開いた扉は一つじゃない ~末期~
完結するまで連続投稿するつもりだったのに、途切れてしまった……正月の特番の誘惑に負けた
私は現在人生三度目の最大の危機に陥っている……こう立て続けに起こるのおかしくない? うん、おかしいのは私の頭だったわね。
今朝方馬鹿メイドにわからされた私は取り返しがつかない所かその先を完全に踏み抜いた。少し目を閉じれば妄想がこれでもかと溢れるとか……ね、ほろりと涙を流すのもしょうがないと思うの。それでも満足感が溢れて来るからね。馬鹿じゃないのかしら?
因みに私が書いた家族への手紙はあの馬鹿メイドが処分してくれた、もう家出する気力が無いくらい追い詰められたから良いけどね。
そんな私の三度目の危機は……再び学校内で起こった。気が付いた時には教室の机に座って居た私は真理に気付いてしまったからである。この教室には私を含めて女性が十六人いて割り切れるという事。
男性と違って余る事がないから……女の子同士で愛し合っても平和的であるという事。その際に裸になって【自主規制】とか【自主規制】という妄想が自然と溢れて発狂しそうになっている……うん私死ねば良いともう、でも社会的に死にたくはないのよね、切実に。
そして今現在授業中であり教員は空気を読んでくれて男性、これで皆が皆平和的にカップリングが出来ると無意識のうちにノートへ妄想を書いていた私は溜息を零した。今ここに存在するのは腐ったどうしようもない馬鹿であって伯爵令嬢ティファナ・レフィールは既に死んだのだと……。
身体が暴走して動くとか何のかしらね? そして何故か私のカップリング相手はリアがベストとか書いてあった。私死ねっ!
「流石ティファナですね、自身さえも組み込むとは素晴らしい才能です。私ですら考えなかった事、親友として誇らしい」
「……っるさいわね」
気が付いた時には授業が終わっていて隣には馬鹿令嬢もといリアが居た。私が書いたノートを眺めており、頬に手を添えてうっとりした表情……絵になる姿だけど口にしている内容が汚物よりも酷い。だけど文句や抵抗する気力もなく私は適当に返した。しょうがないでしょ? もう色々と辛いんだから。
同性愛の思想に振り切れた……振り切れてしまった自分が憎らしい。だけど依存症のように身体が求めてしまう。多分麻薬みたいなモノね、きっと最期は悲惨な人生を迎える事になると思う。
「ティファナ、今日の放課後は予定がありますか? 実は紹介したい所があるんです」
「……もう好きになさい、何でも良いわよ」
自暴自棄になっている私は適当に返した……返してしまった。また後悔する事になると分かっていたのに……。
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「ここは?」
「以前話した秘密の会員制の本屋ですよ」
放課後になり私はリアの馬車にドナドナと乗せられて貴族街の一等地にやってきた。大きな造りの書店で私も利用したことがあるお店……こんなお店がヤバイ品を扱っているなんて知らないんだけど?
そんな私の疑問の視線を無視して先に進むリアは店の奥に進み……通路の角の関係者以外立ち入り禁止のカーテンを当たり前のように捲り謎の部屋に入った。
それに続くと――
「リアステラ様、ようこそいらっしゃいました。そちらはお連れのティファナ様ですね」
――恭しくお辞儀をする店員が居た……じゃない、多分この人店長よ。昔見たことあるわ、この人リアの手下だったのね。ちょっとショック……爽やかなイケメンの好青年なのに改めてみるとなんとなくリアと同族の臭いがするんだもの。
そんな店員は何もない壁に手を掛けると何かを呟いて……えーと? 隠し扉が開いたけど馬鹿じゃないのかしらね? 地下に続く扉って滅茶苦茶金掛けてるし物凄い厳重になってるし……。
「さぁティファナ、行きましょう」
呆れている私を促すと隠し扉に進むリア。追いかけると後ろから扉の閉まる音がして、どこか別の世界に迷い込んだみたい。まぁ、ある意味間違いなく別の腐った世界なんだろうけど……。
「さぁ、夢の国に着きましたよ」
「ちょっと……コレって!?」
そこには上の建物の敷地より明らかに大きい巨大な空間で、よく見ると吹き抜けの地下五階まであるんだけどナニコレ?
本棚にはぎっしりといかがわしい本が置いてあるし思わず圧倒された。イヤ、なによりも驚いたのがこのお店に来ている客である……アレって第三騎士団の団長じゃない? それからあそこにいるのって宮廷で働いている……というか私の記憶違いじゃ無ければ財務大臣じゃなかったかしら? えーと? ちょっと待って、あそこで本を見比べているのは宰相!?
「……嘘でしょ!?」
他にも探せば明らかな重鎮や有名人の様々な男女が見えた……私が知らないだけでこの国終わってたのね。
「凄いでしょう? 皆私の同志です」
「うん……ある意味凄いわね」
「ここは色々なジャンルの本が置いてありますからね、形にするのに二年掛かりました」
並々ならぬ玄人努力がありましたと胸を張るリア……色々と努力の方向が間違っていると思うの。
「初めの頃はお父様やお母さまに沢山描いて貰いましたからね、作家を集めるのも大変でした」
「……あんたの両親もそっち側な訳!?」
なんかもう色々驚きすぎて疲れて来た、多分明日この世界が亡ぶと言われても今の驚きには届かないと思う。
「えぇ、お母さまは絵を嗜んでいていましたので。お父様は転生者でして向こうでも本を書いていたそうです」
「転生者って……確か時折流れ人がやって来る別の世界の住人って奴よね? 珍しい話だけど、なんかこう……素直に驚けないわ」
なんでも昔から異世界の記憶をもって生まれてくる子供が出て来る……そうなのだけど、アイツらに敬意を抱けないのよね。なんかおかしな文化を持ち込んで来るし、特にニホンジンとか言う連中は食事に関して頭がおかしいし。
「そんなお父様の初期の作品はそこの入り口前に飾ってあるんです、この店を支えてくれた一品ですからね」
「……反応に困る内容ね」
普通親が書いた……その、いかがわしい本って家族会議モノじゃない? そのまま絶縁とかギクシャクすると思うんだけど?
そんな感想を抱きながらも……つい好奇心からその本に視線を向けてしまう。もうこの身体って呪われているわね。
「えーと……『魅惑の騎士団長 ~あいつに堕とされるまで~』と……。リア、突っ込み待ち?」
「素敵な作品ですよ?」
その言葉に生唾を飲んでしまった私を誰か殴ってくれないかしら?
「お父様曰く、騎士というのは常に命懸けの世界に居る訳ですからね、どうしても性欲も高まってしまうそうです。その際に発散できる相手が同姓になる事も珍しく無いそうですよ? 実際に我が家の騎士団でも同性愛の方はいらっしゃいますからね。他にもお父様が居た世界でも過去にノブナガという領主はランマルという美少年とそういう事をしていたそうです。その事で他の部下達はランマルが領主のお気に入りになった事を羨ましがるエピソードがあったと」
「羨ましがるって……」
ちょっと、そんな話を聞かされると脳内がピンク色に染まって溢れるんだけど? なのに腕は耳を塞いでくれないし体は逃げ出してくれない……私本当に馬鹿よね、馬鹿すぎて死ねば良いと思う。
「他にも外国に『神聖隊』と呼ばれる部隊が居たそうなのですが、この部隊はなんとですね!? 二人一組の百五十組で合計三百人全員のゲイカップルで構成された部隊なんです。それでいてとんでもない強豪だったそうで大変素晴らしいですよね!?」
「ちょっ……落ち着きなさい馬鹿っ!」
興奮して私に顔を近付けて来た馬鹿に思わず殴った私は悪くない。じゃないと変な気分になりそうだったから……って私何考えているのかしらね!? でもリアの唇って凄くハリがあって柔らかそうなのよね……アレ? どんどん沼に沈んでる気がする、沼って藻掻けば藻掻く程に沈むんだっけ?
「……酷いですティファナ。この喜びを分かち合いたいだけなのに」
「分かち合うもなにも読んでないから知らないわよ!?」
以前の私だったら拒絶していたのに……ちょっと遠回しにその本を読みたいなんて言ってるし本当に最悪。こんな世界受け入れたくないのに……受け入れたくないのに私馬鹿ぁ。
「なら今度家に来た時に読んでくださいね? 初版を保管してあるので楽しみにしてて下さい」
その魔力が籠った言葉に抗えず私は必死の抵抗で無言を貫いた……ただ残念な事に見破られているみたいで微笑ましい視線を向けて来たからもう一回この馬鹿を殴った……私絶対悪くない。
そんな無駄で馬鹿馬鹿しいやり取りが済んだ後は、悲しい事に身体が勝手に動いて店を散策。色々な本が置いてあって私を狂わして色々こう……ヤバかった。表紙からでも分かるぐらい力が入ってて気づいた時には手に取っていたとか何やっているのかしらね!?
うぅ……何故か手が止まらないのよ!? ああもうっ、欲しくなりそうな表紙をしているのが悪いのよっ! なんでこう……妄想が搔き立てられるのばっかりなの!? 第一王子であるウールニング様の本も沢山置いてあるし馬鹿じゃないのかしら!?
本当に沢山あって困って……困ってしまうって、ちょっと!? 今見逃せないとんでもないモノがあったわよ!? 見間違えかと頭を振って目を何回もつぶって……うん、間違いじゃなかった!?
「ちょっと、何で女神アテナ様を凌辱する本が置いてあんのよ!?」
ふと立ち止まって思わず叫んでしまったのはしょうがないと思うの、だって神よ!? 女神をそういう目線で見るって不敬とかそういうレベルじゃないわっ!? 罰当たりにも程があるわよ!?
「当然需要があるからですね」
「嘘でしょう!?」
ちょっとリア!? 王族だけでも強い衝撃を受けたのに、それを遥かに上回る衝撃よコレ!? うわっ……よく見ると他の神も沢山あるし!? 男神同士とか女神同士でと置いてあるし頭おかしいんじゃないの!?
「本当ですよ、売れ筋のジャンルですからね。そしてこのジャンルを切り開いたのはなんと私のお父様なのですよ」
「胸を張るな馬鹿っ!? 今すぐ教会に自白して裁いて……」
貰いなさい、と言おうとしたのに口に出来なかった。私の横を通り過ぎたのは愛の女神アテナ様を信仰する教皇だったから……。見間違い、だったらよかったのに我が家はアテナ様を最も信仰している家系だし、子供の頃から何度も足を運んで教皇に挨拶をしている。服は市民風だけどあの顔は間違いない。
やっぱりこの国終わってるわ。あの教皇アテナ様の凌辱本を沢山大事に抱えてたし、神への信仰じゃなくて頭の仲ピンクの馬鹿が組織のトップとかこの国終わってるわよ絶対。
「お父様の居た世界では神々は勿論の事他にも異類婚姻譚、過去の偉人や空想の存在もそういう風の対象ですし、なんだったら女体化や擬人化なんてのもありますね。無機物であろうと性欲の対象だそうですよ?」
「業が深すぎないその世界の住人!? というか無機物ってどういう事よ!?」
「例えば天井と地面のカップリングですね、二人が触れ合う事が出来るのは建物が倒壊した時。つまり死ぬ事でしか触れ合うことが出来ないのにずっと見つめ合い届かない場所からずっとお互いを想い合う切ない物語。最期の時を悲劇と呼ぶか喜劇と呼ぶかで論争が分かれているそうです」
何ソレ異世界恐い……私達と同じように人間がいるって話だけど、ソレもう全く別の生き物じゃないのっ!?
「素敵な世界ですよね? 私も叶うのなら一度行ってみたいものです」
馬鹿が馬鹿な事ほざいてたけど……私も行ってみたいと考えてしまった。イヤイヤある意味よある意味っ! そんな奇人がいる国よ!? 逆に好奇心が湧くっていうか……うん、なんで私自分の中で必死に良い訳しているんだろう?
その後も巡回して散策した私はお小遣いギリギリまで沢山本を買ってしまった……私何やっているのかしら? 因みに帰る際に会員証を貰った、気持ち的には捨てたかったのに大事に懐に仕舞った事に自分を自分で殴りたくなったのはしょうがないと思うの。
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「待ってたわティファナ、いらっしゃい」
「……お邪魔したくないけど、お邪魔します」
今日は待ちに待った……じゃなくてっ! 休日であり嫌々だけどリアの家に私はやって来た、というよりも朝早くに拉致られた。多分どうしようもない場所に来てしまったと後悔しているけど、楽しみに思っている自分もいるから泣きたい。私何やっているんだろう? 正直リアの思惑だと思うと腹が立つ……。
「正直になって良いのですよ? 私は歓迎します」
「歓迎ついでに拳も受け入れてくれると嬉しいわ、どう?」
「ツンデレムーブは素敵だけど、それは遠慮致しておくわ」
本当にコイツに腹が立つ……私コイツとうまく親友やれていたと思ったのに、全然そんな事無かったわね。過去の私を殺してでも止めたいわ、この馬鹿に近付くなって。
そんな現実逃避を重ねていると気付いたら……って、またこのパターン。何回目よ? 本当にもうイヤになる。いつの間にか私は目的の部屋の前までやって来てた。
「さぁ、我が家の第一書庫です。楽しんでいってください」
イヤそこ第二じゃなくて第一なの……? いやうん、きっと本来の普通で当たり前のきちんとした書庫は第二にあるんでしょうね。今からでもそっちに行けないかしら? まぁ、身体が言う事聞かないから無理なんでしょうけど。
「うわっ、凄……」
リアが扉を開けるからソレに続くとその先には、巨大な空間とみだらな本で溢れた棚が沢山置いてあった……こっちも例に漏れず吹き抜けの空間になっているし地下何階まであんのよコレ? 五階どころか十階でもすまない規模よ? 王都の大図書館より絶対規模が凄くない?
「本というのにも旬の時期がありますからね。書店もラインナップの入れ替えをしますし、タイミングを見誤ると手に入らなくなる本も沢山あるのですよ。なのでなるべく全ての本を保管しておきたくて増築をしました」
「……コレクターって時折凄い事するけど、リア程の馬鹿はいないでしょうね」
何十万冊置いてあんのよコレ……本当に馬鹿じゃないかしら?
「褒められても大したものはありませんよ……と、それでは私は例の保管してあるのを取って来るのでそれまで好きに読んでいて良いですよ」
「あ~……うん、そう」
圧巻されている私を尻目にどこかへ行ったリア、こんな馬鹿げた情熱が有れば他人を燃えカスにするぐらい、平気で火を撒き散らす事も出来るのでしょうね……。そう呆れている私へつい近くにある本に手を取って――
「……ファナ……ティファナっ! そろそろ宜しいですか!?」
「……っえ!?」
――気付いた時には四百冊以上読破していた。まって私またやらかした……?
「あまりにも夢中だったので声を掛けるのも悪いと思っていたのですが、もう既に夜ですよ?」
「……嘘でしょう?」
その言葉に唖然とした私は部屋の窓に視線を向けて……軽く絶望した。食事すらまともに取らずに熱中してたっての!?
「一応これまでに六回は声を掛けているのですよ? 私以上の凄い集中でしたね、やはり素晴らしい才能です」
「そんなの全然嬉しくないんだけど!?」
悲しみのあまり目を閉じると脳内には先程まで読んでいた本が脳内で勝手に!? 馬鹿で腐ったリア達連中のかつての言葉が蘇るけど、この気持ちだけは受け入れれたくないっ! 見っとも無くても最後の抵抗なの! こんなのど同類だなんて嫌よっ!? だけどその儚い想いはリアの次の言葉であっさり崩れ去った……。
「今日はもうしょうがないのでお泊りですね、所でティファナ。消費者側から生産者側に回ってみませんか?」
「………………………………は?」
「ティファナは絵が上手でしたよね、でしたらきっと素晴らしい作品が描けると思うのっ!」
馬鹿令嬢がこんな馬鹿げた提案をして来たので私は勿論――
殿方だけで――織田信長は森蘭丸とそういう事をしていた訳ですが、当時そういうのは珍しくなかったんですよね。どうしても戦場に女性を連れて行けないので、そういう道に走った訳でして……。
他にも武田信玄や上杉謙信、伊達政宗に徳川家康もそうだったらしいですし、あの時代は凄いですよね~……。
腐女子が歴史に強い訳です。
神聖隊――300人のゲイカップルって凄いですよね(笑)
ネタのような部隊に聞こえますが当時最強を誇ったギリシャ、しかもスパルタ王を破った部隊なんです。
しかも『スパルタ王の遺体をこのまま野晒しにしておくのは耐えがたい』として、休戦協定を結んだりもしています。色々と意味が分からないですよね。
お父様の居た世界では――こういうのって日本のオタク特有の……では無く割と世界でも見かける内容なんですよね。
ギリシャ神話は昼ドラ以上に酷い痴態を晒す神々が多いですし、異類婚姻譚……人と人ならざる存在との結婚も多いですからね。ギリシャ以外でも人と人外の結婚はあちこちの神話で良く聞きますし。
無機物も有名なのだと船ですね、11世紀以降に外国では『She』や『Her』と船を女性扱い(正確には女神や聖母などに例えられた)されるようになりましたし。
他には国の擬人化(コレがネタじゃなくてガチな話)もありますね。
例えばフランス共和国を女性像化した『マリアンヌ』というのがあります。硬貨や切手にも描かれており自由の女神という存在として扱われているみたいです。
ドイツには『ゲルマニア』、アメリカは『アンクル・サム』等々、そういう国が60ヵ国以上存在しているみたいですね。
でも偉人や英雄への侮辱と、壁と天井のカップリングは知らないです……特に後者は初めて聞いた時は凄すぎて笑いました。