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G魔法戦士ニグラム(黒) ~強制転生に強制特典。あとゴキ○○~  作者: erif tellab
2章。遠方より遙々やって来たGの妃
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24話。S魔法騎士ローザリー(十字架)

 結局、ティナの事は正体不明で終わった。あの後、ミミズ怪人の事を思い出して急いで現場に戻ったものの、数人の衛兵が既に現場維持のために封鎖を始めていた。遠くから眺める事になったが、あの紫の水晶だけは見当たらなかった。


  魔物と水晶と聞いて思い付くのはデビルアロマだ。またかよ、ってウンザリしそうになる。


  魔物化初期ならともかく、現時点では人に戻す術が確立されていないとの事。だから、魔物化から時間が経過した人はもはや救いようがない。


  その点に関しては、周りの人々は俺と比べてすんなりと受け入れていた。やはり生まれの違いから来る差は、結構もどかしい。


  ただ、魔物化がその人の本意ではなかったとしたら、捕獲という考えを捨てて即刻撃破するのは俺も納得せざるを得ない。極論に限定されるのが少し空しいが、襲う側と襲われる側双方が救われる道はそれしかないと思う。魔物化なんて、その人の尊厳が失われる。


  本意だった場合? 自分が自分でなくなる方法に手を染めるなんて、理解に苦しむ。ゾンビ化とほぼ一緒な気がする。変異が怖くないのか、それともデビルアロマの力がとんでもなく魅力的だったのか……。魔物化はほとんど人間としての死と同義的だと、俺は考える。どのみち自己としての存在が消えてしまうのなら、破滅的な未来は進みたくない。


  そんな訳で。今日も今日とて午前中に買い物を済ます。


  盗賊とか怪人とかの相手をして何度も死に掛けた自分としては、平和とは本当にありがたい時間だった。争い事のない平和が一番幸せ。尊い。大好き。


「いやー、もう慣れっこだ。買い物」


「そうね。スズト、人波に流される事なくなったし」


  中身がたくさんになった買い物かごを抱えながら感傷に浸っていると、リエが前に起きた出来事を思い出す。


  過去に市場で買い物をしていたら、いつの間にか安売り品を求める主婦たちの荒波に揉まれていた事があったのだ。あれはまさしく悪夢だった。


  今思い出しても微かに身震いがする。その時一緒にいたリエに随分と迷惑を掛けたものだった。うん、もう一度謝ろう。


「あの時は本当にごめん。ベクターさんに怒られて以降は必死にもがくようにしてたんだけど」


「ううん。私だって負ける時はあるもん。主婦たちの執念にはそうそう勝てないわ」


「あぁ、やっぱり主婦がおかしいだけなんだな……」


「流石にあれがいつもじゃないよ」

 

  そうやってお互いに笑い飛ばす。異世界での暮らしが完全に日常と化していた。慣れるって凄い。


  すると、前の方からリエの名前を呼ぶ女子の声が聞こえてきた。


「リエー!」


「あ、キャロ! アニタ!」


  声のした方向に顔を向けるリエにつられて確かめてみると、そこには彼女と同年代らしい女子が二人いた。ハチャメチャに元気そうな一人は手を大きく振り、もう一人は大人しくしている。


  どこかで見覚えがある。リエの友達かな? 二人がリエの元にやって来るのに応じて、俺はリエから大きく一歩下がる。邪魔するのもアレだから、ここはスルー一択だ。適当に周りの景色を見ていよう。


「ねぇ聞いて! ダンジョンの規制がカチカチになっちゃったおかげで作りたい魔法薬の素材が集められないの。最低でも四人組じゃないとダメなんだって。一人で行ける初心者ダンジョンもだよ。信じられないよね?」


「え!? キャロ、それいつの話?」


「つい昨日~! わざわざ材料買うよりも自力で調達した方が安いのにさ!」


「そんな……そんな……私が冒険者ギルドに行ってない時に限ってそんな……」


  元気そうな女子――キャロの言葉に、リエは意気消沈する。


  冒険者ギルド? リエから何度も聞かされた事があるな。魔物を討伐したり、薬草を集めたりするだけでなく、色々な仕事探しに最適な場所だと。

 

「あと、近くのダンジョン全部が地下四階から立ち入り禁止だって。騎士団出動クラスのやたら強い魔物が出たせいで。ベテランの冒険者がゴッソリいなくなったのもある」


「あ、それなら……仕方ないね……」


  今度は大人しめの女子――多分、アニタ――の発言に、リエは思いっきりショボくれる。


  そして俺の想像通り、ダンジョンとやらはとんでもなく危ない場所だというのがわかった。強い魔物? 冒険者がゴッソリいなくなった? 行く気とか完全に削がれる。怖い怖い。


「リエ。そっちの彼は?」


  話の区切りが一旦つけば、彼女たちの意識がこちらに向くのは自明の理。今まで我関せずを貫いていたが、とうとうキャロに目をつけられた。


「スズト。シラス・スズト、ウチで居候してるの」


「どうも」


  リエが紹介してくれたので、俺は二人に軽く挨拶を返す。


  きっと話題が俺に移るんだろうなぁ。質問攻めされる覚悟だけはしておこう。その時はその時で、同郷しか通用しないような答えを返してやればいい。


  そう思っていると、キャロがリエとアニタを引っ張って、三人ともこちらに背中を見せた。明らかに俺に内緒で話をする雰囲気だ。


  ごめん。何度かニグラムに変身したせいか、身体能力だけではなく視力や聴力とか上がっているみたいなんだ。不可抗力だけど、その程度の内緒話が通じない。


  それでも一応は、空いた手で片耳を塞ぐ。片方だけでは意味がないのはわかっているが、片手で持つ買い物かごを地面に置いて、引ったくりに遭うなんて結末はごめんだ。


  さぁ、自主的に聞かないでおくから、存分に内緒話をしてくれ。俺は好奇心を働かせるよりも、何も知らないでおく方を選んでおく。


  だがその瞬間、急に背筋がゾッとした。それから間を置かずに嫌な感じがやって来る。衣服を通り越して、素肌に直接だ。


  この奇妙な感覚に襲われるのは三度目となる。一度目はカラス怪人。二度目はミミズ怪人。三度目も恐らく、怪人とかだろうなぁ……。これから何が起きるのか察しがつく自分がいる。


「あれ、お店の厨房の奥にずっと居た子だよね? もしかして彼氏?」


「ベクターさんチェッカーは仕事しなかったの?」


「もう! そんなのじゃないって! 恩人だから……スズト?」


  リエの呼び掛けで、俺の意識が現実に引き戻された。気がつけば、ずっと隣の建物の玄関口を見つめていたようだった。


  慌ててリエたちと顔を見合わせる。三人揃って怪訝そうな表情をしていた。


  どうする? この嫌な感じ、敢えて無視するか? だけど、早くこの感覚の根源を断ちたくて身体がウズウズしている。それに、無視した場合の未来を一度考え出すと、全然キリがなかった。


「ごめん。急用ができた。荷物頼む」


「え? え?」


  結果、俺は買い物かごをリエに押し付けて、すぐさま駆け出した。道筋は直感の赴くまま、何の躊躇いもなく嫌な感じの出元へ向かっていく。


  お願いだ、全部俺の杞憂であってくれ。魔物とか街中に出ないでくれ、頼むから。いざ存在を察知できたら放置できなくなる。知らない振りなんて以ての他だ。遠い場所にいる赤の他人とかならどうしようもないからともかく、後々に危害が自分や身の回りの誰かに加えられたら洒落にならない。


  正義だとか偽善だとか考えている暇も余裕なんてない。今の俺は、自分の暮らしが壊されないようにするために動いている。人並みの幸せを得るために。一人だけで幸せが成り立つとは思えないから。


  自分勝手? それが結果的に誰かのためになるのなら、それでも良いんじゃないか? 一々細かい事を気にしたくはない。常識はずれの異世界でのほほんと暮らしていくには悪い癖だから。


  やがて、水路沿いの住宅街へと辿り着いた。水路の対岸を見れば、随分と寂れている家がチラホラ。人通りなんてこれっぽっちもなかった。


  なんて暗い場所なんだ。通っている道幅は狭く、今にも事件とか起きそうな雰囲気をしている。誰か嘘だと言ってくれ。


  しばらく進んでみると、地下水路へ続くトンネル辺りの水中にて、白い巨大な繭の上部が浮かんでいるのを発見した。繭はミリミリと音を立てながら、内側から徐々に破かれていく。繭がある位置は対岸側なので、俺にあの孵化を止める手立ては特にない。と言うより何も思いつかなかった。


  先手必勝、火魔法を放つ? いや、威力が多分足りなくて倒せない。繭から生まれるのが、どうせ怪人だと予想しているせいだ。今までの経験則と偏見だけに。


  くそっ、面倒だ。近くに人がいる様子もないし、殴って倒そう。そっちの方が絶対楽。接近戦なら銃よりもナイフが早いと言われるぐらいだから。


「こんな物陰で孵化とか……natravira【変身】!」


  その直後、トンボの特徴を持った人型の赤い怪物が繭の中から姿を現した。くりくりとした金色の複眼を、ニグラムに変身した俺にしっかり向ける。



 ※



  ルズベリーの街の中央広場付近に冒険者ギルドがある。建物の規模は市庁舎と負けず劣らず、酒場は中ではなく隣に存在している。あくまで斡旋所と食堂は分離する体裁を取られていた。


  そこに、ナサリオが部下の騎士を数名連れて訪れていた。クモの魔物の被害に関する直接の聞き取りだ。アンジェラたち他の団員は別行動で、デビルアロマ案件の捜査を任せている。


  冒険者ギルドの責任者との長い話を終えれば、要点を念頭に置きながら外へ出る。メモも忘れない。その時、ナサリオの瞳が紫色に光った。同時に何かを探すようにして辺りを見回す。


「団長?」

 

  ナサリオの突然の行動に、一人の若い騎士がふと怪しむ。何も知らなければ、キョロキョロとする彼の姿はただの挙動不審にしか思えない。


  この若い騎士は最近になって天翔騎士団に入った新米である。ゆえに、他の騎士たちと違ってナサリオの変化は初見であった。隣にいた先輩騎士が若い騎士に耳打ちしようとすると、ナサリオが真っ先に説明を果たす。


「敵感知。魔物が街にいる」


「え? 探知機は特に反応は……」


  それを聞いて、若い騎士は自分の腰に提げられている懐中時計を開く。蓋の裏側にある画面には、レーダーマップに似たものが表示されているだけだった。


  騎士団御用達の装備品、索敵時計。索敵範囲内に存在する魔物の位置が示される高級の魔法道具である。索敵時計を中心に弱めの魔除け効果を持つ空間を生成し、その中に侵入してきた魔物を察知する仕組みだ。その他にも時計側面部にあるネジを回す事でフィルター設定も可能。小型、中型、大型種などと索敵できる対象を変更できる。


  索敵時計が故障でもしていなければ、若い騎士の言う通り魔物は近くにいない。だがナサリオの場合は、左手首に巻いたブレスレットの力によるものだった。依然として瞳の輝きは収まらず、把握した対象がいる方角を一瞥する。


「それの有効範囲外だ。私は現場へ向かう」


「ま、待ってください!!」


  ナサリオはそれだけ言い残して、その魔物がいる場所へと駆けていった。いくら軽くても、鎧を身に纏っていると到底思えないほど彼の足は速かった。


  置き去りにされた部下たちは慌てて彼を追い掛ける。しかし、ナサリオとの距離はぐんぐん開かれる一方だった。

 





「このぉ!」


  その頃、ニグラムは乱暴に拳を前に出していた。だが、トンボ怪人が素早く空に飛んだ事で空振りに終わる。


  頭上を越えて後ろを取ろうとするトンボ怪人に、必死に食らいつくニグラム。即座に攻撃しようとするが、当の相手はその場に滞空したままだった。


  人間では聞き取れない低周波の羽音に、ニグラムは仮面の下で顔をひきつらせる。トンボ怪人の下方には、底が深く流れが速い大きな水路が待っていた。水落ちの未来が丸見えだった以上、下手にジャンプして殴り掛かる無謀な真似は控えざるを得なかった。


  なので、なけなしの遠距離攻撃を仕掛けてみる。


「ちっ! erif llab【火球】!」

 

  ニグラムが手をかざすと同時に、そこから火球が勢い良く飛び出す。しかし、火球はトンボ怪人の頭の側を通り過ぎるだけだった。


「クソエイム!!」


  トンボ怪人の遥か後方で消え去っていく火球を見送りながら、ニグラムは自虐した。


「ハッ。聞いた話よりも弱そうだぞ、ニグラム」


「喋ったぁ!? うおっ!」


  面食らったニグラムの隙を突き、トンボ怪人は一気に下降して強襲する。対してニグラムはそれにギリギリ反応し、身を屈める。勢い良く繰り出されたトンボ怪人の蹴りは、ニグラムの仮面を僅かにかすっただけに終わった。


  直後、トンボ怪人は再び空へ戻っていく。その間にニグラムは姿勢を直して、ついつい独りごちる。


「喋ったって事はアレだよな、デビルアロマだよな? 名前もばれてる」


「シャアッ!!」


  ニグラムが考えをよぎらせるや否や、トンボ怪人の掛け声が響いた。今度は足を真っ直ぐニグラムに向けて、槍のように降ってくる。


「くうっ!?」


  余計な考え事をしていたせいで避ける事も叶わず、ニグラムはトンボ怪人の蹴りを胸に受けた。それでも踏ん張って耐えたおかげで、足と接地している場所が陥没する。


  ただし、がむしゃらに抵抗する事は忘れていなかった。苦痛に堪えながら、両手でトンボ怪人の足をガッシリと掴む。相手に逃がす暇さえ与えなかった。


  すかさず、一本背負いに似た要領でトンボ怪人を地面に叩きつける。その後トンボ怪人の背中にのっかかり、相手の右脚を思いきり手繰り寄せた。股関節の限界まで曲げさせ、一瞬たりとも解放してやらない。両腕を使い、必死の思いで固持する。


「よっしゃ! その身体持ち主に返せぇ!!」


「アダッ! アダッ! 今さら遅い! アダダッ!」


「じゃあ倒す!!」


  たちまち、やる事がプロレスとなった。悲鳴を上げながらもトンボ怪人の戦意は衰えない。もはや戦いはスタイリッシュさの欠片もない、泥沼としたものになっていく。


「flow eci 【狼氷】」


  その時、どこからともなく黒魔法を唱える男性の声が聞こえてきた。ピキリと、水が一気に凍てついたような音もやって来る。


  瞬間、ニグラムたちの元に一つの巨大な氷弾が飛んできた。それに気づいたニグラムは咄嗟に回避しようとするが、寸分遅れて氷弾は二つに分裂。一つはトンボ怪人、もう一つはニグラムを追い掛けた。


  そして、氷弾は二つとも目標に吸い込まれる。直撃を受けた二人は間もなく氷漬けになった。


  しかし、氷漬けの状態も一瞬にして解除される。ガラス細工の如くあっさりと氷が砕け、中から両者が飛び出す。特に外傷もなく健在だった。


「「寒っ!!」」


  両手を己の肩に回し、ニグラムは小刻みに跳ねる。うつ伏せのままで氷漬けにされたトンボ怪人も、似たような反応だった。


  氷属性の中級黒魔法、flow eci【狼氷】。追尾性能が付与されたそれは、本来なら氷漬けになった対象もろとも微塵に砕け散る。ニグラムたちが死ななかったのは単なる威力不足か、魔法の耐性と防御力が高かったかのどちらかだ。


  氷弾が飛んできた方向にニグラムは視線を向ける。自分たちが戦っている水路の対岸には、静かに十字架を取り出す騎士――ナサリオの姿があった。手のひらサイズの十字架の中心には、小さな緑色の水晶が嵌め込まれている。


「装着」


《Gnillatsni. Rozary》


  ナサリオが十字架をブレスレットの窪みに差し込むと、ブレスレットから音声が鳴り響く。刹那、彼の足元と頭上に金色の円陣が出現した。円陣から放たれる光はナサリオの身体をすっぽり覆い隠し、やがて円陣と一緒に弾けて混ざる。


  その時に一際強く発生した目映い光を、ニグラムたちは思わず手を顔の前にかざして遮る。光はすぐに収まった。


  それからナサリオがいた場所を再び見てみれば、代わりに真っ白な全身甲冑を着た一人の騎士が静かに佇んでいた。白い装甲には所々に銀色のラインが混ざり、右肩には薔薇の意匠が彫られている。腰のベルトの脇には、抜き身となった機械的な剣が提げられていた。


  白い騎士が一歩進むと、ニグラムとトンボ怪人はお互いを注意しながらも身構える。二歩目を進む頃には、兜の目元を防護する細長いゴーグルが緑色に発光した。一時的に、発光の前後でデュアルアイがゴーグル越しに写し出される。



  ――魔法騎士ローザリー、参上――


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