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扉の先 ~軽度~

 話の流れを取り敢えず箇条書で書いた所、三行だけで一話分(5000字越え)になりました……短編のつもりだったんです。連載用に切り替える羽目になりました(笑)

「ダ、ダメ! そんなの近付けないで!?」


 私の目の前には忌まわしき……口にするのも悍ましいモノが描かれてたわ。その、殿方同士による、裸で……とにかくすっごい本。とても(きら)びやかで薔薇まで咲いていて……直ぐに目を逸らしたのに脳内に焼き付いて頭から離れないっ……何で私はこんな事態に!?


「ティファナ、もっと正直になって良いのですよ?」


 それを私の親友が魅せ……じゃなくて見せ付けてくる。本を見開き私の視界を埋めようと……埋めようととっても素敵な笑顔を向けてとか本当に意味が分からない! 人には誰しも何かしらの一面があるとか言うけど、こんなの想像できないから!?


「しょ、正直だなんて……ち、違うからっ!?」


 そんなモノ見たくないからっ! 私を変な道に堕とさないで! そんな、そんな素敵……じゃなくて! いかがわしい本なんて! 在り得ないから!?


「さぁ、リアステラ様の教えを受け入れるのです」

「素敵な世界を一緒に楽しみましょう?」

「分かっています、貴女には才能があるのですから」


 だけどそんな私に語り掛けて来るのはリアの仲間達。逃げようとした私を取り囲んで……取り囲んでそれぞれが厳選したというお勧めの本を見せて来る。令嬢だけでも住人はいるのにそれだけじゃない、メイド達まで私を囲むから残酷な事にどこにも逃げ道が無い。


「だ、誰か私を助けてええぇぇぇぇ!?」


 それぞれが洗脳するかのように……同性愛の素晴らしさを口にして来て私は悲鳴を挙げるしかなかった。だってサロンに呼ばれたから来ただけなのよ? こんな人生最大のピンチに陥るなんて想像できないじゃない。

 だけど、私の助けは誰にも届かなかった……私の御付きのメイドも()()()()だったからね、ふざけんな! 一緒に本持って混ざんなっ!? その満面の笑顔殴るわよ!?





 事の始まりは私の親友、公爵家の長女であるリアステラ・レフィンドからサロンに招かれた事。他国から有力者の娘であるウナ・モルテンブ侯爵令嬢が遊びに来るという事で、折角だから私も顔を繋がないかと言われて頷いたのが人生最大の過ち。そこで始まったサロンは普通の令嬢であれば口にするのも(はばか)られる内容。

 そのぉ、つまり……と、殿方同士による恋愛事情について。私を置いてきぼりにして熱い議論が始まって一人ポカーンとしたわ。だって公衆の場で口にしようものならまず憲兵でも呼ばれるような内容なのよ? というか女性が口にしていい内容じゃない話のオンパレード。

 有力者のと顔繫ぎを色々と楽しみにしてたのにこんな展開予想出来ないから。意味が分からないわ。


 だけど主催者であるリアが軽く手を叩く事で、皆が一斉にピタッと口を閉じて恐怖しか感じなかった。えっ、ナニコレ?

 そしてこの最低なサロン(同性愛の教え)に初めて招かれた私の為にと……為にと洗脳が始まったの。近くのメイド達が宝石とか貴重品を入れる厳重そうなケースを差し出してきて、そこから本を取り出して泣きそうになったわ。


 お陰で私の知らない……というか知りたくも無かった世界を見させられた。お父様お母さま御免なさい、私は親友に汚されました。身体は大丈夫ですけど心が薄汚れて傷だらけです。というか外国から来た令嬢が()()()()()()に来るとか本当に終わってるわね。顔じゃなくて性癖繋ぎとかなんなの?


「やはり純愛こそお勧め致しますわっ! 王道であり初めに学ぶべき基礎の基礎。こちらの本を是非手に取って下さい!」

「王道も良いですが純愛過激モノも大変素敵ですよ!? リアステラ様は仰っておりました、ティファナ様は才能があると。ならば段階を飛ばしても問題ありませんっ!」

「いえいえっ! でしたらこちらの三角関係でドロドロした本が良いでしょうっ!? 人間関係の儚さと美しさを描いた感情が引き込まれる作品なのですっ!」

「ドロドロで言うのならこちらの本が良いですわっ! 四人の絡み合う思惑と熱情が心と身体を滾らせて下さいますっ! まるで私達貴族の(しがらみ)を表しているようですわっ!」

「それも良いですが私のお勧めは身分差による禁断の愛による物語ですのっ! 乗り越えるべき障害がある程燃え上がる恋というのがあるんです! こちらの一品を是非とも読んで管さいませっ!?」

「ひ、ひいいいいい!? なんなのよっ……この状況!?」


 キラッッッキラに! こう酷い表情を輝かせて私を洗脳なさんと語り掛ける悪魔の皮を被った令嬢達……そういう人種がいるというのは知ってたけど、こんな化物だとは思わなかった。思わず(うずくま)り耳を塞いで目を閉じて涙を流しながら現実逃避するのは正常の判断だと思う。


「ティファナ、初めて踏み出す世界というのは怖いかもしれません。ですが大丈夫、素敵な日々が貴女を(いろど)って導いてくれます」

「そんな腐った世界に染められてたまるかっ!?」


 そんな私の両手を無理矢理取って優しく諭すように言うけど……言うけどシスター紛いな口調で私を底なし沼に引きずり込もうとするな!? 数時間前の私を殴ってでも止めたいわ、この地獄に行くなと全力で……。


「大丈夫、扉はもう開きましたから」


 コイツが浮かべる満面の笑顔が悪魔にしか見えなかった。そしてリアの言葉が忘れられず……その後も令嬢たちの洗脳が続いて人生最大の地獄を私は味わい、気付いた時には自宅の屋敷に戻っていた。サロンの殆どの時間を私の洗脳で使い切り、解放された時には困憊疲労で頭がぐるぐるしたわ……彼女達の言葉が頭から離れなくて。


「……本当に疲れた。もう無理」


 一瞬茫然自失となったけど私は解放された喜びから泣きそうになりながらベッドに倒れ込んだわ……というかちょっと泣いた。部屋まで付いてきた私の御付きメイドを必死に追い出した後でね。何なのあのホクホク顔? 思わず殴りたくなったわ……取り敢えずお父様に言って御付きから外してもらいましょう。

 というかクビよクビっ! 一緒に私を汚すとか本当にメイドな訳!? もう溜息しか出ないわ……。


「お嬢様、夕食の準備が出来ました」


 ボーっとしているとノックが響いてメイドの声、あの馬鹿メイドだったら怒鳴っていた所ね、そして魔法の的にしてた。それにしてもご飯ね……今気分が最悪でお腹空いてないのよね。別の意味でお腹いっぱいだし胸焼けさえするし。


「悪いけどお腹は空いてないの、代わりに湯浴みの準備をして頂戴。入ったらすぐに寝るから」


 メイドに指示を出すとノロノロと立ち上がって浴室へ。折角食事を作って貰ったのに食べなかった事への罪悪感が糸を引いてお風呂も気分が晴れなかったわ……普段なら御付きのメイドに洗ってもらうのだけど、別のメイドを捕まえた。だって暫く顔も見たくないし。あんな……あんな本を勧めてくるし、意味が分からないわよねっ!?


 と、殿方があんなに愛し合って体を(むさぼ)り合うように凄い事してたしキス一つだって濃厚でねっとりとしてたし気持ちよさそうにしてて素敵な笑顔を向けて幸せな恋人同士だったし貴族の自由結婚が出来ない身としてはちょっと憧れる部分もあるしみんなイケメンで背も高かったし鍛え抜かれた筋肉は美しくて魅入られるし一つ一つの動作というか手つきもちょっと妖艶で思わず生唾を飲むかのような気分になったし体へのキスマークで愛しているの印を付けるのとか愛されてて羨ましいしリアが勧めて来た本だと殿方は首にしてて自分のモノだって独占欲全開でちょっとキュンと来たしでも私だったらもっといっぱい付けさせた上でディープキスを何度もさせる方がシチュエーションとしては良いなと思うし名前を何度も呼び合うとか……とか? あれぇ……?


「お、お嬢様!? し、しっかりして下さい!?」


 なんか……視界がぼやけて? 私がどうしたの? メイドが私に手を伸ばして来て……視界が暗転した。





「お騒がせしました……」


 私はベットの上で深々と頭を下げた……死にたい。


「全くだ、本当に心配したぞ?」

「そうよティナ、倒れたと聞いて生きた心地がしなかったわ」


 胸を撫で下ろすように声を掛けて来るのは私の両親……食事中だったと言うのに慌てて来て下さったからお父様とお母さまには本当に申し訳ない事をしたわ。本当に恥ずかしい……恥ずかしくて顔を上げられない。


「ティナ……兎に角無事でよかったよ」

「お兄様も申し訳ありませんでした」


 お兄様に至っては騎士団の宿舎から知らせを聞いて来て下さった程、穴が在ったら入りたい……サロンでの出来事が頭から離れずお風呂でのぼせましたって馬鹿じゃないかしらね? 本当に恥ずかしいわ、死ぬまで忘れないと思う。


「そのぐらい気にしなくていい、可愛い妹の為さ」

「騎士団の仕事だって忙しいハズなのに……本当にご迷惑を掛けました」


 それでも優しくお兄様は私の頭を撫でてくれました……優しがが胸に染みて死ぬ程痛い。激痛のあまり三回ぐらいは死ねると思う。

 いかがわしい本について考えてたら湯当たりしましたって言ったらコレは説教コースね、絶対に死んでも墓の下まで持って行くわ、こんな馬鹿げた出来事なんてね……。それと視界の隅にあの馬鹿メイドがサムズアップしているけど後で覚悟しておきなさい? 絶対に許さないからね? その眼鏡はカチ割ってやるから!


「旦那様、そろそろお嬢様はお休みになられた方が宜しいでしょう。大変お疲れのようですし」


 そんな私の決意を胸に、見た目だけは(うやうや)しく提案する馬鹿メイド。疲れた原因の一角がふざけた事をほざくから舌打ちしかけたのはしょうがないわよね? えぇ、しょうがないわ。私が万下の偉い、とっても偉いわ。

 そしてその言葉にお父様達は退席して一人になったけど、馬鹿メイドの去り際の笑顔に殺意が湧いた。死ねっ!


 ひとしきり呪詛を吐いた後はやっと重い溜息を吐いてベッドに倒れ込んだ。とんだ失態だもの、枕に顔を埋めて声にならない声を吐き出すのもしょうが無いわよね? しょうがないわ。


 そうして何十分やってたかは知らないけど、声にならない声を吐き出した後は……少し悩んだけど部屋のタンスの一つに足を延ばすことにした。そこにあるのは七歳の誕生日にお父様に買って貰った虎のぬいぐるみ。デフォルメされた大きなサイズで子供の頃は顔を埋めて寝るのがとても好きだった。ふかふかで幸せな気分になれるのだもの。


 それでも歳を重ねて恥ずかしさからタンスに仕舞うようになったけど……病気になったりして寝込むと偶に恋しくなって抱き枕にしちゃうのよね。アレから十年近く経ってるから子供っぽい気がするけど、不安になるとやっぱり顔を埋めたくて身近に欲しくなってしまう……恥ずかしいけど背に腹は代えられないわ。


「また一緒に寝ましょうね、ステファニー」


 名前まで付けた私の大好きで可愛いぬいぐるみ、ステファニーの為だけに用意した専用のタンスの取っ手に手を掛けてウキウキ気分で扉を開けて――力一杯全力で本気で扉を閉めた。


「……………………………………えーっと?」


 そこには存在してはならないモノが置いてあった気がして、つい条件反射で扉を閉じてしまったのは仕方が無いわよね? えぇ、仕方が無いわ。

 きっと気のせいと必死に言い聞かせて心から感情にまで必死に思い込ませて、再び扉を開けて………………見間違いじゃ無かった事に頭を抱えた。だってステファニーが大事に抱えているモノはサロンに()()()()()()()()()()()だったから。


「…………あんっの馬鹿メイドオオォォォ!?」


 帰る際にお勧め本一式を押し付けられたけど、ごみ箱に捨てろと命じてたのに! こんな事する馬鹿はあの馬鹿メイドしかいない。あの際り際の笑顔の意味を知って殺意が湧いた、絶対クビにしてやる! そのまま路頭に迷ってしまえ! 生まれて来た事を必ず後悔させてやる!

 憤慨して地団駄を踏んで金切声に近い悲鳴を挙げるとか令嬢がやって良い事じゃないけど、感情が抑えきれないわ!


「というかステファニーから離れなさいっ!」


 ステファニーから忌まわしい本を引っ手繰(たく)ってゴミ箱に……ゴミ箱に投げ捨てる前に表紙の二人の顔が目に入ってしまった。煌びやかで格好良くて素敵で……ってちょっと待って!?


「この二人、第一王子のウールニング様と神童のリヒテル様にそっくりじゃない?」


 この本は確か他国から来た有力者の令嬢……ウナ・モルテンブ侯爵令嬢が抱えてた本よね? えーと、ちょっと待ちなさい………………コレは確認しないと不味いわよね?

 コレは下手したら国際問題になるわよね? 肖像権の侵害とか侮辱罪? になるんじゃないかしら? もしかしたら何かの間違いかもと手に取って確認……コレは確認するだけだから、そう確認の為よ。


「………………うわっ、すご!? え~……嘘こんな、イヤだって!?」


 適当にページを開くとすっごい光景が目に入って来た。絵が綺麗だし淫らで激しい行為で……そう! なんというか絡みが凄くて、キスシーン一つとっても丁寧に描かれてて……本当にヤバいわね。

 そうしてページを捲ると……うーんやっぱりウールニング様とリヒテル様だったわね。お互いに名前というか愛称を何度も呼び合ってるし。うわうわ!? こ、こんな行為まで!? うわー……うわー……絶対ヤバい本じゃないコレ。


 こんな凶悪なモノが……お、男の人に付いてるし突いているとか……じゃないわよっ!?

 処分するにも方法を考えないといけないじゃない!? 家族に見付かったらお説教コースよ!? 下手したら勘当も在り得るわ!?


「って、うわ嘘でしょ!? こっちの本も良く見るとウィルフィン様やシャルクス様にレジスタール様もいるじゃない!? 殿下の取巻き全員いるって事!?」


 ……コレは念の為に検分しましょう、手に持っている本を放り投げて確認してみるとやっぱり間違いなかった。本当に信じられない、隠れて禁断の愛に走ったり愛の逃避行とか国に喧嘩を売るとか五人の為の同姓愛国を立ち上げるとか……なんてもの描いてるのよ!? 馬鹿じゃないの!?

 というか他の本も何かしらモデルになった人物がいるわよね!? 確認して……確認して――


「お嬢様、おはよう御座います。起きていらっしゃいますか?」


 ――悲鳴を挙げそうになって口を全力で塞いだ。いやちょっと待って!? さっきお休みになられた方が良いって言ったじゃない!? なんで起こしに来るのよ!? ねぇ馬鹿なの!? なんでこのタイミングでノックして起こしに来るのよ!? まだ夜じゃな………………かったわね、窓から暖かくて明るい陽射しが伸びてるわね。

 ………………………………………………えーと嘘? ちょっとまって冗談でしょう? 私徹夜でこの本達を読んでたの?


「お嬢様、失礼します」

「っ!?」


 その言葉にドアがガチャリと開いて――私は反射的に迅速かつ的確に行動、自身の命を燃やすが如く人生最大ともいえる全力の集中力をもって本を纏めて布団の中に隠し、尚且つ不自然にならないように身体を起こした状態でベッドに座る。この間一秒にも満たない完璧のやり取り、自分で自分を褒めたくなったわ。


「お、おはよう……ごめんなさいね、返事できなくて」

「お、お嬢様っ!? もしかして体調がすぐれないのでしょうか!? 顔色が悪く目も熊が出来ています……」

「そ、そうかしら? そうなのかもね……」


 内心汗がダラダラで、だけど体調がすぐれないのは事実……徹夜しちゃったものね。信じられないわ、夢中で読んでしまったってねぇ……? 意識すると睡魔が襲ってくるとか本当に何なのかしら、昨日に続いて失態続き。リアにあったら必ず文句を言いましょう、そのまま縁が切れても良いぐらいに文句言ってやるっ!


「畏まりました、本日の学校はお休みした方が良いようですし御伝えしてきます」

「え、えぇ。お願いね? 私はそのぉ……寝るから」


 メイドのお辞儀と共に部屋を出て行って……本気で安堵からの深い溜息が自然と出るのはしょうがないわよね? 本当に死ぬかと思ったわ、心臓に悪いわよ。

 とりあえず難を逃れたからゆっくりと寝たい所だけど、その前に本をどうにかしなとダメよね……。


 不本意というか物凄くイヤだけど、ステファニーが閉まってあるタンスの奥にこっそり隠して……ついでにステファニーを大事に抱えてるとベッドの倒れ込むように入ったわ。


「お休みなさい、ステファニー……」


 嫌な事を忘れ去るようにステファニーの頭を撫でると目を閉じて……先程まで読んでいた本が頭によぎって暫く寝る事が出来なかった。あの馬鹿メイドは絶対に許さないからっ!


 サロン――なろうで良く聞く単語ですが、元々はフランス語になります。

 貴族の邸宅や宮廷などを舞台にした社交界をそう呼びます。なんでも17世紀にフランスでランブイエ侯爵夫人カトリーヌ・ド・ヴィヴォンヌという人物がサロンの始まりを作ったそうですよ。

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