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“曰く”の睡眠妨害にいつまでも構ってはいられない。一度詰めたのだからしばらくは……できればこの先ずっとご免被りたいが……
『……じゃなくて!』
“曰く”は寝かせてくれる気はないようだ。
どういう理屈かスイッチが押された音もしないのに蛍光灯が点いて、今度は逆に“曰く”の方が私に迫る。
『幽霊だよ!? 金縛りだよ!? 何でそんな平然と~……スルーできるの!!?』
何でと言われても、それくらいであれば私にとって取るに足らないことだからだ。
そして今は明日に備えて寝ることの方が比べようもなく重要だ。
「……理由もなく自分が特別だと思い込むのは、結構イタい」
つまるところそういうことだと私が思うもっともなことを言った。
……のだが、
ビキッ
また金縛りをかけられてしまった。
『い い 言わせておけばぁ好き勝手なこと言いやがってぇえ……!!』
今度は彼女の声も怒気を孕んでいるようだ。
『そもそもここは私の家なのに、勝手にやってきて勝手に居座って~……わ 我が物顔で~……態度もでかいし……何なのお前ぇ!!』
声の感じから相当にお怒りの様子だが、どうにも覚束ない喋り方のせいか全く怖くない。
それに言っていることも子どもの駄々のように支離滅裂だ。
生憎だけど、私も暇じゃない。
「んっ」
先ほどと同じように体をよじると、パチッと小気味のいい音を立てて金縛りが解ける。
『えっ』
何度かけようと無駄だというのに、この幽霊も物覚えが悪い。
金縛りが解かれ戸惑う様子の“曰く”をよそに、私は部屋の隅にいまだ段ボールのまま積まれている荷物の中からこの部屋の賃貸借契約書を取り出した。
「これ……この部屋の賃貸借契約書」
そして契約書を開き、私の名前が署名押印されているページを開いて見せる。
「契約者、私 今ここを借りて家賃払ってるのは私 だからここは私の部屋」
“曰く”は分かっているのか分かっていないのか、私が突きつけた揺るぎようのない書面(現実)を前に津川●彦のような渋面でコクリと頷く。
「……寝ていい?」
幽霊である自分にこうも強気に理詰めで抗う人は今まで居なかったのだろう。そもそも彼女がハッキリと見えて抵抗した入居者が私以前にも居たのかは知る由もないが、そんな私のイレギュラーな反応に面食らったのか、淡々と話す私のペースに流されたのか“曰く”は「はぁい」と力なく一言発した後、その晩はそれ以上絡んでくることはなかった。
………
そんなこんなで再び寝付くことはできたのだが、結局私はそれはまぁ見事にやらかしてしまった。
ここ数日、眠れていないことはないが“曰く”の妨害によって睡眠を半端に中断される日が続いていたのでやはり寝不足が嵩んでいたのだろう。そんなコンディションの中、まだ肌寒い季節にほどよく暖房のきいた大学の大講義室はそれはもう心地よく、加えてガイダンスでの職員の抑揚もなく面白くもない長々淡々としたお経のような説明は、私にとってもはや子守唄も同然だった。
結局朝一で始まったガイダンスが少々押して昼過ぎに終わるまでのほとんどをそれはもう健やかに寝過ごしてしまい、隣に座っていた女性が起こしてくれた頃には講義室には私たち二人だけになっていたのだった。
次回分は30日更新予定です。