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G魔法戦士ニグラム(黒) ~強制転生に強制特典。あとゴキ○○~  作者: erif tellab
2章。遠方より遙々やって来たGの妃
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27話。GとS

 ニグラムが姿を消した水路一帯にて、天翔騎士団と衛兵が共同で水中捜索をおこなっていた。水中に潜れるタイプのゴーレムも動員され、ニグラムの遺体確認がされている。流れる川はお世辞にも綺麗とは呼べず、アマゾン奥地に住む先住民のように視力が良くなければ肉眼で川底を探すなど、適切な行動ではなかった。魔法も本来的には攻撃一辺倒であるので、そんな都合の良いものは存在していない。


 騎士団員たちは捜索の拍子に水落ちする可能性を考慮して、全員鎧を外している。そして各自、木の棒や網を片手にボートの上、もしくは岸の上から頑張って川底を探っている。団長のナサリオも例外ではなかった。


 捜索開始から早三十分が経過した頃、浮上した水中ゴーレムがボートの船底にうっかり激突してしまったため、ボートが上下に揺さぶられた弾みでナサリオは水落ちを果たす。それから淡々と岸に上がり、休憩がてら濡れた身体をタオルで拭きながら乾かす。ちなみに、巻き付けていたローザリーのブレスレットは防水処理が施されているので、故障については特に何も問題ない。


「死体が見つからない。爆発四散しないであの大きさなら、沈んでいないとおかしいが……」


「仮称ルキフィガとやらは取り逃がしたみたいですか?」


 ぶつぶつと呟くナサリオの元へ、いくつかの資料を手にしたアンジェラがやって来る。彼女の辛辣気味な問いに、ナサリオは釈然としない調子で頷く。


「概ね間違いないだろう。デビルアロマ系列なら魔物反応にも特徴があったはず。だが、ルキフィガにはそれがなかった。紫水晶を残して肉体が消滅なんて、私は信じたくはない」


「寸ででヒトに擬態された可能性は? ローザリーのブレスレットを着けていても、擬態した魔物の看破は対象を視界に入れなければダメなはずです」


「ヒトか……。まさか、魔物が人間社会に溶け込んでいるとでも言うのか……」


 自ら思い描いた想像にナサリオは戦慄する。残念ながら、ローザリーの索敵機能はそれほど万能ではない。デビルアロマ系列の魔物がヒトに擬態した際には看破が可能だが、それでも制限付き。対策が後手に回ざるを得ないのが実に歯痒い。


 主な最近の例としては、今日撃破したトンボ怪人だ。ローザリーが示した反応から、トンボ怪人がデビルアロマ系列だというのがナサリオに判別できた。


 デビルアロマが出現したのは今から約三年前。それから生まれてきた魔物たちは、周りを憚る事なく暴れ始めるので察知と対処は容易だ。むしろ、潜伏されない事に救われているとも言える。


 そのため、使用者が魔物化する前にデビルアロマを押収する重要性が極めて高くなる。未だに諸悪の根源を叩けていないが、デビルアロマの事前押収を徹底した事で被害件数も発生初期と比べて低くなった。


 また、デビルアロマを常用する人々も魔物化に至るのを一日でも遅くするため、力に飲まれながらも使用頻度を極力抑えた上で、おおっぴらならないように潜伏している。魔物化初期段階と比べてなかなか明るみにならず、隠匿の手法は高度化していく一方だ。


 なので、その点を省みても一ヶ月程度で一つの街とその近辺でデビルアロマ絡みの事件がポンポン発生するのは異常だった。依然として行方が知れないゲジゲジの魔物――スカウトの存在も、その異常性に拍車を掛けている。


「……あ、思い出しました。ルズベリーの剣士団から拝借してきた、デビルアロマに関する捜査資料です。個人的に気になるのが、鳥賊強盗団の案件ですね」


 そう言ってアンジェラはテキパキとナサリオに資料を渡す。筒がなく受け取った彼は、黙々とそれに目を通し始めた。


 そして、とあるページを捲ったところで表情が強張る。そこには、鳥賊強盗団のメンバー全員の似顔絵に紛れて、ニグラムの似顔絵もあった。色はつけられていないが、彼の脳裏に焼きつけた顔と完璧に一致している。


「ん? ルキフィガの似顔絵か? それとこれは……」


 さらに読み込んでいくと、二件目のカラス怪人と共通してリエと鈴斗の名がある事を知る。どちらの事件も被害者とされている。


 それをこっそり横から見ていたアンジェラは、ふとナサリオに質問を投げる。


「団長。あなたが交戦したルキフィガとやらは、その仮面の戦士ですか?」


「ああ。だが、その時の盗賊たちの証言は荒唐無稽でまともに聞かれなかったようだな。……ふむ、この少年に話を聞いてみる価値はあるな」


 彼女の問いに手短に肯定の意思を示したナサリオは、ひとまず“シラス・スズト”の名前に注目した。第一に感じたのは、本名と名字の順番の珍しさだ。偏見をなくそうにも怪しさが拭えなかった。




 そんなこんなで次の日、アローズにて。


「え?」


 思いがけない呼び出しを受けた鈴斗は、アローズ外の玄関前で困惑する。彼の周りにはナサリオとアンジェラ、他数名の騎士がいた。


 まだ人通りの少ない午前の時間帯とは言え、野次馬はそれなりに集まっていた。いくら不可抗力だったとしても、民間人一人にたくさんの騎士が囲んでいるのだ。奇妙な光景だと騒がれても仕方ない。


 困惑を続ける鈴斗に、ナサリオは余計な不安と疑念を持たせないように、相応に繕った口調で話し掛ける。僅かに微笑んで、威圧感付与の回避も忘れない。


「大丈夫だ。時間はそれほど取らない。今から私が言う質問に、君は全て『いいえ』と答えるだけで良い。では早速……君はルキフィガか?」


「いいえ」


「デビルアロマを所持した事、使った事は?」


「…いいえ」


「デビルアロマ系列の魔物を倒した事は?」


「……いいえ」


 鈴斗の声にだんだん元気がなくなり、表情も明らかに嘘をついていると勘違いされそうなものに変わっていく。実にわかりやすい反応で、ナサリオたちの間に緩い空気がやって来た。


 ――ウソだろ?――


 それから十数個の質問を投げきったところで、鈴斗との話は終了する。


「協力感謝する。では、失礼した」


 そうしてナサリオが礼を告げると、彼ら騎士団は間もなくアローズから去って行った。道脇に停めた馬たちにそれぞれ跨がり、道路の真ん中を通る。


 馬の足音がパカパカと響く。ある程度の距離を進むと、アンジェラがゆっくり口を開いた。


「いくつかの解答に嘘発見器は反応していました。まぁ、要らないレベルで彼の表情がアレでしたが」


 質問された際の鈴斗の反応を各々は思い返す。あまりにもわかりやすすぎて、逆に演技だったのではないかと疑う人が出る始末だ。しかし、現に嘘発見器で信用性は最低限保証されている。


 用いた嘘発見器は例に漏れず魔法道具だ。ただし索敵時計とは形は異なり、むしろ方位磁針のタイプである。おかげで鈴斗に見られる事なく、手の中で隠しながら使えた。


 その一方で、鈴斗=ルキフィガと言う仮説はまるで成立しなかった。ローザリーの力を使っても鈴斗は魔物ではない、れっきとした人間だと結果を出してしまった。これでは理由などをでっち上げない限り、討伐はおろか拘束もできない。


  G魔法に関しては、彼の魔法適性を診断した神父の証言で裏付けができているので、ナサリオたちの既知の中にある。ただ、鈴斗も同様にG魔法についての認識はまだ不十分だったので、下手な推測をするしか手立てがない。


  “疑わしきは罰せず”は使いよう。状況以外のろくな証拠が揃っていない今は何もできなかった。人々を守るのが使命の天翔騎士団が、誤っても守るべき人を殺すような真似は許されない。そもそも、民衆を敵に回す行為など以ての他だ。


  デビルアロマ絡みの事件はどれも面倒なのが普通だが、面倒臭さにとっくに慣れているはずのナサリオは一層のもどかしさを感じていた。それでもぐっと我慢して、言葉にしながら情報を整理する。


「おかげで彼=ルキフィガという確証は消えた。単にルキフィガが彼に取り付いている、あるいは召喚されるだけ。はたまた……要は偽物の可能性がある。慎重に事を運んでも精々監視だな。冤罪には注意しなければ」


「面倒ですね。騎士団の信用を守るのは。魔物なら迷わず斬れば良いものを」


  過激な発言を溢したアンジェラにナサリオは鋭い視線を飛ばすが、彼女は特に意も介さなかった。あくまで正面から目を逸らさず、馬の手綱をしっかり握るだけだ。


  疑わしきは罰せよ。完膚なきにまで証拠が揃ったのなら、すぐにでも実行に移そう。だが現時点では無理だ。アンジェラに目で訴えるのをナサリオはほどほどにし、数瞬だけ瞼を閉じる。


「次にルキフィガと会った時はなるべく生け捕りに努めよう。無理のない範囲で」


  アンジェラにやんわりと返事をし、ナサリオは「即、撃破行動に移ったのは失敗だった」と心の中で反省した。


  こうして馬車の往来が比較的多い十字路に差し掛かる頃。馬車の横断が終わるまで一行は止まろうとした瞬間、ナサリオの瞳が紫色に光った。


「少し止まろう」


  そう言ってナサリオは、視界の中に映るものを片っ端から流し見する。やがて、真っ直ぐ進んだ道の人混みの中に、網膜投影を通してヒトに擬態した魔物を発見した。しかし、その魔物に重なっている魔法反応に加えて、肝心の姿が透明になっている。


「全員、探知機の反応は?」


  ナサリオの指示を受けてアンジェラたちは索敵時計を取り出して確認するが、どれにも反応はなかった。


  次いで部下たちから「反応なし」の応答にナサリオは一瞬唸り、それからローザリーのブレスレットが示す情報を皆に知らせる。


「魔法反応及び、ヒトに擬態した魔物を感知。ただし、何をしたかは不明だが透明になっている」


「迷彩の類いでしょうか? しかし、こうも人が周りも居ては……」


  一人の部下からの発言で、ナサリオは次の行動に移るのに少し慎重になる。


  だが、相手はそんなナサリオにお構い無く、どんどん人混みの中へ進んでは奥に消えていく。悩んでいる暇は残されていなかった。手遅れになってからは意味がない。


  結果、ナサリオは強行策を取るよりも慎重策に出た。擬態した魔物の近くに一般人が多くいては、強く出られない。


「ん、目標捕捉。尾行する。応援も要請だ」


「「了解」」


  それに応じて、彼の背後で部下たちがコールクレインを展開する。コールクレインでの連絡は部下に任せ、ナサリオが先頭になって魔物を静かに追い掛けた。索敵時計ではヒトに擬態した魔物を感知できない以上、ローザリーの力が追跡の要だ。


  馬では通れない道や人通りが多い道などに四苦八苦しながら、やがて人気のない倉庫街へと辿り着く。ブレスレットが示す限り、目標は倉庫街の中に留まっていた。


  完全にきな臭い。真っ先にそう感じたナサリオは全員に馬から降りるように命令し、二名ばかりをその場に待機させて先行する。


  そうしている間でも、目標が移動する気配は一切なかった。先行するナサリオたち四名の騎士は隠密を徹底しつつ、ぐんぐんと目標へ近づく。着ている金属鎧は端から上半身部分だけなので、余計な金属音が鳴る事も少ない。足音を殺す事に意識を割きながら警戒する。


「倉庫街……誘い込みを狙っているか」


「騎士団と剣士団からの連絡。ここの到着まで時間はまだ掛かる模様です」


  コールクレインを侍らせるアンジェラからの報告にナサリオは頷く。すると、最初に見かけた時から捕捉済みだった目標が突然と動き出した。


「……っ、探知機に反応あり!」


  索敵時計から目を離さなかった部下が叫ぶ。彼の言う通り、索敵時計に魔物の反応がとうとう現れた。物凄い速度で近づいてくる。


「高速接近……全員、構えろ!」


  擬態解除。それを誰よりも早く把握したナサリオは咄嗟に指示を出す。彼らは一斉に剣を抜いた。


  そして、アンジェラが無言で火球を放つ。あらぬところへ飛んでいくそれが、何もない空間へ着弾を果たす。燃え盛った炎は人の形を取りながら、すぐさま消えていった。


  それから間を置かずに、火球が当たった箇所から突如として人型の魔物が現れた。ゲジゲジ怪人、スカウトだ。真正面から火球を受けたにも関わらず、特に目立った外傷はなくピンピンとしていた。


「騎士様が四人か。ご苦労な事で」


  警戒するナサリオたちをすらーっと眺めては否や、スカウトは工場と見紛えそうな近くの倉庫へ走る。入り口の扉を体当たりで簡単に破り、転がり込むようにして奥へ入っていった。


「またヒトに擬態されては私以外に索敵が困難だ。追うぞ!」


  スカウトが消えた倉庫へナサリオが先導し、アンジェラたちは黙って追従する。


  倉庫の中は広く、窓から差し込む光が少ないので薄暗い。照明なんてものは付けられてなかった。身を隠すにはうってつけな場所だ。


  倉庫に入ったナサリオは間髪入れず、魔力を込めた左手を前に出して魔法を放つ。


「latem hctam【火打】!!」


  火属性中級黒魔法、latem hctam【火打】。効果の持続性に欠ける火魔法――黒魔法全般に言える――を改良し、長時間生存できるようにした代物だ。ナサリオの左手から天井へと放たれた火の玉は、一種の閃光玉と化して倉庫内を明るく照らす。


「まぶしっ!?」


  天井にぶら下がっていたスカウトは間近で強く光った火の玉に驚き、その拍子で呆気なく床の上に落ちた。


「装着」


『Gnillatsni.Rozary』

 

  その隙にナサリオもローザリーの装着を済まし、閃光を再びもたらすという二段構えを披露する。相当な高さがある天井から落下しても平気なスカウトだったが、さすがに目は眩んだ。


  一方でローザリーの周囲にいる騎士たちは、閃光対策はきっちりできていた。目を眩ませながらも立ち上がる最中の彼に一切の気配りをせず、ローザリーは一方的に尋ねる。


「貴様、デビルアロマ系列の魔物ではないな。 よもや、純粋に進化した個体では……」


「お? 厄介だね~、その魔導鎧ってやつ。あっさり看破された。あぁ、そうさ。俺はデビルアロマから生まれてなんかいない」

 

  ローザリーたちにギロリと睨まれながらも、スカウトは飄々とした態度を保ち続ける。何度か視力の調子を確認し、おもむろに彼らの姿を捉える。


「人型のムカデ……街中で行方を消したとされる魔物と特徴は一致しています」


  アンジェラのその言葉に、ローザリーは事前に耳に入れた情報と目の前にいるスカウトを照らし合わせる。


  全身をびっしりと纏う無数の昆虫の節足。せっかく高めの顔面偏差値が、首から下の気味悪い格好のせいで打ち消されていた。魔導鎧やニグラムと異なり、一から十まで生物らしさを放っている。


「貴様に質問をする。デビルアロマとの関係は?」


「聞かなくても大体の見当はついてるだろ? それと俺はムカデじゃない」


  ローザリーの質問を適当に返したスカウトは、徐々に戦闘態勢を取り始める。それに応じて、ローザリーたちも気をより引き締めて剣を構えま。


「お前らの大っ嫌いなゲジゲジだぁ!!」


  全身の節足をもぞもぞと可動させながら、スカウトは突撃していった。




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