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G魔法戦士ニグラム(黒) ~強制転生に強制特典。あとゴキ○○~  作者: erif tellab
3章。ようやく始まる冒険者活動(遅い)
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42話。ヒマワリとトレントルーパー

 ヒマワリ怪人ばビームを放って早々、鈴斗たちへゆっくり距離を詰めた。その歩き方は堂々としていて、さもどんな攻撃を受けようが平気だという自信が感じられる。その代わり、迅速に片をつけようとか、安全な遠距離から一方的に攻撃を加えようとはしなかった。


 身長は二メートルをちょうど迎えるぐらい。立派な魔物だと称するのに十分な恐ろしさを持つヒマワリの化身は、鈴斗たちの注意が自身に飛ぶのを待ってから、彼らに悠々と語り掛ける。


「根を張って早三週間!! 貴様が街から出てくるのをずっと待っていたぞ、ニグラム――」


「「erif llab【火球】!!」」


「おぅふ!?」


 しかし、ヒマワリ怪人の弁舌はリエと鈴斗によって妨げられた。魔法を詠唱した二人の手のひらから二発の火球が飛来し、命中先のヒマワリ怪人を燃やし尽くそうとする。


「ノォーっ!?」


 全身に炎が回ってきたヒマワリ怪人は、それはそれは大層にもがき苦しんだ。呼吸しようにも火と高熱の空気が邪魔して儘ならず、かと言って初級の黒魔法程度で簡単に死ねないほどのタフネスであるから楽にもなれない。次の瞬間には、一生懸命地面の上を転がって消火を試みた。


 ヒマワリ怪人が植物の身体を持っている事が、ある意味で運の尽きだった。魔力で火を模倣している以上は、有機物にとことん燃え移りやすい。


 また、リエと鈴斗の狙いがヒマワリ怪人に決められているだけあって、ヒマワリ怪人の身体の特性に関係なくとも威力は十分だ。標的以外には威力をほとんど発揮しないのは、黒魔法のメリットにもデメリットにもなる。


「natravira【変身】」


 ヒマワリ怪人が不様に辺りを転がり回っている内に、鈴斗はG魔法【変身】を使った。特定の腕の動きで足元に魔法陣を写し、忽然と姿を現したベルトのバックルを押す。


 そして、魔法陣が瞬時に鈴斗の肉体を下から上へと透過して、彼の姿を青いニグラムへ変貌させた。身長もヒマワリ怪人と同じぐらいに伸びて、鈴斗としての面影を一切なくす。


 一方でリエはティナに「後ろに下がってて」と告げていた。これにはティナも大して抵抗せず、素直に了承して二人から離れる。


「後ろからビーム撃たれたら逃げられないだろコノヤロォ!!」


「スズト、何か青くなってる!」


「へ? あ」


 ヒマワリ怪人に怒鳴ったニグラムは、リエに言われてようやく自身の状態に気づく。黒の通常形態ではなく、青の先制疾駆形態だ。変身の際に彼は、形態変化の意識をしていない。


 しかも、ベルトの後ろには新しくナイフが追加されていた。元はリエから借りたナイフだが、形状は変わっていて見る影もない。鈴斗と共に変身用魔法陣を透過した結果だ。


 急いでボディチェックを済ましたニグラムは、咄嗟にナイフを抜き取る。ナイフの身は青く、特徴はリエの蛇光剣を彷彿させる。


 専用短剣、ブルーナイフ。それをまじまじと見つめるニグラムは、ほぼ直感でブルーナイフの仕様を把握していく。


「この程度のダメージで俺はへこたれない! 喰らえ! リーフカッター!」


 気がつけば、ヒマワリ怪人は五体満足で火だるまから復活していた。勢い良く立ち上がって、両肩に出現させた大量の葉をブーメラン代わりに射出しようとする。


 それに反応したニグラムは、ヒマワリ怪人よりも早く動いた。流石にリーフカッターの発射までは食い止められないが、緑の凶刃が次々とやって来る前にブルーナイフを一閃させるのは余裕だった。


 ブルーナイフの切っ先から真紅の魔力光が発せられる。どこまでも伸びる魔力光は鞭のようにしなり、ニグラムの利き腕の動きに従って、リーフカッターを一斉に打ち払った。


 ブルーナイフ、光鞭モード。それから間髪入れず、ニグラムは振ったブルーナイフを反対方向に返し、光鞭をヒマワリ怪人の頬にぶつける。


「アウチ!?」


 蛇光剣の特徴と同じく、ブルーナイフからの光鞭は斬撃の効果も併せ持つ。ヒマワリ怪人は頬を刻まれ、尚且つ光鞭をぶつけられた衝撃で大きく仰け反り、背中から地面に倒れる。


 ニグラムが一度攻撃を止めると光鞭は瞬く間に縮んでいき、ブルーナイフの切っ先に戻っては跡形もなく消える。扱いも蛇光剣とほぼ同じだった。


 ならばとニグラムは前に一歩出て、リエに指示を飛ばす。


「使い方が蛇光剣……。リエ! 前出るから援護!! 気合いで避けるから!!」


「へ? ……わかった!」


 リエは呆けた声を出すものの、瞬時にニグラムの意図を理解する。そこからは、まさに阿吽の呼吸とも言うべき連携が始まった。


  ニグラムの後ろにリエが立ち、両者共に己の得物に光鞭を発生させる。そして、ヒマワリ怪人目掛けて思う存分に光鞭を振るった。


 その際、ニグラムは後ろから飛んでくるリエの光鞭を何度も素早く避け続ける。軽く跳んで、小さくしゃがんでの繰り返しだ。赤い光が頭や足スレスレに横切る事もあるが、それでも負傷はない。


 ニグラムを肉盾に据えた、実質的に攻撃力と手数が倍加した一方向からの熾烈な攻め。リエの立ち位置は敵の攻撃がほとんどやって来ない、比較的安全な場所だ。


 真紅の光鞭と赤い光鞭が絵の具のように織り交ぜられながら、果敢にヒマワリ怪人の身体を傷つけていく。その傍らで、二本の光鞭の激しい軌道によって、辺り一帯の草むらが乱雑に刈り取られる。切り刻まれて半ば塵と化した雑草たちが宙に舞い、ヒマワリ怪人は泣き言を叫ぶ。


「ぐぅ!? これはツラァイ!!」


 ヒマワリ怪人は今まで徒手空拳と回避でニグラムたちの攻撃を凌ぎ続けてきたが、光鞭の圧倒的な手数とスピードを前に対処しきれていなかった。首や脛などを打たれ、遂には重い一撃を胸に受けて後ろに吹き飛び、転がる。


 その結果、蛇光剣とブルーナイフの間合いから僅かに抜け出せた。不意に攻撃が届かなくなった事でニグラムたちの手の動きが休んでしまい、ヒマワリ怪人に態勢の立て直しを許す。


 膝立ちの状態で、手のひらをニグラムたちに向けるヒマワリ怪人。手のひらには、次第に収束していく光球が浮かび上がっていた。


「だが、チャージ時間は終わった! ビィィィ――」


 しかし、ヒマワリ怪人の叫びに応じてビームが発射される瞬間だった。ヒマワリ怪人が立っている場所に日陰が急に訪れてきたかと思うと、一体の巨人が音もなく空から降りてきた。ビームはニグラムたちに当たる事はなく、射線上にいきなり現れた巨人の足に直撃する。


 着弾して引き起こされる爆発。それと同時に、落下してきた巨人が草むらを思いきり踏み潰し、地面に足を付ける大くズッシリとした音。巨人の大きさは着地時に地響きを鳴らせるものではないが、全高はニグラムたちが見上げるぐらいにはあった。


「は?」


 ニグラムから間の抜けた声が発せられる。それは奇しくも、この場にいる全員の気持ちを代弁したものとなっていた。


 巨人の身体はヒトと同じ構造で、球体関節が採用されていた。外見的特徴も、ロボット工学でよく見られる人工的な印象を受ける。ただし、使用されている全身の材質のおかげで、人工物にしては異質な存在だと周囲に思わせるのには十分だった。


 何を隠そう、巨人の身体を構成しているのは木材、木の幹、木の枝、葉っぱ、木の皮である。見たまま、一本の巨木が人型ロボットに変形したかのような容姿だった。それにしては、ビームの直撃を受けた足は僅かな焦げ跡を残すだけで健在ではあるが。





 遥か古の時代より、トレントという樹木の魔物がいる。このトレントはやまない過剰な森林伐採により生まれた、木の突然変異種だ。


 しかし、魔物化したとは言っても所詮は木。多勢に無勢で挑まれれば、森林伐採する者たちに敵うはずがない。トレントはやがて、オークやスライムなどと同じく自然界から淘汰される運命にあった。新たな突然変異を果たしていなければ。




「トレントルーパー……」


「急すぎないか!? ツッコミが追いつかない!」


 じっと顔を見上げるリエが巨人の種族名を呟き、ニグラムのどこか空しさを含ませたツッコミが炸裂する。


 トレントの突然変異種に与えられし名はトルーパー、すなわち兵士。一帯の植生――主に木――を管理する者でもあり、武力で人類との共存共栄に漕ぎ着けた巨人は、怒りを露にしながら大地に立った。ニグラムとヒマワリ怪人の間に立ち塞がり、頭部の緑色に光るデュアルアイを瞬間的により強く煌めかせる。


 ニグラムたち三人が佇むのは巨人の後ろ。トレントルーパーがギロッと見下ろすのは、足元にいるヒマワリ怪人だった。


 予想だにもしない乱入者にヒマワリ怪人は身動ぎする。ニグラムたちへ掛ける注意は疎かになり、睨んでくるトレントルーパーに釘付けになっていた。


 その時、トレントルーパーの胸部に焦げ跡を発見してしまい、ヒマワリ怪人の顔は青くなる。


「えっと、嘘だろ? 流れ弾に当たった木がトレントルーパーとか……」


 ヒマワリ怪人の推察通り、彼の目の前にそびえる巨人は、一発目のビームの流れ弾を受けた巨木だった。


 何という偶然。何という厄日。自力では敵わないと察したヒマワリ怪人は、迷う事なく後ろに向かって全速前進を始めた。足の速さは完全に、チーターやライオンの全速力を凌駕していた。


「悪い、ニグラム!! 出直してくる!!」


「あっ、おいコラ! 後が怖いから逃がさないぞ!」


 直後、ニグラムがトレントルーパーの横を抜けて咄嗟に追い掛ける。真っ直ぐ股の間をくぐり抜けなかったのは、単純に怖かったからだ。そのせいで追走に数秒のタイムロスが生まれてしまう。


 そんな彼らに釣られて、トレントルーパーもヒマワリ怪人の追撃を開始する。しかし動きが鈍重なため、ニグラムとは違ってヒマワリ怪人にぐんぐんと差をつけられてしまう。


「そうねぇ、鈴斗の言う通りだわぁ」


 また、ティナの凛とした声が辺りにはっきりと響いた。それを聞いた彼らは思わず反応し、声がした方向を確かめる。


 するといつの間にか、ティナはヒマワリ怪人の正面に立っていた。ずっと後ろにいたティナがいきなり追い縋るなんてあり得ない。まるで瞬間移動でもしたかのような回り込みに、ヒマワリ怪人は自然と身体を強張らせる。攻撃や逃走続行の素振りは見せず、ひたすら固まるばかりだ。


「あれ、ティナ!?」


「ちっ、何で……!!」


 気づけばティナが遠くまで移動していた事に、リエは面食らう。一方で危機感と焦燥感の両方に駆られたニグラムは、ティナの元へ自身の足を急がせる。


 その手前、ティナはヒマワリ怪人にふわりと手のひらをかざしていた。片手にはフルツロスの実を入れたバスケットを持っているので、ここだけ見れば何の変鉄もない一人の可憐な少女だ。


 だが、ヒマワリ怪人は全身に冷や汗を流し、いつまで経ってもティナに恐れおののく。それから勇気を出して必死に口を動かすが――


「あ……あ……もしかして、貴方様はクイー――」


「邪魔よ、消えなさい」


 ティナが冷酷な口調で宣告した次の瞬間、彼女の手のひらから淀みきった緑色の閃光が放射される。明らかに毒のイメージを彷彿させる光だ。


 閃光をもろに受けたヒマワリ怪人は、強風に扇がれる鯉のぼりのように揉みくちゃにされて吹き飛ばない。しかし、それも一秒に満たない時間で、やがては砲弾の如き勢いで吹っ飛んでいった。


「イヤアアアアァァァ!?」


 きりもみ回転しながら空中に緩やかな放物線を描くヒマワリ怪人の身体。飛んでいく速さは、あっという間にニグラムの頭上を越えていくほどだった。


 そんなヒマワリ怪人の様子を目にしたニグラムは、とっくに頭上を過ぎ去った影を追おうと即座に振り返る。ヒマワリ怪人の弾道上には、トレントルーパーの右拳……正確にはアッパーが待っていた。


「アブッ!?」


 飛行時の勢いが加重され、堅牢なら拳から放たれるアッパーの威力は当然のように底上げされる。それなのにトレントルーパーが受ける負担や反動は少ない。胴を殴られたヒマワリ怪人から奇怪な悲鳴が上がり、吹き飛ぶ方向が上へと変更された。


 生身の地球人なら、トレントルーパーの拳を受けた時点でミンチになる。それでもヒマワリ怪人は空中に身を投げ出されながらも五体満足で生きているのだから、ニグラムと優るとも劣らないタフネスぶりだった。魔物なだけはある。


 この時、二転三転する敵の動きにニグラムは困惑していた。その上、重たい一撃をもらったにも関わらず未だに息をしている異様な生命力を前にして、すっかり思考放棄しかけているところだ。


 ――なんで死なない――


 まず頭の中に浮かんできたのはそれだった。


 しかし、悠長に立ち尽くしている場合ではなかった。空を見上げれば、両手の中に浮かぶ光球をゆっくり大きくしているヒマワリ怪人の姿がある。発射しようにもヒマワリ怪人の身体が歯車のように回転しているので、予想される三発目のビームの命中精度はお察しだ。


 だが、偶然にもビームが当たってしまう可能性がある以上、相手の自然落下まで放置するのは論外だった。仕留めるなら、ヒマワリ怪人が空中で身動きが取れない今が好機だ。自身も含めてこれ以上、リエたちを危ない目に遭わせていられない。


「あっ、も……こなくそっ!」


 ニグラムは少々やけ気味に、バーストアンテナと背中の翅を展開する。ブルーナイフを逆手に持ち直し、両脚にありったけの力を込めて空高く跳躍する。


 合わせて翅も動かす事により跳躍の勢いを殺さず、空を瞬く間に駆けていく。先制疾駆形態の翅は滑空をこなす程度の代物だが、跳躍の補助をおこなうには申し分ない。


 ブウウウウウゥゥゥゥン!!


「でぃやあぁっ!!」


「ビィィィィィィム!!」


 ブルーナイフを持って突撃するニグラムに、ヒマワリ怪人は間髪入れずビームを放つ。ビームは見事、ニグラムへ真っ直ぐ進んでいく。


 対してニグラムは、ろくな回避行動を取らなかった。翅の動かし方次第で戦闘機も仰天する方向転換が可能だが、敢えてそれをせずにブルーナイフの刃をビームの前に出すだけだった。


 すると、刃に真紅の光が纏っていく。ニグラムが練りに練った高密度の魔力だ。


 こうしてブルーナイフに受け止められたビームは爆発する事なく、真紅に光る刃にやすやすと斬り裂かれてはもれなく蒸散する。ビームが飛び散って、地上に被害をもたらす事などなかった。


 ヒマワリ怪人と擦れ違い様に、ニグラムは強烈な斬撃を加える。リーチの短い光刃は容易に相手の首に食い込み、深く斬り捨てる事で有無を言わせずヒマワリ怪人の息の根を絶つ。



 纏光短剣、紅裂刃。効果、致命傷ならば切り口に付着したニグラムの魔力が奔流し、相手は追加のダメ押しをされて死ぬ。運が悪ければ時々、爆発も起きる。

 


 紅裂刃を食らったヒマワリ怪人は、首を裂かれた反動で真下へ落ちていく。自然落下にだらりと身を任せる様は、もはや物言わぬ亡骸であるのを示していた。


 首から流れる赤い血はほんの僅かで、ドバドバと溢れる事はない。あと少しで地面と頭が激突しようとした時に肉体が霧散し、代わりに紫水晶がコロリと地面に落ちた。途中で落下位置が低くなったおかげで、紫水晶はどうにか割れずに済む。


 かくして、ヒマワリ怪人は撃破された。その散り様を地上の二人と一体は最後まで見届け、空ではニグラムがじっと見下ろしていた。ブルーナイフを鞘に納めて、黙って地上に降りていく。


 しかし――


「……あ、あれ? これ、飛べてない? あっ、あっ、落ちっ……!?」


 ニグラムは先制疾駆形態を完璧に把握していなかった。翅を懸命に羽ばたかせるものの、滑空姿勢を取っていないので猛スピードで落下する。


 やがて、ニグラムはうつ伏せの状態で不時着した。もちろん、それで特に怪我を負っていないのは言うまでもない。

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