶられてしまう……イヤ正気に戻って私!? 今はとっても嬉しい……じゃなくてとんでもない状況なんだからっ!
「えっと殿下……ウールニング様。確認させて欲しいのですが……その御方は、あの? クリスさんは『男性』である事をご存知でしょうか?」
「僕を馬鹿にしているのかリアステラッ!? 当然知ってるともっ!」
「………………………………そ、そうですか」
興奮止まない頭を振って必死に感情を押さえつけてると、リアが落ち着かない表情で殿下に訴えかけていた。アレは……演技じゃなくて本気で驚いているわね、妄想が現実になった喜びでキャパ越えしてるのに公爵令嬢の仮面で無理矢理押さえつけてる感じ……そして殿下はどうしようもな馬鹿だった訳で、頭の中がグチャグチャになっているんでしょうね。
そんなリアの情緒を知らない周りの連中は、やっと空気が動き出して騒がしくなった。まぁ、どう見ても殿下は御乱心になったって思うわよね?
「……アイツら妙に仲が良いとは思ったが」
「……おい、どうするんだコレ?」
「愛の女神の経典では同性愛も認められてはいるが……王族が許される物なのか? ましてや栄えあるヴィクトリア王国の者が?」
「イヤ、それよりもリアステラ令嬢に何と声を掛ければ良い? 婚約者がコレというのは余りにも……」
その中でも物凄い動揺していたのが殿下の取巻き達……心配するわよねぇ? 現実逃避してしまうわよねぇ? そこでリアの心配をするわよねぇ? 残念ながら心配している相手も同レベルにヤバいのよ。
まぁでも、正直気持ちが良く分かるわ。私も親友だと思っていた相手が腐ってたからねぇ~……本当にどうしてこうなったのかしら?
私は卒業の進路先が既に決まってるからその準備とそれ以外の色々で殆ど学園に来てなかったけど……うん、それ以外の色々にモノ凄い比重が傾いてしまってたけどねぇ? そんな大した事は無かったわよ? ただ私の婚約者が百合好きで私のそれ以外の色々でわざわざファンレターまで出して来て、執筆からソレが露呈して一も二も悶着があったけど……今まで以上に仲が進展したりもしたけど……うん、今は全くこれっぽっちも一切全然関係なかったわね。えぇ、関係無いわ。
それよりも問題は殿下達よ……一ヶ月で事態がどん底にまで沈むとか笑えないわ。うん本当に、笑えないけど頬が攣りそうでダメね……って、え?
「クリス……」
「ウールニング様……」
二人が……嘘!? 情熱的なキスをして……二人だけの世界に入ってる!? 綺麗な薔薇の幻覚が見えて思わず手に持っていた魔道具のカメラで撮影、チキュウジンが持ち込んだ技術らしいけど初めて心の底から感謝したわ……だってあの芸術を一枚の絵として納める事が出来る……じゃないわよっ!? 何盗撮しているのよ!? しかも咄嗟に風魔法を使ってまで消音に走ったしまた身体が暴走した!?
本当に私何やってるのかしら……この写真リアなら高く買い取るんじゃないかしら? その後もカメラをつい反射的に構えて――
「………………っは!? イヤイヤ待て待てぇ!? 流石にソレ以上はダメだろ!?」
「……っは!? しまったな、ついいつもの流れで行為に走る所だった……」
「は、恥ずかしいですね……」
――第一騎士団長様の次男であるシャルクス様が良い所で止めに入った。思わず舌打ちしそうになって……ヤバいわね、完ッ璧にリアに毒されて言動がおかしくなってる。でもゲイ術をリアルで見て見たかったという欲求が溢れてるからしょうがないでしょう!?
「っち……」
……今舌打ちが聞こえたわね。絶対にリアの本気の舌打ちが聞こえたわ。あの馬鹿は今令嬢の仮面が取り繕えなくなるぐらいにキレてる。そりゃ気持ちは分かるけどさぁ……。
「クリス……続きまた今度な?」
「……はいっ、ウールニング様」
私の心配を他所に二人が楽しそうに次の約束をしていると暫くしてまた舌打ちが……あの馬鹿。
「……今リアステラ令嬢から舌打ちが聞こえなかったかい?」
「気の所為じゃないかい? あの歩く品行方正で清廉潔白、誰もが憧れる非の打ち所がない窈窕淑女であるリアステラ令嬢か舌打ちなど有り得ないだろう?」
「……」
ねぇ~……リア? リアステラ~? 何てことない顔してるけど気が付いてるからね? 後なに器用に涙を流してるのかしらね? 分かってるわよ? 悲しくて泣いてるんじゃないって……。シャルクス様が誤った形で擁護してるけど流石に訂正すべきじゃないのかしら!? 殿下にも謝った方が……いや、殿下は別にいらないわね。だってアレだし……。
「……リア」
「……ティファナ、私なら大丈夫です」
ちょっとリア!? 私は注意してんのよ!? 大丈夫じゃないわよ、呆れてんのよっ! 二度も舌打ちすんなっ! 後下噛み千切りそうになってんの分かってんだからね!? その上人の呼び掛けを何ドラマ風に演出してんのよ!? ほらっ、何も事情を知らない連中が同情の視線向けてるし……この馬鹿令嬢は腐っても王妃の教育を受けてるわね、死ねば良い。
後目線で正直になって良いとか合図すんな! 思わず眉が動いて腹がたった……撮った写真は絶対吹っ掛けてやる。
本当にこの馬鹿は……あまりの状況に溜息を吐いていると、扉が開いて教員達が入ってきた。多分呼びに行った人が居たのでしょうね。殿下達はそのまま教員に連れて行かれてリアはキャパを越えて気絶……折角の卒業パーティーも散々だわ。パーティーのこの後の予定がメインのダンスだったのにね……もう流れで中止になるわね。私も折角年下の婚約者をわざわざ連れて来たのに……。
取り敢えず腹が立ったのでリアを介抱して保健室にでも連れて行って寝かして、強めに腹パンしといた……私悪くないと思うの。
▼
それからの後日談は酷かった……間違いなく建国以来最大の汚点になったと思う。後の歴史にも色々言われるんじゃないかしら? 悪魔に唆されたとか唱える歴史研究家も居そう……そのぐらいに酷かった。
まず王子が婚約破棄をして男色に走ったというスキャンダルが民草に直ぐ知れ渡った、その上周辺諸国にも僅か三日で周知の事実とか普通は在り得ないわよね? なのにそうなったという事は……間違いなくあの馬鹿令嬢の仕業よね。うん、ていうかそれ以外ありえない。
何せ殿下✕クリス本が普通に市場に出回っていたからね。あの秘密の書店以外にも売られていて目を疑ったわよ……。因みにというべきか当然憲兵騒ぎになったのだけど、馬鹿共が裏から手を回したみたいで牢獄行きになったモノは誰もいなかった……本当に国を乗っ取ってない?
後殿下も喜々として本を買ってたのも後押しになったと思う……あのウールニング様? その本は貴方の元婚約者が描いたものですよ? 多分一生知る事は無いんだろうけど。
それから国の混乱は予想以上に小さかった……というか別の意味でそれどころじゃ無くなった。何せ対立していたハズの様々な派閥の重鎮達が何の脈絡も無く手を取り合ってたからね。お陰でゴタゴタして瓦解している派閥もあって……リア派改め頭お花畑派が色々と搔っ攫って終わらせたとかもうこの国破滅に向かってると思う。
唯一の救いは第一王子が除籍されたぐらいじゃないかしら? 控えめに言って致命的なまでに性格に問題な御方だったし、クリスとの婚約を認めて飼い殺しにしてるって言うし妄想が捗って……じゃないっ! クリスって子の奇跡の力が他国への外交手札になったからね。再作の事態は避けれたと思う。
ただその後国王陛下が退任しちゃったのよね……。まぁ、以前謁見した時と比べて病的で死にそうになっていたぐらいに萎れていたから仕方が無い気もするけど。王妃も精神的に倒れて療養中経って言うしね。
でも、まだ学生の身である第二王子――第一王子になったアルフェン様が王位を継ぐって可哀想よね……本当に。どっかの馬鹿達のせいでとんでもない激務に追われてるって言うし。
後殿下の婚約がそのままスライドされてリアと結婚するっていうのも本気で可哀想よね……リアって女の身である私から見ても美女だからねぇ~? でも中身はヘドロになるぐらい腐ってるけど。腐りきって触れた相手も腐敗させるけど。
アルフェン様はどうにもリアにゾッコンみたいだけど、中身を知ったら百年の恋も冷めるんじゃないかしらね? いやむしろよ!? そのまま絶対零度にまで冷めて欲しいわ……だってアルフェン様まで腐ったら笑えないでしょう!? どうにか辺に捻じれない事を祈るばかりだわ。
不安要素である腐った王女達もいるから頭痛の種だわ本当……。
「で、何でここ居る訳よ?」
「ティファナが居ると聞いたので」
「この馬鹿は……」
そんな悩みを明後日に吹き飛ばすような問題が起きた。私が就職した職場に突如この馬鹿令嬢――じゃないわね、先日アルフェン様と結婚式を挙げて来たから馬鹿王妃ね――がやって来やがった、死ねば良いのに。
一応国が醜態を拭い去るように……結局醜態で上書きしてたけど、大体的に結婚式を行ってたからね。なのにそれから日があまり経ってないってのに何でこんな所にやって来てるのかしらね?
ここ騎士団の詰所なんだけど? 他の騎士団や職員が委縮してたからお陰で上級客間に引っ張って来る羽目になった。まだ仕事中だったのに……。
「親友の顔を見に来たのですよ、上手くやっているかなって……」
「あっそう……で、本音は?」
「今回の新作も素晴らしかったですっ! 急にクオリティが凄い上がったからビックリしましたけど、ここには同姓愛のカップルが六組も居たんですねっ!? 間近で見る事が出来るんですから最高ですよねっ!? だからあんなに濡れ場がヤバかったんですね、もう最っ高でしたよティファナっ!」
……本当に上級客間で良かったわ。防音が施されてる部屋だから私の隠している醜態が職場に知れ渡らなくて本当に良かった。後リアの後ろについてるメイド二人も同意するように何度も首を振るな、馬鹿なんじゃないかしら?
「それとティファナ、後ろの子達に是非サインをしてあげてくれませんか? 二人ともティファナの大ファンだそうです、今日が楽しみ過ぎて一人は寝坊したぐらいですからね」
「イヤそれダメでしょう!? 何リアが自慢気に胸をはってんのよ!?」
そんな問題児のメイドクビにしなさいよ!? そこのメイドも照れるな!? そして私の本を差し出すな!? もう一人のメイドもそこ本を差し出さずに叱るべきなんじゃないの!? 類は友を呼ぶって言うけど、メンタル鋼過ぎない……?
「そう言いながら結局サインしてくれるツンデレムーブ、素敵ですよ?」
「死ねっ!」
なんで私言われるがままにサインしてるんだろう……? この身体が憎い!
「はぁ……もう終わったら帰りなさいよ、王妃がこんな所に居ちゃダメでしょう!?」
「まぁ、そう言わずに」
「仕事があるから帰れって言ってんのよっ!?」
何がそう言わずに、だ。自由過ぎよこの馬鹿!?
「王妃になったせいで忙しかったんですよ、久しぶりに動き回れる僅かな自由時間なので構ってください。楽しいお話をしましょう?」
「この馬鹿は……忙しいとか言ってくる癖に自分もちゃっかり新作出してるじゃない!?」
「あっ、ちゃんとチェックしてくれてたんですね、嬉しいです。でも学生の頃に比べたら進捗は遅くなってるんですよ」
「いやこの二ヶ月で私より出してる本多いじゃない!? 本当に仕事してんのあんた!?」
卒業パーティからもちょくちょく書いてて更に三冊出来上がったけど、この馬鹿はその倍本を出してる。ドタバタしているはずなのに絶対バグってる。
「その上私以上にクオリティが上がってるじゃないっ!? 何あの濃厚なキスシーン!?」
結婚した以上初夜を経験してるとは思うけど、それじゃ説明付かないぐらいに色々オカシイのよねコイツ。あの殿下×クリスのキスシーンだけで脳をヤラレかけたもの……初めて見た時は気を失いかけた。あのカップリングの本は何度も読んでたのにダメージが凄くて信じられなかった。
「それはですね? ちょっと勉強したんですよ」
「そんな強調しておいて? ちょっととか絶対有り得ないでしょ!?」
ジド目を向けるとニッコリと笑うリア、それだけで絶対にロクでもない事だってのは分かる。すると……メイドから受けとった何やら怪しい包みを私に差し出して来た。受け取るの拒否したいわ……。
「以前の写真の御礼です、絶対に家に帰ってから開けて下さいね?」
「あ~……アレの? 分かったわ、ゴミ箱に捨てとく」
「そう言いながらも見るんですよね、分かります」
「張った押すわよ!?」
この馬鹿は……本当に捨ててやろうかしら!?
「それでは名残惜しいですが時間です、また来ますね?」
「二度とくんな馬鹿っ!」
そのまま叩き返したかったけど……コイツは腐っても王妃。仕方なく外まで見送った私は内心悪態を付きながら見送り仕事に戻った。途中同僚や先輩からの質問攻めに苦労余計にクタクタになって自宅に帰った私は、あの馬鹿の置き土産を思い出した。
そこに入っていたのは魔道具の撮影道具で、イヤな予感がしつつも中身の私は……とんでもない内容だった。
お陰で次の日仕事に遅刻した。リア死ねっ!
赤色分は払うーーユー〇ューブのスパチャですね、1万円を超えると赤色になります。
コレは順に青、水色、緑、黄、オレンジ、マゼンタ、赤となっていて上限は5万。リアの発言は一応誉め言葉(笑)
舌を噛み千切りそうに――よく『舌を嚙んで死ぬ』という台詞をアニメや漫画で偶に聞きますが、舌って簡単に噛み切れるモノじゃないんですよね。多分歯だけじゃ普通は悶絶して無理だそうです、実行するには何かしらの外部の力が加わらないと大体は痛いだけで終わるそうですね。
ただよっぽどの覚悟があれば、舌は血管が循環している場所なので仮に舌が千切れたら出血性ショックで死ぬか、舌が喉に詰まって死ぬ窒息死するみたいですよ。