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G魔法戦士ニグラム(黒) ~強制転生に強制特典。あとゴキ○○~  作者: erif tellab
2章。遠方より遙々やって来たGの妃
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21話。お迎え

「大変大変大変……!」


  リエは焦り全開のまま、坂道を猛スピードで駆け降りる。その腕にはティナを一心に抱えていた。そちらの方が速く移動できるからと。


「ティナ! 別に鈴斗は魔物とかじゃなくて! 勘違いされそうな姿だけど、あれって――」


「知ってるわ。魔法、でしょう?」


「へ?」


  ティナのあっさりとした反応に、リエの走るペースがガクンと落ちる。ティナが鈴斗の【変身】を知っている事など、彼女の予想外だった。


  リエは一度ティナの顔を窺うが、どうにも口から出任せやハッタリには見えなかった。むしろティナは、リエと違って飄々としている。


  (最初から知っていたのなら、この子は一体? )


  初見にしろ既知にしろ、鈴斗が変身した姿は明らかにゴキブリのデザインを踏襲している。さながら化身とも呼ぶべき格好に、全く取り乱そうとしないのは可笑しな話だ。リエ自身はともかく、他はそうも行かない。


 そんな風に疑問に思っていると、ティナがジロリと睨み付けてきた。


「それより……早く降ろしてくれるぅ? あなたにお姫様抱っこされても嬉しくない」


「あ、ごめんね。って、そうじゃなくて!」


  謝罪と否定の気持ちを混ぜつつ、リエはてんやわんやでティナを下に降ろす。今の彼女はやたらとそわそわしていて、落ち着きが全くなかった。


  鈴斗がニグラムに変身して、柵から落ちた後の様子を見下ろしたのは一瞬だけだ。落ちたけど平気そうだなと判断して、一先ずティナを逃がす事を選んだ。


  しかし、最後まで鈴斗を見届けられないのが心残りとなり、無性に心配せざるを得なくなっている。相手の安否を常に正確に把握できない現状に、リエは非常にもどかしさを覚えた。


  近くの剣士団の人や衛兵を呼んでも、すぐ現場に到着する訳ではない。必ずタイムロスが存在する。ここに来て、リエは自分が行くか呼びに行くかを迷っていた。ティナの事もあるので、放置はまず避けたかった。


「ああ、早くスズト助けに行かないと! でも時間は掛けたくないし、不安だし!」


「大丈夫。鈴斗なら余裕で勝つわぁ。あんなの雑魚だもの」


「でも! でも! 練習でもベルトを出すまでで終わってたのに――」


「あなたは鈴斗を信じられないのぉ? 私は信じるわ」


  その時、ティナが凛とした声できっぱりと言い放った。幼い容姿に似つかわない気迫に、リエはたちまち口ごもる。


「うーん……」


  鈴斗がどれだけ戦えるかは、一番近くで見た事がある自分がよく知っている。ただ、その中でもダントツに挙動が洗練されていたのは、鈴斗がうろ覚えだと言うカラス怪人との戦いだ。その前のゾウ怪人との戦いはまるで、チンピラ同士の喧嘩のようだった。二つの戦いを比較すれば、天と地ほどの差がある。


  まだ二回しか見ていないが、それぞれ落差が激しいのは一目瞭然だ。これを前提に考えていくなら、先ほどの鈴斗はしっかり受け答えができるほどの意識があったので、今頃は喧嘩闘法で戦っている事だろう。


  要するに、戦い方が下手になっているかもしれなかった。 下手なら苦戦をしてもおかしくない。最初から鈴斗の勝利を信じて敗北を疑わないティナと違って、リエは不安しか抱けなかった。


  すると、コツコツとテンポの良い足音が前から響いてきた。リエはそちらに視線をやると、燕尾服を着た青年の姿を見つけた。背はすらりと伸びていて、二メートル近くはある。一見して爽やかな印象を持つ好青年といったところだ。


  青年――レジェントは柔らかな笑顔を浮かべながら、リエたちの元へ近づいていく。歩幅は一定に保たれ、腕は軽く振り、身体は必要以上に揺れない。まるでマシーンだ。


 対してリエは、その笑顔が仮面のようにしか感じなかった。貼り付けただけの仮初めの微笑み。愛想笑いや作り笑いとも違う。とにかく不自然極まりなく、怪しさが異様にも伝わる。


「探しました。お嬢様」


「誰?」


  なので、リエは躊躇わず蛇光剣を構えた。もはや彼女の目には、レジェントが不審者としてしか映っていない。ティナを自身の後ろに匿って、レジェントの前に出る。


  しかし、ティナがそれを拒んで彼女を制した。


「待って、リエ。彼は私の御付きよ」


「え? でも笑顔が……」


「薄っぺらく見えるでしょう? いつもの事よ」


「酷いです。この笑顔は正真正銘の本物ですのに」


  ティナの辛辣な発言にレジェントは顔を手で覆い、己の悲しみを周囲にアピールする。ただ、その挙動が大げさすぎて、リエはどうしても怪しまざるを得ない。人が他にもいないのも原因だ。昼間なのに、いくらなんでも静かすぎる。


「はいはい。じゃあ、鈴斗とお別れが言えないのが心残りだけどぉ……」


  そう言ってティナはレジェントの近くまで歩く。リエは思わず手を前に出そうとするが、「待って」とは言えなかった。ティナの背中を追った手は空しげに宙を掴むだけに終わる。


  それからレジェントがリエにお辞儀をして、指を鳴らす。瞬間、二人の姿がふっと消えてしまった。


「……消えた?」


  同時に街の喧騒が甦ってくる。街の主要な道路と比べると穏やかなものだが、それでも突然戻ったかのようだった。


  人通りが格段に増え、小鳥たちの鳴き声や翼を羽ばたかせる音が流れてくる。その前触れは何にもなかった。今思えば、この坂道を訪れてきた時点で人がいなかった気がしてくる。


  そして、道の角の向こう側から小刻みで大きな足音が近づいてきた。気になって自分も近寄ってみれば、変身を既に解除した鈴斗が走ってくるのが見えた。


  やがて鈴斗はリエと合流し、肩で息をしながら彼女に問い掛けてくる。


「ハァ……ハァ……リエ、ティナは?」


「さっき執事っぽい人が迎えに来て……ところでそっちは?」


「倒せた。死ぬかと思った。筋肉痛は少し」


  疲労がずっしりと溜まっている様子の鈴斗は、淡々としつつも懸命に答える。その表情は酷く歪んでおり、今にも泣きそうだった。


  それを見てリエは安心するとともに、鈴斗の頑張りを労いたくなった。ただし、それよりも優先して確かめたい事が一つあった。ほっと胸を撫で下ろしながら、ゆっくりと話し出す。


「そっか、無事で良かった……。ねぇ、ティナがG魔法を知ってた風だったんだけど、スズトが何か教えたの?」


「へ? いや、それはないけど……知ってたってマジ?」


「うん」


  神妙な面持ちで問い返す鈴斗に、リエは迷わず頷く。そうしてしばらく顔を見合わせた後、風のように現れては去っていったティナに二人は同じ事を思った。


 ――結局、何者だったんだろう?――

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