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G魔法戦士ニグラム(黒) ~強制転生に強制特典。あとゴキ○○~  作者: erif tellab
2章。遠方より遙々やって来たGの妃
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25話。誰かが言っていた。水落ちはあのフラグだと

 ローザリーの魔導鎧は心身とも清らかで、人々を守る者としての心構えができた者にしか纏えない。その上、性能も完全に装着者依存で変動する・高価すぎて量産性皆無・完全にロマン仕様と、兵器としては赤点確実な代物だ。


  だが、それはローザリーの正式装着者であるナサリオにはあまり関係ない話だった。実力、人格ともに優れている彼ならば、ローザリーを十全に扱える。外見相応、伊達に若くして天翔騎士団の団長になっている訳ではない。


「また邪魔が入ったか……!」


  トンボ怪人は真っ先に逃走を開始。逃がすまいと飛び掛かってきたニグラムをするりと回避し、大空へ向けて四枚羽を羽ばたかせた。遠慮なしに猛スピードで上昇し、後ろ姿が豆粒ほどにまで小さくなる。


  対してローザリーは焦る様子を見せず、腰に提げられた機械剣ローズカリバーを手に取る。


 《nugwob》


  ローズカリバーから音声が鳴った瞬間、形状が剣からボウガンへと自動的に変形する。名を機械弩ローズボウガン。ローザリーはグリップを握り直し、射線上にトンボ怪人の無防備な背中を収めた。


  空いている手でローズボウガンの腹を持ち、ブレを抑えた上で引き金を引く。すると、ナサリオ自身の魔力で構築された紫色の光の矢が放たれた。


  光の矢は減衰する事なく空を突き進み、トンボ怪人の片側の羽を二枚とも貫いていく。射出時のスピードは明らかに通常のボウガンのものを凌駕している。さながら、実砲であるスナイパーライフルで射抜いたようだった。


「ぬあ!?」


  羽が貫通された衝撃にトンボ怪人は悶え、ジタバタと暴れながら墜落を始める。目標が真っ逆さまに落ちていく様子を遠くからゴーグル越しに確認できたローザリーは、素早くブレスレット側面のスイッチを一つ押した。


 《tsrub nugwob》


  ブレスレットに装着された十字架――クロスキーから紫の魔力光がビリビリと放出される。放出されたそれは、空気中を介してローズボウガンに伝導する。瞬間、金色の光矢がつがえられた。


  準備完了。きりもみ落下中のトンボ怪人にローザリーは一切の情けも掛けず、静かに光矢を発射する。


  光矢は純粋な魔力で構築されただけに留まらず、限定的にブーストが掛けられたおかげで先ほどとは比べ物にならない一撃と化していた。矢じりは鋭利さを増し、ポッキリ折れないように全体的に太くなっている。もはや魔力というエネルギーの塊でなければ、現実的ではないサイズである。


 審問の光矢が今、解き放たれた。


  目に留まらぬスピードでトンボ怪人の胸に突き刺さり、光矢のエネルギーが相手の肉体の内側にまで行き渡る。相手の防御力を無視した破壊が引き起こされる前兆だ。トンボ怪人の体内から光が迸る。


  光はトンボ怪人の身体を蝕み、止める手立てはほぼなくなる。痛みに叫ぼうにも、気がつけば声帯までもが失われていた。やがてトンボ怪人は破裂するかのようにして、綺麗な花火となった。ルズベリーの街の明るい空にて、舞い上がった花火は徐々に散っては消えていく。肉片などは一切残らなかった。


「しゅ……瞬殺……」


  その頃、トンボ怪人に空を飛ばれて手をこまねくしかなかったニグラムは、相手の散り逝く様を最後まで地上から見届けていた。震えている声からわかる通り、かなり引いている。


「tfird eci【流氷】」


  この間にもローザリーは魔法を唱え、水路に巨大な氷の足場を築いては埋めていく。堂々とその上を歩いていくが、足場がぐらつく事はなかった。水路の端と端に分厚い氷床がぴったりと嵌まっている。


  こうして両者は呆気なく相対する。氷床が生成されたばかりで視覚化された冷気が辺りに漂う中、ニグラムは咄嗟に手を前に出してローザリーを静止させる。


「待って! 俺は敵じゃない!」


  彼の悲壮混じりな叫びを聞いて、ローザリーはピタリと歩くのをやめた。ニグラムはほっと胸を撫で下ろす。


  だがそれも束の間、ローザリーはまじまじとニグラムの全身を観察し始める。何とも受け入れがたい視線に、ニグラムは逃げ出すのも忘れてたじたじとなる。


 改めてニグラムの容姿を確認すれば、昆虫人の一言に尽きる。被っているフルフェイスの仮面は文明力や知性を感じさせるが、それでも首から下がマズかった。黒光りする甲殻に、要所には小さなトゲ。何よりも、ガントレットとブーツに刻まれたデザインが明らかにゴキブリをカッコよくしただけのものだ。人によっては嫌悪感しか抱かない。


「前腕部、脛の意匠は伝承通りならG……ルキフィガを示すもの。そして、魔導鎧とも異なっているそのおぞましい姿……」


《drows》


「間違いない、ゴキブリを彷彿させる……!」


  刹那、ローザリーは明確な敵意を持ってローズカリバーを構えた。


「だからちょっと待って! 俺、別にゴキブリの化身とか魔物とか、全然そう言うのじゃなくて! れっきとした人間――」


「どこがだ!」


「のぅわっ!?」


  弁明虚しく、ローズカリバーが横に一閃される。ニグラムは頭を下げて回避し、そそくさとローザリーの横を飛び込み前転で通り抜けた。


  それから急いで起き上がり、自分の方に振り向いたローザリーと対峙する。ローズカリバーの切っ先を突きつけられた挙げ句、彼から放たれる重圧感をモロに受けて迂闊に身動きが取れなくなる。


  さらに、二人の足元は既に氷の床。ローザリーはともかく、軒並み戦意が落ちているニグラムにこれを乗り越えるだけの意欲はない。すっかり逃げ腰だった。


「貴様から発せられる反応はまさしく魔物。ルキフィガよ、この私が引導を渡してくれる」


「あの、話し合いは……?」


「白々しい。闇を呼び込む者と光を導く者、語る必要はなかろう」


「いや、だから話の一つぐらい聞けよぉ!?」


  会話のキャッチボールは成功したが、話し合いで解決には至らず。終始頭を固くしたままのローザリーに、ニグラムはありったけの声量で怒りをぶつける。理不尽な相手の言い掛かりに、彼は本気でキレていた。


「ルキフィガとか闇を呼び込むとかお前の妄想に興味ないんだよ!! 中二病もいい加減にしろ、バカ!! そもそもなんだ! その特撮に出てきそうな――」


  直後、ローザリーの剣舞がニグラムの身に襲い掛かる。


「うぐっ!?」


  上段、下段、突き、薙ぎ払い。重く鋭い斬撃が休む事なくニグラムに繰り出される。これにニグラムは、両腕を使ってひたすら防御するだけだった。足場がよく滑るので、存分に動く事も叶わない。


 また、どんなに剣で斬れないほどの防御力があると言っても、ここまでされれば鈍器で殴られているのと等しかった。ローズカリバー本体が折れる様子もなく、半ば打撃に近いダメージをどんどん蓄積させていく。


  一方、ローザリーは氷の上を普通に動けていた。加えて、ニグラムが氷の足場から離脱しないように攻勢の立ち回りを工夫し、足場の中心に相手を常に据えておく。どんなに走っても、どんなに跳躍しても、ローザリーに限って摩擦力は地面と同じと言わんばかりだ。本人の身のこなしも、どれを取ってもニグラムを遥かに上回っている。


  そして、ローザリーの攻撃を受け流し損ねたニグラムは、遂にその場で大きく滑った。まさに弾丸の勢いで不様に横たわる。氷床にはヒビ一つも入っていない。


《tsrub drows》


  その間にローザリーはブレスレットのスイッチを押し、ローズカリバーへの魔力伝導を済ませる。すかさず、ニグラムの身体をローズカリバーで乱暴に掬い上げた。


  横たわりながら氷の上を滑走していくニグラム。先ほどローズカリバーを受けた胴には、十字型の金色の光がマーキングされている。


  滑走の勢いのまま水路に落ちようとした次の瞬間、ニグラムの身体が宙に浮かぶ。胴に付けられた十字の光が半透明のカプセルに変形し、ニグラムを閉じ込めては無理やり立たせる。

 

「ヤバイ……この! この!」


  これから何が起きるのか。最悪の未来を垣間見たニグラムは必死に目の前の壁を叩くが、光のカプセルはあまりにも堅牢すぎた。びくともしない。


  そのため、今度はバーストアンテナを展開した状態でカプセル突破を試みる。しかし、それよりもローザリーの行動が一足早かった。


「輝け、鉄乙女」


  そう呟くと共に、突如出現した無数の光の針がニグラムを半包囲する。そして、振り下ろされたローズカリバーの動きに呼応して、光の針は一斉にニグラムへと降り注いだ。密集した光の針によりニグラムの姿が隠れていき、薄暗かった水路一帯を明るく照らす。


  拷問具、鉄の処女。ヨーロッパでは半ば伝説の存在が世界を越え、その名が彼の放つ一撃に付けられていた。敵を捕らえるカプセルに、生み出された大量の光の針。それを指揮するのは、機械剣を振る白騎士たった一人。



 ――処断光針、ルクス・アイアンメイデン。効果、相手はカプセルに囚われたまま光針の一斉攻撃を受けて爆発四散する――



  光の針が全て命中する寸前、ニグラムはシェルフィストでカプセルを破壊する。拘束が消えた事で逃走が可能になり、反射的に後ろへ飛び退いた。


「ぐあぁっ!!」


  それでも被弾は免れなかった。光の針が次々と全身に着弾し、黒い装甲殻から小爆発と火花が散る。着弾時の衝撃によりニグラムは吹き飛ばされ、あっという間に水面に叩きつけられた。


  ザバアァァン!!


  腹にずっしりと伝わる重たい音を辺りに響き渡らせながら、大きな水柱と大量の水飛沫を発生させる。水飛沫の大半はほぼ真上へ飛び跳ねて、やがて水面と氷床へと落ちていく。人為的な小雨がしばらく降り注いだ。


  そんな中、ニグラムが水落ちした場所を見ていたローザリーはふと疑問を口にする。


「爆発四散しない?」


  首を傾げ、備わっている索敵機能を利用する。魔物の索敵は網膜投影でおこなわれる。


  ローザリーの兜の裏側は、視界の範囲が非装着時とほぼ大差がない。それ以外にも聴力補助などが組み込まれており、平たく言うならレーダー、センサー、大気フィルターなどを盛った頑丈なフルフェイスのヘルメットである。


  そのため、閉塞感や不便さを抱える事なく、ナサリオは兜越しでも満足に外の景色を確認できる。索敵機能も使えば、ニグラムがまだ水中で生きているのもわかった。


  しかし、網膜投影されたマップが示す赤い点が間もなく消失してしまう。普通に考えれば死んだものだと判断できるが、ニグラムが爆発四散した気配がない事にナサリオはどうしても引っ掛かっていた。補正された視力に頼ろうにも、深い上に透明度が低い水路の底まで見通すのは無理がある。


「反応消失。ローザリーで水中の死体確認は……無理だ、溺れる。迂闊だった……」


  ニグラムを水落ちさせた事に後悔しながら、ローザリーはその場で立ち尽くす。鎧という範疇を越えないため、もし泳ごうと思っても自重で川の藻屑になるのは確実だった。

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