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G魔法戦士ニグラム(黒) ~強制転生に強制特典。あとゴキ○○~  作者: erif tellab
2章。遠方より遙々やって来たGの妃
28/57

28話。自分の代理がいるなら厄介事全部任せたいと思うのは普通

 天翔騎士団団長、ナサリオ・ファーニヴァルという人とその部下たちが帰っていった後、俺はすぐにアローズ店内に戻っていく。いきなり質問タイムをされてビックリした。しかも、妙に怪しいものばかり。


 その上、ナサリオさんをどこかで見覚えがあると感じていたら、彼の左手首に着けていたブレスレットを見て完全に思い出してしまった。できれば思い出したくなかった。人の事を勝手にルキフィガと呼んで殺しに来る騎士の事なんて。


「あぁ、イリスさん。今日も美しい。まるで天使のようだ……」


「ウフフ、ありがとうございます」


「イリスさん。実は先日、こんなものを手に入れまして。良かったら一緒にどうでしょうか?」


「あら。演劇の入場券じゃないですか」


 イリスさんと二人の男性客の会話を聞き流し、静かに奥の席へと移動する。イリスさんはどこか天然なところがあるから、あのような口説きを受けても大して思う事はないだろう。邪な思いを抱かず、純粋に感謝するだけだ。後々にベクターさんが目をつけとくから事態は勝手に終息する。


 片や俺は、暇な午前中は店を手伝う事もないので、紙とペンと辞書で専門系の用語を覚えている最中だった。それにしても、ナサリオさんの質問の内容からして俺が何かしら疑われているのは間違いなかった。


 何だ? 今度は何を疑われているんだ? 俺=ニグラムの証拠が欲しいのか? 証拠を手に入れてどうするんだよ。魔女狩りでもする気なのか。


 その上、俺がG魔法を使える事は向こうにも知られていた。それは俺の魔法適性を診断した神父から聞き出せばわかる事なので、特に焦る事もないが。あの人たちも、G魔法が何なのか全然わかっていないようだったし。


 とにかく相手の目的が計り知れない。騎士団ぐらいの身分なら、権力のごり押しで俺を逮捕とか処刑とかに持ち込むのは簡単なはずだ。変身していた時は聞く耳持たずに即殺の勢いだったのに、変なところで及び腰になりやがって。それなら最初から強引な真似をするな。


「おい貴様。一体何を企んでいるつもりだ」


「いやぁ~? 僕は別にこれっぽっちも邪な気持ちは無くて? ただ、ペアチケット余らすのもったいないなーって」


「嘘を言うな、嘘を!」


「お二人とも、喧嘩はイケませんよ?」


「「はい!」」


 男性客たちの会話は無視する。そんな事よりも今は、俺の身に降り掛かろうとしている火の粉を払うのが先だ。騎士団が何故か強行手段を取ってこなかったのが、まるで嵐の前の静けさのようで気が気でなくなる。意外と残された時間は少ないのかもしれない。


 辞書に載っている単語を眺めるが、当然頭の中に入ってこない。もしもベクターさんたちに迷惑を掛ける事になったら、俺はどうすればいい? ここから離れる準備をするべきか? しかし、準備もすぐに終わる訳ではない。もしも法整備が現代日本並みにガチガチならば、街の外の野宿ですら所有者の土地云々で気をつけなければならないのだから。


 いきなり将来の不安に揉まれてひたすら思考を張り巡らしていると、ふと誰かに肩を叩かれた。咄嗟に横を振り向くと、そこにはリエがいた。


「スズト。さっきの人たち、騎士団だよね? また何かやっちゃった?」


 特に企んだ様子も悪気もない様子でリエが尋ねてくる。


「いや、幾つか変な質問されただけで……ルキフィガって知ってる?」


「あっ! 勇者ロザリオと光を厭う王!」


「なにそれ?」


「絵本と小説。ロザリオが主人公で、敵の魔王の名前がルキフィガ。あー、また読みたくなってきたなぁ。ねぇねぇ、小説貸してあげようか? 面白いわよ?」


 さらりと小説を薦めてきながら、リエは微笑む。登場人物と俺がナサリオさんに呼ばれた名前と被っているなんて、偶然にしては怪しい気がする。魔王……ゴキブリ……魔王ってそう言う事か?


 何はともあれ、調べるついでに一度は読んでみるか。そう思って未だに俺の顔を覗き込むリエに返事をしようとするが、彼女の遥か後方にいるベクターさんの怖い顔を視界に収めたおかげで考えが変わった。


「えっと……また今度で。ベクターさんがガン見してきてちょっと……」


「んもー。またお父さん余計な事してー」


 プクーと頬を膨らませるリエ。彼女の視線の先にはベクターさんがいる。しかし、ベクターさんは顔を横に九十度回す事で娘からの厳しい目に対処した。あれは気まずさから取った反応なのだろうか。


 なんて平和な日常風景なんだ。これが俺のせいでいきなり壊されると思うと、本当に居たたまられない。何もしていないのに他が理不尽な関わりようをしてくるから、過ごしたい平穏のために何かしら強くならなければならないのが少し悔しい。


 その瞬間、特に前触れもなく嫌な感覚を覚える。もはや四度目となり、これが何を表すのかは既に把握している。どうせまた魔物関係だろう。いや、魔物関係にしては以前とどこか違うような……危険な目に遭うならどちらにせよ一緒だな。


 放置は良くないとどんなに感じても、昨日の今日だ。今回はもう行きたくないぞ。ナサリオさんがいるなら任せる。迂闊に変身して、また「ルキフィガ死すべし」と因縁付けられるのも困るし。


「スズト? どうしたの?」


「……ん、何でもない」


 首を傾げるリエに、俺は適当にお茶を濁す。今回は普通に誤魔化しができたんじゃないだろうか。



 ……と、思っていた時期が自分にもありました。



「ちょっと来て」


「へ?」


 天翔騎士団のお帰りから一時間経とうとした頃。突如としてリエに引っ張られ、裏庭へと連れていかれた。


 そうして俺とリエは真正面から改めて相対する。リエの表情はいつになく真剣だった。真っ直ぐ捉えてくる金色の瞳が、一度でも俺に顔を逸らす事を思い留まらせる。


「ねぇ。昨日の買い物の後、どこに行ってたの? 結局教えてもらってないけど」


「それは……」


 バカ。言える訳がない。余計な心配を掛ける事になるし、あのトンボの怪人の元に行った理由が勘違いされるのも困る。とりわけ正義で動いていた訳じゃないから。


 かといって、わざわざ偽善者呼ばわりされるのも嫌だ。最初から自分のための行動なのだから、一々他人から“マシーンのように完璧で理想的な人間であれ”とか非難される筋合いはない。誉められるべき事でも、貶されるべき事でもない自分勝手な真似だ。


 だから、リエの質問には一切答えずに黙っておく。自分が嫌だと思うレッテルが貼られないように。


「……デビルアロマ絡み?」


 しかし、リエのほとんど的を射た発言に、思わず心臓が跳び跳ねそうになる。


「やっぱり。顔に出た」


 ちくしょう。嘘と隠し事が下手な自分が憎たらしい。


「私、もうわかるよ。三度目だもん。また近くで魔物が出てきたりしてるんでしょ? それが何故か、スズトにはわかってて」


 三度目。一度目はおそらくミミズ怪人の時だろう。計算は合っているはず。しかも見当がつけられていた。


 なんて事だ。もう全部バレているじゃないか。我ながら酷すぎる。


「教えて。それって隠す事なの? 知られたら……自分一人で抱えないと困る事なの?」


 回答の困る質問に言葉が詰まる。隠す事・知られたら困るのは当然として、自分一人でやるべき事かと問われると悩む。


 本音で言うなら、どうせ魔物と戦う羽目になるなら一緒に戦ってくれる人が欲しい。もっと欲を言うのなら、俺の代わりに戦って欲しいとさえ願う。どうして、そんな危ない真似を俺がしなくちゃいけないんだと。


 しかし、行動原理の根底が自分のためである以上は、他人任せなんて許されないと勝手に決めつけてくる自分がいる。他人がきっちりと百パーセント後腐れなく解決してくれる保証なんてない上に、全て他力本願で人生が上手く行くはずがないと思っているから。


「……正義とか関係ない。昨日のは自分のためだったんだ。ありきたりで平凡な幸せが壊れるのがイヤだから、無視したって勝手に後悔して悩んで苦しむだけだってわかってるから、一人だけで幸せになれるなんて思ってないから。それが結果的に、誰かのためになってるだけだ」


 自分のために戦うのに俺自身が正義や悪とか気にする事はないが、他人からどうこう言われるのだけは癪に触ってダメだった。良い面でも悪い面でも勘違いされても、結局やっている事は自分勝手だと自覚しているから。


 それにしてもどうしてだろうか。何の根拠もないのに、無視したら後で絶対に俺が酷い目に遭うと感じてしまうのは。カラス怪人やミミズ怪人の時の経験則? いや、そう言うよりも勘にほとんど近い。それでは説得力に欠けて、誰もが納得しない。


「他人任せにできるならするさ。だけど、それで自分の周りにいる誰かが死んだりするなら、その時も絶対後悔する。……バカだよな、気持ちが中途半端なのに首突っ込もうとして。自分さえ良ければそれでいいじゃん、って考えができなくて。変に力を手に入れたせいだ……」


 気がつけば口が勝手に動いていた。言いたい事を吐き出し、胸の内が嫌悪感で包まれる。気分は本当に最悪だ。


 元よりそうだが、自分で自分を最低な奴に貶められないのは自称神の存在がかなり後押ししている。アイツのように、誰かの人生を簡単に失わせる人間にはなりたくないと、心より思っている。


 それでも自分の身が可愛い事には変わりない。G魔法がなければ、きっと街中に魔物が出ても然るべき組織に任せたはずだ。初めから狭いままの手が届く範囲内で、自分の平穏な毎日が完結していた。とどのつまり現地人でも立会人でもなく、傍観者に近い。


「ううん、スズトはバカじゃないわ。普通に優しいのよ。自分以外の人の事も考えてあげられる」


「普通? ……普通じゃない。俺の身近でこんなに厄介事が起きるなんて、日本にいた頃じゃあり得なかった」


 リエの言葉を部分的に否定する。普通に優しくても、それだけでは何の意味もない。面倒な問題が向こうからやって来るなら尚更だ。行く先々で殺人事件に鉢合わせる小さな名探偵や、嵐を呼ぶ幼稚園児や、成り行きで何度も世界や太陽系外の惑星を救う事になった小学生たちとお世話ロボットではないのに。


 すると、リエはその場で唸り始めた。静かに腕を組み、目をじっと閉じる。腕を寄せても変化はあまりない胸は、そこはかとなく寂しさが感じられた。そして――


「じゃあ私も一緒に行く。スズトが戦うなら私も一緒に戦う。スズトを助けるよ。どう?」


「却下」


「即答!?」


  散々悩み抜いて生まれた提案を蹴られたせいか、リエは呆気なくうろたえる。そう言う問題じゃないから。


「だから言っただろ。自分のためだって。リエには迷惑掛けられないし、怪我させたらベクターさんが怖いし……」


 それにどうやら、あの騎士団にとってニグラムが敵らしい。適当に理由言って手っ取り早く俺を捕まえて、拷問からの自白強要のコンボをしてこなかったのが逆に怖い。下手な真似をして、今以上に勘繰らせるのは悪手だ。


「えー? でも、それだとスズト……いつまでも悩んじゃうよね?」


 リエに事の真理を突かれてしまい、ぐうの音も出ない。確かに、自分でも驚くぐらいに優柔不断になっている。やるべき事は理解しているはずなのに。


「ここで無視しても、その分のツケが後でやってくるのが何となくわかるんだ。だから、早く行かないと……」


 俺はそこまで言って、口が重たく閉じてしまう。ナサリオさんが脅威なのと、真実に辿り着いたリエが気掛かりなせいだ。気が乗らない。


 その時、リエが俺の手を強く掴んだ。お互いに手を繋いで歩く親と幼子を彷彿させるぐらいに力加減されているが、振り払えそうとは思えなかった。


「案内して」


「え?」


  リエからの突然の要求に、俺はうっかり疑問符を上げてしまう。


「一人じゃダメでも、二人で行けば大丈夫だよ。変身がバレても私が一緒に説明するから!」


「……一緒はダメだ。危ない」


「スズトだって危ないじゃない」


「思ってたより全然死なないからいいんだよ、俺は。火だるまにされたり、心臓を貫かれてもリエは平気じゃないだろ?」


「うっ……」

 

 冷静に俺の頑丈ぶりを語れば、リエは敢えなく気まずそうな顔になる。俺の手を握る力も弱まった。


 どうしてリエがここまで俺の事を案じてくれるかは、最初からこんな感じだったから今更考えない。『全人類がゴキブリを怖がる』命題の反例として、北海道民が真っ先に挙げられるくらいだから。そんな彼女の気持ちや行動に、俺が嬉しく思っているのは間違いなかった。


 リエに掴まれた手を優しく引っ張り出し、しっかり彼女の目を見据える。


「でも……ありがとう。少し勇気が出た。行ってくる」


 それだけ言い残して、俺は急いでその場を立ち去る。目指すは、直感のままに弾き出される嫌な感覚の居場所だ。


「あっ、お父さんにはちゃんと上手い感じに言っておくから!」


 直後、リエがそう叫んだ。それはありがたい。


 それと、ナサリオさんと出会いそうになったら逃走を徹底しよう。死んだら負けだから。



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