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G魔法戦士ニグラム(黒) ~強制転生に強制特典。あとゴキ○○~  作者: erif tellab
3章。ようやく始まる冒険者活動(遅い)
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47話。ユピルのダンジョン

 一通りの準備が終われば、俺たち四人は早速馬車に乗ってルズベリーの街を出発した。馬車は俺が以前にナサリオさんと乗ったワゴンのようなものではなく、干し草などを積めれば上等といった感じの簡素な荷台を引いている。屋根はなく、直射日光が直撃する。今日が炎天下じゃなくてよかった。


 手綱と鞭を操る御者の元、二頭の巨大な赤い馬は懸命に地面を蹴る。普通の自動車なら舗装されていない自然道を通るのは一苦労だが、馬である彼らなら話が別だ。道がアスファルトに覆われている訳ではないので、土を延々と踏みしめている以上は蹄を痛める心配はほとんどないだろう。


 その一方で、荷台は遠慮なしにガタゴトと揺らされる。車輪は勢い良く回り、まるでペース配分を知らない。シートベルトなんてものは存在しないため、荷台から投げ出されないように気をつけなければならない。


 しかし、この感覚。なんというか、自動車に乗っているような……。


「ねぇ、これ速すぎない? やっぱ俺の知ってる馬車のスピードじゃないんだけど」


「ううん、これが普通だよ」


「だよね。うん、知ってた」


 俺がふと口にした疑問も、リエにあっさり返される。


 俺の知っている一馬力が全然当てはまっていない事は、端からわかっていた。けれども、いざ常識の食い違いと向き合ってみると、そこはかとなく悲しくなってくる。常識が壊れないように祈っても結果的には叶わないと薄々感じてしまうから無情だ、この異世界は。


 そうして異世界のどこかイカれている情緒に触れていると、不意にアレックスが質問してくる。

 

「ん? 兄貴、馬車に乗るのあんまりないんすか? 見るからに出身地が遠い国って感じがするのに」


「悪い、アレックス。それは聞かないでくれ。てか兄貴呼びやめて」

 

「そんなとんでもない! こんな風に見せびらかしておいて、もう兄貴以外にどう呼べばいいんすか?」


 “こんな風に”。アレックスの放ったその言葉に俺は一瞬、首を傾げてしまう。こんな風ってどんな風だ。


 アレックスの視線の先を追ってみる。目は俺を中央に添えつつ、度々左右に振れている。俺の向かい側に座っているのは彼一人だけだ。隣にはリエとティナが、まるで俺から逃げ道を塞ぐようにして陣取っている。


 オーケー。この時点でアレックスが言いたい事は大体わかった。俺は今、アイツに女の子を侍らせておく男として見られている。


 まぁ、それは色々と誤解であるので、手っ取り早く弁解しておきたいところだ。何も語らず二人の間を抜けて、こっそりアレックスの隣へ移動しようとする。


 結果、そんな俺の企みはリエとティナにそれぞれ腕を掴まれる事で阻止された。音もなく、気配もない。無理に引き離そうとしても、より力強く腕を握られるだけだった。


「……こんな風に捕まるから大人しくしてるだけなんだよなぁ」


「あ、えっと、すいません。俺、何か勘違いしてました……」


 そうやって俺が観念すると、アレックスは豆鉄砲を食らったかのような表情で謝ってくる。わかってくれたなら何よりだ。


「あらぁ? 私は鈴斗と一緒に居たいだけなのよぉ。それこそ病める時も、健やかな時も、いついかなる時も愛をもって。イケない事なのかしらぁ?」


「質問も微妙にずるいよなぁ……。真に否定しようがない」


 結婚式での神父の誓いの言葉も交えて小悪魔的に翻弄するティナにはホトホト参る。その上、さらに強く抱きつかれては苦笑するしかなかった。


 一方のリエは、次第に俺の服の袖をちょこんと摘まむだけに留まる。体育座りをしながらのそれは何だかじれったく、親鳥に引っつく雛鳥みたいな愛嬌が感じられた。顔の向きは俺をプイッと避けている。


 ティナが一緒にいる時は何度もこうなる。試しにリエを呼び掛けてみるものの、鼻唄を鳴らしながら抱きついているティナが気に食わなせいか、何の応答も寄越さない。こちらが無理にでも顔を合わせようとすると、リエはムキになってかわし続ける。


 こんな風にリエの一通りの反応を示した後、俺はアレックスに符合を求める。


「こっちが聞こうとすると、いっつもこんな感じになる」


「ハハハ……すごい反応っすね……お疲れ様です」


 これにはアレックスも苦笑いする。できる事なら同じ目にもあってもらいたいものだ。道ずれとして。


「あれ? 何か道が封鎖されてるよ」


 しばらくすると、いつもの調子に戻ったリエがゆくりなく声を上げる。全員の視線が馬車の進行方向へ集中する。


 遠くに見えるのは大きな森。その周りには大量の馬車やら兵士やら、天幕やらが張られていた。この世界の時代水準が近代以前であるので、戦争でもするのかと思わせる。


 しかし、よく観察してみると中にはお馴染みの王国剣士団が混ざっている。天幕の数も片手で数えられる程度で、むしろ野営よりも森に対して何かしら行動を取っているようだった。


 道路上には立ち入り禁止の札や看板は立てられていない。ただ、細い木の長杖を持った剣士団と兵士の数名がど真ん中を突っ立っていた。


 彼らとの距離が縮むにつれて、俺たちの乗る馬車は大きく減速。遂には目前で停車した。そこに彼らの中から一人の男が近づいて声を掛けてくる。


「あー、すみませんね。ここから先はちょっと行き止まりなんですよ。て、あっ……」


  男と目と目が合う瞬間、俺はすかさず顔を隠す。やるのが既に遅く無意味だとしても、とても彼の顔を見れそうになかった。


 この人にはカエル怪人事件後の聴取の際に会った覚えがある。確か、周りからハーファスと呼ばれていた剣士団員だ。俺がデビルアロマ関連の事件に尽く巻き込まれているのを「またか」と溜め息ついたのは忘れない。


 そして、それ以外にも理由があるのかもしれないが、俺はハーファスさんにとりわけ嫌われていた。馬車にいる俺の存在に彼は気づくと、急にギロリとした目付きになって捲し立ててくる。


「おい、お前! まさかだと思うが、わざとここに来てるんじゃないんだろうな!! 疫病神かよ!」


「いや、知りませんよ!? 偶然です! たまたまです! ユピルのダンジョンに行きたいだけなんです!」


「は? ……じゃあいいか。最寄りのダンジョンへはこちらの迂回路をお通りくださいねー」


 ハーファスさんは俺の目的を知るや否や、手のひら返しにニコニコと別の道を指し示す。気持ちの切り替えが早いだけなのかどうか、前後の対応の温度差に気分は複雑だ。


 御者はハーファスさんの指示に従い、馬車の行く先を変える。その時、ささっと持ち場に戻ろうとしたハーファスさんをリエが呼び止める。


「すみません、剣士さん。何があったんですか?」


「ベクターさんとこの娘さんか。いや、凶悪な犯罪者があっちの森ん中に逃げ込んだから、こうして囲んで探してるんだよ。さぁ、行った行った!」


 そんなハーファスさんの追い返す仕草を皮切りに、馬車は再出発する。みるみるうちにハーファスさんたちの姿が遠ざかっていく。


「へぇー、あんな感じに犯人追い掛けるんだね。人がたくさん」


「森の中に逃げ込むって、犯人相当ヤバそうな気がするっすね。森には魔物がたくさんいるのに」


 リエとアレックスの二人は思った事をそれぞれ述べる。


「あれだけ人員がいるならすぐに捕まるでしょう。彼ら、案外優秀だからぁ」


「あの風景、どこの世界でも変わらないんだな……」


 次にティナの言葉を受けて、俺はついつい日本へ思いを馳せる。


 警察の仕事を丸々受け持っているような組織の王国剣士団だ。あそこにある馬車がパトカーにもしも入れ替わっていれば、それこそ間違いなく警察組織に見える。鎧を着ているのは、中世やファンタジーの風情という事で。


 そんなこんなで、目的地であるユピルのダンジョンには意外と早く到着する。ルズベリーの街から出発して三十分ぐらいだろうか。


 冒険者ギルドの管理下に置かれているダンジョンには、入り口前に検問所と呼ばれる砦が設置されている。検問所の基本的な役割は、出入りする冒険者の緻密な管理だ。また、ダンジョン内における犯罪を防止するための取り締まりもしている。


 ちなみにルズベリーの街の近くにある四つのダンジョン、アヌン・ユピル・フレイグル・ハルワリックだが、一か月前まではこれら全て封鎖されていたらしい。ダンジョン調査やらで騎士団やギルド員が赴き、今では前者二つが制限付きながらも無事に解放されているが。


 馬車から降りた俺たちは早速、砦の正門を抜けて検問所へと入る。砦の内側は簡素な建物配置がされていて、ダンジョンへと続くだろう洞窟までは一本道だ。また、街の方にあるギルド館のエントランスよりも混雑していない。


 四人でまっすぐ受付席へと向かい、ダンジョンへ行くのに必要な手続きを済ませる。期限は二日。進む階層は地下第三層まで。貸し出し用ゴーレムであるポーターズも受け取る。ポーターズは待機状態が串団子のようになっているので、持ち運びに便利でかさばらない。


 これでようやく洞窟に進める。洞窟の入り口付近に佇んでいる守衛の横を通り抜けて、自身にとっての未知の領域へ一歩ずつ足を伸ばしていく。一人ではないので怖くも寂しくもない。


 洞窟内は、岩肌に埋め込まれている大量の水晶が発する淡い光で照らされていた。コウモリやその他の生物が住んでいる気配もなく、懐中電灯などが要らないくらいに明るい。足場は少しでこぼこしている程度で、まだ余裕で歩ける。


 そんな中、リエが一人先に突っ走っていた。二十メートルほど走ったところで振り返り、俺たち三人に向けて手招きする。

 

「ほら、皆! 早く早く! そんなに怖がらなくてもまだ大丈夫だよ、スズト!」


「こっち初心者! そっちベテラン! オーケー? 罠が怖い!」

 

「兄貴。ここの通路、ホントに何もないんで平気っすよ?」


 リエを諌めていると、横でアレックスから思わぬ返しがやって来て肩がびっくりする。アレックスの顔を二度見し、気を取り直して前に進む。ペースを少しだけ上げて。


 また、既にダンジョンに突入しているだけあって、ここまでティナに腕組みされなかったのは幸運だ。身軽で嬉しい。それでもティナは未だに俺の隣にいるが、動きを制限されないだけマシというもの。ただ俺の隣にいるたけでも幸せそうな雰囲気を醸し出しているので、しばらくはこのままにしておこう。


 そうして五十メートルは歩いたと実感できる頃、突如として深い霧が何の前触れもなく俺たちの周りを覆ってきた。霧は一気に視界を奪い、手探りで進んでいくのを強いらせる。


 だが、霧の発生はほんの数秒間だけだった。咄嗟に大声を出して全員の安否をしようと思えば忽然と晴れる。何だか肩透かしを受けた気分だ。


 ティナとアレックスは先ほどと変わらず俺の近くにいる。しかし、ずっと前を歩いていたはずのリエも何故か目の前に立っていた。たった数秒で音も立てず、相手に気づかれず走ってきたにしては、些か無理がある気がする。


 リエはこちらに背を向けたまま、無邪気に「わぁ……」と声をあげる。そこで俺は、周りの景色が洞窟内部から別のものへと変貌した事に遅れて気がついた。


 上には青空、左右には生い茂る草木たち、正面には馬車が一台通れるほどの幅がある道。試しに後ろを見てみれば、近くに俺たちが抜けている途中だった洞窟があった。


「ねぇねぇ、すごいでしょ! 洞窟の中なのに外があるんだよ!」


「お、おう」


 熱心にアピールをしながら、リエはぐわっと顔を近づけてくる。俺は少し仰け反って返事をした。


 その時、隣にいたティナは揚々と口を開く。


「厳密には違うわねぇ。空をよく見て。うっすらと黒いモヤが見えるでしょう? あれ、岩の天井なの」


「へぇー」


 言われる通りに空を注視すると、ほんの僅かだが確かに黒いモヤモヤが見えた。異世界の風土や地理のぶっ壊れ具合に唸ってしまう。


 こうして見る限り、ダンジョンは天然のアーコロジー空間だとしか思えなくなる。一体どういった仕組みで出来ているのたろうか。事前の調べものでも、それに関する詳しい情報は見つからなかった。


「ここは第一層。チャンピオン牛はもう一個進んだ先にいます。用がない階層はとっとと抜けるのが吉ッス」


「待って、アレックス! 二層目にはすぐ行けるんだし、時間もあるからゆっくり行こう? せっかくスズトが来たんだから、色々案内しないと」


 意見を出すアレックスをリエが呼び止める。そわそわとしている様子から、ワクワクが止まっていないのが一目瞭然だった。


「もう楽しそうだな」


「えへへ」


 その事に触れてみれば、リエは途端に照れ出す。元より明るい笑顔の色が一層と深まった。


魔物図鑑その十、トレントルーパー。


トレントが木造機動戦士となった人型巨人。全長は六メートルくらい。枝先に生い茂る木葉はリフティングユニットになっている。わかりやすく言えば、短時間ながらも空中浮遊ができる。


装甲は木の皮だが、赤魔法みたいに魔力を浸透させて強度を底上げしている。その硬さはチタンとかセラミックとかとタイマンできる。それを倒せた実績があるのが、異世界人クオリティ。


弱点は雷。逆に、火には滅法な耐性がある。

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