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俺はいつも悪い意味で裏切る。  作者: 冷やしヒヤシンス
一章 君の従姉とその他と
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心苦しい

 

 恋愛相談だってぇ!? あのモブ女が? 誰か知らんけど。


 えぇ、意外です。まさかそんな大層な感情を持っているとは思ってませんでしたからね。


 あぁ、それな。是非とも幸せになって欲しいですね。


 彼女にぃ? いやいやあの性格で誰かと付き合うって無理じゃないですか(笑)。


 賛否両論の意見がありますが私達は幸せを願っています。おめでとう。おめでとう。おめでとう、と拍手する。


 と、一人でインタビューごっこしている訳だが。何故か俺は恋愛相談に巻き込まれてしまった。

 関石さんと翡翠さんに半ば強制的に席に座らされた。役割は批判家と傍観者らしい。


「にしても批判家ってなんだよ……そんな風に見られてたのか俺」


 口を挟めず天井を眺めながら話を聞いていたらインタビューしていたのだった。

 モブ女こと――北山南海。髪型はショートボブだけど、とにかくチャラい。ショートボブとチャラさに因果関係はないけれど。


 しかし――話を聞いてみたが、恋する乙女にはあまり関心を持てなかった。なにより相手があのチャラ男こと伊藤、ってのがね、もう。そりゃ話聞く気も失せるってもんだ。


 あなたの気持ちがわからない! 人を見る目あんのかモブ! とまでは思わないけど、ため息ものだった。


 そんな俺と裏腹にその北山さんは結構ガチだった。だから思ったことを直接言うのはやめておく。

 真摯な振りをして話を聞いていたものの確かにこれは関石さんの言った通り背中を押すだけだと思った。

 もしかしたら関石さんは俺への嫌がらせのつもりで見せつけているのかもしれない。この飽きるような状況を。

 だとしたら、


「かなり性格悪いな」

「誰の性格が悪いって?」

「北山さんのことじゃないから! 勿論伊藤のことでもない!」

「っ……」


 伊藤の名前を聞いただけで顔を赤くしちゃったよ。俺にはもうお手上げだ! 恋する乙女は皆こうなのか!?

 天井を仰ぐようにして椅子の背中に重心を傾けた。


「ねぇ、天風君。伊藤君ってどんなタイプが好きとか知らない?」

「俺が本当に知ってると思って訊いてんのか? 関石さん」

「まったく思ってないけど。お世辞みたいなものだから気にしないで」

「うん、性格悪いね。俺に対して」

「そっか天風君は知らないか。明日、さりげなく訊いてみようか」


 翡翠さんと北山さんはそんな会話の間、まったくの無言だった。そんな目で見ないでくれ……いや、見てるのは関石さんの方だ。

 俺はともかく関石さんのこの態度は先程とは違うから。俺に対しては明らかにダウナーだからか。

 けれど、直ぐ完璧に繕う。


「それでいいよね? 南海」

「あ、うん。ありがと」


 この度の恋愛相談はひとまず終了。背中を押すには至ってはいないが初めはこんなところだろう。


「さっきの聞いてて君はどう思った?」


 翡翠さんと北山さんが帰った後、一緒に職員室へ原稿用紙を私に渡しに行った。

 昇降口への道中、感想を訊かれた。


「あんなんで本当に勇気とか出んのかねー」

「勇気自体はあるんだよね。ただ誰かの許可が欲しいみたいなね。そこら辺の女子事情は天風君にはわからないだろうけど」

「やっぱり茶番だな」

「何も思わなかったってことね…」


 この部分だけ切り取ったら俺は何も思わない無関心人間みたいだけど、少しは驚いたこともあった。


「んなことないよ。北山さんの恋愛話は実にためになったよ」

「利益損得ね」

「言い方が良くない! 基本的に俺はそういうやつなだけであってな…」

「そっか、そうだよね。君はそういう性格だったね。こりゃ一本取られた……とか言ったりして」

「それに恋は偉大だともな」

「偉大……そういうのを茶番って言うんじゃないの?」

「そうだけどさ。でも茶番だって悪くはないんだよ。人間だからそんな無駄なこともするさ」

「無駄か」

「関石さんみたいな完璧主義者から見たらおかしいんだろうけど、当事者になればわかるよ」

「どうやってなるか教えて欲しいよね」

「こればっかりは神のみぞ知るだからな。とりあえず新世界の神から目指せば?」


 どことなく関石さんの表情は浮かなかった。こんな会話も飽き飽きってな。

 それとも俺に意外と意外性がなくて落胆してるとかか?

 もしそうだったら俺とどっこいどっこいの楽観者だ。勝手に期待されても困る。

 そうこうしていたら昇降口に辿り着いた。


「―――」


 気まぐれだけど、何かを言いたくなった。

 人生に辟易しているだろう彼女に俺がかけられる言葉はあるのか?

 そもそも言葉をかける理由もない。けれど何か言いたかった。

 詰まらなそうに生きるのを見るこちらの気持ちも知って欲しい、とか。

 だから。


「もしも、本当の本当に人生に飽きるようなことになったら――俺に言ってくれよ、捨てたもんじゃないって教えてやるから」


 関石さんは意外そうな顔をした。俺がこんな積極的なことを言ったのが珍しかったのかもしれない。

 そして微笑む。

 でも、それは。

 作り物の笑顔で、今までで、一番詰まらなそう表情だった。

 彼女は心ない答えを告げる。


「うん、期待してるよ」


 苦かった。

 苦味が体全体に広がった。

 どうやら選択を誤ったらしい。


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