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G魔法戦士ニグラム(黒) ~強制転生に強制特典。あとゴキ○○~  作者: erif tellab
3章。ようやく始まる冒険者活動(遅い)
43/57

43話。依頼達成

 青いニグラムは翅があっても飛べない事を遅れて知ったから、俺は不様にも地面に落下して大の字に倒れた。やっちまったぜ。


 まぁ、元気に振る舞うのもほどほどにして、おもむろに立ち上がる。手元から落ちたナイフ――名称は多分、ブルーナイフ――を拾い、ヒマワリ怪人が霧散した場所を確認する。そこには、紫の水晶がポツンと置かれていた。


「ハァ……ハァ……倒せた、のか……?」


 それから息を整える。怪我は特にないが、ブルーナイフでの光鞭の魔力消費量が重かったようで、身体がとてもダルい。とは言っても、気合いで頑張れば戦闘続行ができる程度だ。


 バーストアンテナと翅はとっくに収納されている。休憩を挟めば、再度の展開はできる気がする。漠然としか能力を把握できないのがG魔法の辛いところだ。


 しかも、今回の敵はデビルアロマ系列の魔物。交戦経験はこれで……五回かな? トンボ怪人は結局どうだったかは知らないが、取り敢えず数に入れておく。


 よく考えると、どうしてこんなに戦う羽目になっているんだ、俺。自称神に呪われているのか?


 すると、リエとティナがそれぞれ近づいてくる。ティナはのんびり歩いている一方、急いで駆けつけてきたリエが話を切り出してくる。


「スズト! ティナ! 二人とも大丈夫?」

 

「ん、何とか。リエも平気っぽいな。ティナは?」


「私は大丈夫よ。それよりもぉ……」


 言葉を途中で止めて、ゆっくり人差し指を俺のずっと後ろへと向けるティナ。俺とリエはそれに釣られて振り向くと、かなり近くまで俺たちの元に来ているトレントルーパーの姿があった。


 全高はせいぜい六、七メートル……四階建ての建物ぐらいだろうか。太陽がトレントルーパーに隠れるなんて事態にはなっていないが、こうも手前の距離まで接近されると威圧感が増す。マシンみたいに無表情を貫いた顔で見つめてくるのはいささか薄気味悪く、後が怖いので逃げる選択肢が取れない。


 応戦? 俺はともかく、生身のリエとティナがいる状況で? 相手が未知数なのに先制攻撃を仕掛けるなんて以ての他だ。もうしばらくは様子見を続けたい。幸い、トレントルーパーに攻撃をしてくる素振りはなかった。できる事なら、そのまま慎んでお帰りになってもらいたい。必要なら降伏の意志を示す白旗も上げよう。その場合、トレントルーパーにとっての白旗が「お前ら皆殺しだ」などという侮蔑の意味を持っていない事を祈る。


 隣を見てみると、ティナはともかくリエの表情が少し苦かった。彼女も逃げ出そうとはせず、一瞬たりともトレントルーパーから目を逸らさない。俺も根が折れそうで、思わず現代地球の人類の叡知に助けを求めたくなる。


「誰かミサイルとか持ってない? 自衛隊呼んできて」


「自衛隊の話は聞いたからわかるけど、みさいるって何?」


 案の定、リエのツッコミが入ってきた。質問はもっともだ。


「そんなのはないわ。でも、そうねぇ。二人とも、ちょっと待っててくれるかしらぁ? 彼と話してくる」


「「え?」」


 そんなティナの返しに俺たちはうっかり疑問符を上げる。変身の事はともかく、教えた事はないのに自衛隊とミサイルの意味を知っているようで、頭の中が混乱する。


 だが、俺が尋ねようとするよりも早くティナは前に出ていく。途中で流れるように紫水晶を回収し、そのままトレントルーパーと至近距離で相対した。唖然とする俺たちを蚊帳の外にして、悠長に語り掛ける。


「もしもし、ご機嫌いかがぁ?」


 対してトレントルーパーは一切の言葉を発さず、手話でコミュニケーションを取る。手話の繰り出す様は驚くほどに慣れていて、トレントルーパーが福祉関係に従事する人に見えてしまった。


「ふむふむ……あら、そうなのぉ? 御愁傷様。でも日向ぼっこを邪魔した魔物なら、ご覧の通りよぉ」


 ティナはそう言って、手のひらに乗せた紫水晶をトレントルーパーに見せる。トレントルーパーはそれをじっと見つめると、納得したかのように頷いた。


「そう。ではごきげんよう」


 トレントルーパーの意思がティナだけに伝わる。ティナが別れの言葉を済ますと、トレントルーパーは力強くものんびりとした足取りでこの場から立ち去っていった。だんだんと遠ざかっていく後ろ姿が非常にたくましい。


 なんやかんやで話し合いで解決し、俺はほっと胸を撫で下ろしながら変身を解除する。それに合わせてブルーナイフも、元の形に戻っていった。


「ふぅ……見習い向けの依頼なのにハードすぎる……」


「ごめんね。私がフルツロスの実を取ろうなんて言ったから」


「ううん、気にしてない。端から危険が伴うのはわかってたし」


 ばつの悪そうな顔をするリエに、差し当たりがないように言葉を返す。魔物が街の外に存在しているのだから、ちょっとやそっとの奴が来ても構わないぐらいの覚悟はできていた。トレントルーパーが規格外だっただけで。


 それにしても、異世界にはあんなふざけた生物もいるんだなぁ。依頼の小遣い稼ぎも、もう少し内容を厳選してからじゃないと。トレントルーパーと正面から戦いたくない。


 規格外と言えばティナも同様だ。さっきは彼女の魔物と意志疎通できる技能に助けられたが、よくよく考えれば色々とおかしな点ばかりだ。感謝の念よりも疑問がたくさん浮かんでくる。


「これで邪魔ものがいなくなったわねぇ。さ、フルツロスの実を取りに行きましょう? 残りは一個」


 その時、ティナが俺たちにそう促すや否や、摘まんで持った紫水晶を躊躇なく砕いた。力を込めた様子はなく、悲しくも草むらに捨てられた水晶の破片は、時間が経つにつれて消滅していく。


「あ……」


「どうかしたかしらぁ、鈴斗?」


「いや、何でもない」


 ふと声を漏らしたのをティナに感づかれ、俺は素知らぬ振りを取り繕う。容赦なく紫水晶の砕いた後に向けられた笑顔は、少し背筋を凍らせた。


 リエの方を見てみると、それとなく平静を保っているのが何となく伝わってくる。俺と同じように、綺麗に先ほどの出来事を受け流す事ができていないようだった。


 人間ではなく魔物となった者の死は、なるべく引き摺らないようにはする。ヒマワリ怪人は完全に俺含めた全員の命を狙ってきたんだ。襲う理由なんて知らないが、自分が殺される覚悟ぐらいは背負ってもらわないと筋が通らない。相手の命を奪う事を決めた刺客に、あの世でグチグチ返り討ちされた事に文句を言われても困る。どうか成仏してください。


 それでも、俺たちの周りに漂う空気が重たい感じがした。このままだと居たたまれないので、切り替えようと適当な話題を出す。


「ところでティナ。俺が変身してもびっくりしないんだな。怖くないの?」


「全然。リエだって、鈴斗がG魔法使っても苦手意識ないじゃない。普通にしていたわよぉ?」


「うん」


 ティナの発言にリエが声を合わせる。二人とも、屈託がない笑顔だ。


 こうしてみると、ニグラムの姿を気にしているのが自分一人だけだと実感する。かと言って、何も知らない人がニグラムを見れば恐怖するのだから、認識の度合いはちぐはぐだ。


「ちょっと初見の正しい反応がわからなくなってきた。てか、さりげなくG魔法とか知ってるし」


「えぇ、もちろん♪」


 俺が軽く悩んでいると、次にティナは小悪魔風味の笑みを浮かべる。あまりにも清々しく、逆にこちらの追及する気が失せてきそうだった。


「スズト、向こうにフルツロス!」


 その時、リエの大きな声が聞こえる。思わず首を動かしてみれば、トテテと走ってくるフルツロスの姿を視界の中に捉えた。


「ワン!」


「お前は……」


 フルツロスが俺へと駆け寄る。実は片方だけがないので、コイツは恐らくヒマワリ怪人から逃げ出した個体だろう。


「さっき逃げた子かしら?」


「えぇ、間違いないわぁ」


 次いで、リエとティナがこのフルツロスに当たりをつける。ティナのその確信は一体何が根拠になっているかは預かり知らぬところだが、そんな事を気にしている暇はない。早く実を回収しないと。


 さて、フルツロスとの三度目の対面だ。目の前にいる巨大ポメラニアンはお座りをして、俺の行動をじっと待っている。試しに頭を撫でてみれば、フルツロスの目付きが和らいだ気がした。


 毛並みはモフモフしていて、撫でている自分も気持ちよくなる。それからフルツロスの身体を爪先から頭まで見て、一言呟く。


「やっぱりデカすぎるよ、お前」


「ワフン!」





 その後、俺は遠慮なくフルツロスの実をもぎ取らせてもらった。これで必要最低限の個数を入手できたので、フルツロスと別れてルズベリーの街へ真っ直ぐ帰る。


 その間にティナへの追及はやったのか、だって? 残念な事に終始はぐらかされた。スキャンダルを求める記者の如く頑張ってもダメだった。


 冒険者ギルドに戻れば、テキパキと依頼品の納入とバスケットの返却、その他の手続きを済まして報酬金を受け取る。もちろん、紙幣ではなく全て硬貨だ。硬貨の入った皮袋を持って、冒険者ギルドを出る。


「なんか、こう……重みがすごい」


「ホント、小金持ちの気分になるよね」


 手元のお金の重量に感慨深くなる俺と、うんうんと頷くリエ。二時間足らずで依頼が達成できたから、時給二千円だと考えればお得感が余計に増してくる。命を賭けた分、この収入は妥当かそれ以下なのかもしれないが。一切のハプニングを考慮しなければ、かなり良い仕事だ。


 これが魔物討伐になれば話が急に変わるのだろう。猟師の仕事をよりハードにした感じで。うん、討伐系の依頼は回避しよう。トレントルーパーを見る限り、たかが小遣い稼ぎに魔物と死闘を繰り広げるなんて俺には無理だ。馬鹿すぎる。


「ところでさ、二人は本当に分け前いらないの? あれだけ危ない目に遭ってタダ働きとか、割に合わないじゃん」


 そう言って俺は再度、リエとティナに確認を取る。この話自体は街に入った時点で決着していたが、報酬金が全て自分に入ってくるのはどうも気が引ける。


「私は別に良いよ。たくさん貯めてるから。スズトがもらってて」


 首を横に振りながら、陽気に断るリエ。冒険者のランクは一般ゆえに貯蓄宣言には説得力がある。少しぐらい恩を傘にしても良いのに、その心遣いはありがたい。


「私もお金には困ってないわぁ。依頼の達成数を鈴斗と同じだけ稼げれば十分――」


 Prrrrr!


 瞬間、やたら聞き覚えのある音がティナの言葉を途中で遮った。その音に俺は懐かしさを抱くと同時に、一体どこから鳴ったのか首を傾げる。


「もしもしぃ?」


 気づけば、ティナは何かを懐から取り出して、それを自らの耳に当てていた。


 俺はその光景をずっと前から、色々な場面で目にした事がある。日本に居た頃では当たり前の出来事だ。間違いない。さっきのティナの口振りからわかる通り、彼女が取り出したのは――


「あ! えっと……思い出した! スマホ!」


「いや、むしろ古い方のケータイ。……えっ、何で?」


 リエの間違いを訂正しつつ、俺は言葉を失いかける。


 ティナの持つ端末は、西暦二〇〇〇年前後に出ていたケータイと見た目が被っている。幾つか気になるのがボタンの数の少なさと、通信アンテナがどこにも見当たらない事だが、どのみちケータイがこの世界にあるはずがなかった。


 ケータイを構成する多種多様の細かいパーツはどうした? 科学力が変におかしくないか? 携帯会社はどこ? 学割入ってる? そんな疑問が次々と頭の中に浮かび上がってくる。

 

「……ん? まだ二日しか経ってないわよぉ? ……そう、それなら仕方ないわねぇ。わかった、それじゃあね」


 静かに見守っていると、ティナは間もなく電話を終える。それからケータイ(仮)を仕舞い、両手を合わせて俺に謝ってきた。


「ごめんなさい、鈴斗。急用ができて今すぐ帰らないといけなくなったわぁ」


「う、うん。急用ならしょうがないな。聞きたい事か山ほどあるんだけど……」


 どうしても質問したい気持ちが強くなるが、たちまち閉口してしまう。まさかケータイ(仮)があるなんて、初めて魔法や魔物に触れた時以上の衝撃だ。


 隣ではリエが目をキラキラさせて、ケータイ(仮)が仕舞われたポケットを見つめている。良いよな、気楽で。少し羨ましい。


「また今度にしましょう? 大丈夫、三度目はすぐだからぁ」


 質問タイムの先延ばしに落胆するのも束の間、ティナがいきなり顔を近づけてきた。不意打ち気味にやって来たので反応はできても避けるのは間に合わず、彼女に成されるがまま頬にキスをされる。


 その際に甘い香りが鼻腔をくすぐり、加えて曲がりなりにもキスされた事実に俺は一切の身動ぎができなくなる。何度も瞬きをしてしまい、思考が一時的に吹き飛ぶ。


 いや、わかっていたんだ。いつか文化の違いとかで困惑する時が訪れると。だが、クスクスと笑うティナを眺めていると、頬へのキスが単に挨拶代わりのものではない何かだと疑ってしまう。


「ウフフ。アプローチの段階は鈴斗の希望に合わせるわぁ。まずはこれだけね♪ それじゃあ、ごきげんよう」


 違った。疑問を挟む余地もなく確信犯だった、これ。


 俺は咄嗟にティナを止めようと手を伸ばすが時すでに遅く、バイバイと手を振る彼女の姿は忽然と消え去った。まるで、最初から居なかったかのように。


 それなのに、俺は未だにティナの唇が頬に触れた感触を忘れていない。嬉しさが込み上げてくる反面、相変わらず知れないティナの素性に戸惑いを抱かざるを得なかった。

 

 ……だから、どうしてそこまで俺が好きなんだよ? 一目惚れ? 一目惚れなの? わからん。


「また消えちゃった……」


 俺と一緒にティナの姿眩ましを目撃したリエの口から、そんな言葉が零れる。前回の別れもこんな感じだったというのが、すんなりと窺えた。


「今日、衝撃の出来事がとめどなくやって来るなぁ……」


 程なくして今日の出来事が次々と脳裏に甦り、気分的に俺は悟ってしまう。何もかも理解が追いつかなかった。


 フルツロス、変異ヒマワリからの怪人化、ビーム、トレントルーパー、ティナの力の一端、実は飛べない青のニグラム、ケータイ(仮) ……。何だこれ、色々酷い。


 その時、リエがさらりと俺と手を繋いでくる。ふと彼女の方に振り向いてみれば、すかさず顔を反対側に逸らされた。よく見てみると、頬を膨らませているのがわかる。


「もしかして、ティナに嫉妬してる?」


「違うもん」


「……もうわかんね」


 リエの素っ気ない返しに、俺は片手で頭を抱えてげんなりとする。しかし、この反応を見る限り、“頬にキスする”行為は挨拶程度に軽いものではなさそうだ。


 この後、リエに引っ張られるようにして帰路に着いた。


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