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『七行詩集』

七行詩 441.~460.

作者: s.h.n


『七行詩』


441.


貴方の前には 差し出せず


貴方の背中に 私は手を伸ばし続けた


貴方は人に 愛されるべく生まれたのでしょう


それが貴方でなかったなら


待つことも 見送ることもできなかったでしょう


それが私でなかったなら


貴方を取り巻く 壁の一部になれたのに



442.


貴方に初めて出会ったとき


私は 真っ白な本を開きました


これから起こる すべてを記録するために


別れや再会も含めて


その物語は 途切れることなく続きます


貴方の居ない 空白さえも 書き残していく


いつか生涯を終え この手で本を閉じるまで



443.


六月の夜は どうして冷えるのか


私はまだ分からずに居ます


貴方の好きな花が咲く季節は


私が生まれた季節でもあり


年を重ね あの日の貴方に追い付いたのに


どうして今 出会えなかったのか


足の遅い私は 行き先さえも分からずに居ます



444.


弱さから愛が生まれるなら

 

想いの強さは何でしょうか


それまで知ることのなかった


自分の隠れた力や姿に 何度も助けられてきた


しかし 貴方は解ってはくれない


きっと 貴方に夢を見せるためには


私が夢を 見ているようではいけないのですね



445.


車や人が 通り過ぎれば 静かになる


私のために 空いた席に腰かけている


今さら気づいた


こんなに空が 広く見える場所だったのかと


肌寒く 澄んだ夜の幕が 何を映していたとしても


あの日の私に 空など見えていなかった


貴方のことしか 見えていなかった



446.


針の転がる道の上を 走り続けることになっても


神が与えてくださったなら


私は進もうと 決めたのです


隣に居ない 貴方を求め 真っ直ぐに


やがて流れ続ける景色の果て


愛車とともに 海に飛び込むのは


そう遠くない 未来であると 知りながら



447.


光であれど 底の見えない泥沼であれど


私は運命を信じます


心を捕らえる 鎖は涙で錆び付いている


その絆を 再び固く 結び直そうとするのですが


引けば千切れてしまいそうで


そっと撫で 形が残っていることに


私は ほっとするのです



448.


願いを叶える流星は


叶わぬ夢が 空から堕ちてきたのかもしれない


目は霞み 細った身体に満ちる疲れに


私ももうすぐ 空から消えてしまうかもしれない


その瞬間に 貴方が私に気づいてくれたなら


私は貴方の願いを 叶えて差し上げたい


流れた光を 貴方が覚えて 居てくれるなら



449.


時計一つない 小さな部屋に


心臓が二つ 競って時を刻んでいる


この胸に 手を当てて数えてみてください


二人に流れる 時間の速さというものを


日付を跨いだ 隣の部屋の私達も


夜は 明かりを消して眠り


朝は コーヒーの香りで目を覚ます



450.


過ぎた季節は ビー玉の輝きの中に


大事なことは 貴方に決断させてきたことで


次第に離れていったのなら


いっそ自由を 奪ってしまえばよかったのか


そして今 残された私は 自由である


貴方が居た町に吹く風を


私はこれからも記憶してゆく



451.


月に見守られ 影を並べた


二人の涙は湖となり


その美しい水面を 波立たせぬよう


事を起こさず 顔も合わせず


過去を寝かしつけ 新しい顔で進もうとする


私の胸には 毎晩嵐が訪れて


心の岸辺へと 想いが打ち寄せてくるのに



452.


百年は 決して長くはありません


貴方を感じ 眠る間に 過ぎ去るでしょう


最期まで守り抜くことも さほど難しくありません


一度出会ってしまったら


別のものを それとは 認められないもので


互いの心を生かすため


たった一つの最善が 今かもしれないと思えば



453.

 

その目は特別を捕らえたのか


特別に囚われているのか


待ち続けること 呼び続けること


人形にできるのは それだけで


自ら向かって 探しに出ることは難しい


帰りの切符を二枚買っても


貴方を連れ帰る 丈夫な手足を持たないから



454.


映画の中では 間違えるのはいつも男で


弁明のような愛の言葉が 唯一の武器で 盾である


貴方はいつ黙るのかしら、と


それは 空の回転が止まるとき


私が意識を 身体を手放すときでしょう


或いは小さな山小屋で


向かい合い 目を閉じるときでしょう



455.


過去は 私の兄弟であるように


私に教える 未熟さや 後悔とは何であるのか


とてもよく似た顔をして


二度と動き出さない過去は


大事さとは何か 写真の中から語りかける


それは色褪せ 同じく年を取りながら


若さを残し あの頃のままの 貴方の顔を映すから



456.


たまには お喋りをしましょう


グラス一杯分の 時間でもいい


ほんの小さな息抜きとして


微睡みの中で 見たような短い夢として


貴方が持つ 多くの友人の一人として


それ以上の 理由などなくとも 良いでしょう


その店を探し歩く役は 私が買うことにするので



457.


身の丈に合わないことだとしても


必要なのは今だから、と


見上げる棚の上に置かれた ビンを取るために


展望台の柵を越え


夜空と町が一つになるのを


貴方と並んで見るために


大事な時には 背伸びも必要なのでしょう



458.


いつか大きな家を建てようね


貴方はそう言ったけれど


貴方と一緒に居られる家が あればよいのです


そこが二人の城であり


並んで歩く道全てが 二人のための庭なのだから


二人の願いを叶えるためには


何よりも 二人で居ることが大切でしょう



459.


本など所詮 作りものだと


貴方は理解を拒みますが


作り物の方が よく笑うのではないですか


私はただ 貴方と自然に 笑い合いたいだけなのに


一人で顔をしかめるだけなら


私を傍に置く 理由とは何ですか


支え合うため 傍に居るのではないですか



460.


夕焼けは 私を家に帰すため


“こちらへおいで”と 赤く燃え 呼び掛けるのです


“素顔を見せてはなりません”


“貴方は役を持たないのだから”


この世界にはルールがある


孤独な兵士は 帽子を被り


一日の終わりに 夜の国へと 帰るのです








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