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8・思ったほどではなかった

 兄が何を思ったのかよく分からない。だが、今回俺に帯同する「移住者」から意図的に若者や騎士は除外されている。それを考えると、警戒はされているらしい。


「あれが、ナンションナーの波止場か」


 船から見た陸地は想像していたような荒野ではなかった。随分森林は後退してしまっているが、草原が広がっており、予想したよりは住みやすそうに思えた。

 海上からの見た目は良かったのだが、実際、街というか村へと降り立ってみると、そこは確かに、住むには苦労しそうな場所だった。


 冬には雪が積もるような場所でかなり寒いらしい。日本だと東北あたりになるんだろうか、北海道だろうか。まあ、そんなところなのに、建物はどう見ても防寒には適していなさそうなあばら家状態だった。

 いたるところに廃墟が点在する様はまさにゴ-ストタウン。いや、現状は限界集落だな。


「こんなところに王族様がお越しなさるとは、何もございませんがお許しください。私はこの村を預かるキヴィニエミと申します」


 村長(むらおさ)とでも呼んだらいいのか、そこそこ身なりがよい老人が俺を出迎えてくれた。


「王族だったという方が近いぞ、縁辺領を拝領という事になっているだけで、それ以外には何もない」


 俺は正直に村長にそう話した。


「いえいえ、いつ人が居なくなるかわからない様な土地に人を連れてきていただいただけでもありがたい事です」


 彼はありがたいと言うが、人が居ては食料に困るのではないかと、そんな疑問がわいてきたのだが、その心配はないらしい。


「この土地は元は街だった場所、元は相応の人口を養う畑があった場所です。人さえいれば食うに困る事はありません」


 あれだ、転生もの小説にもよくあったスローライフの類だろうな。たしかに、人さえいればそれは可能だろう。広々とした起伏の少ない草原を見てそう思った。今現在は村の隣に僅かに畑が見える程度だが、山裾まで畑を広げれば穀倉地帯になるんではなかろうか。


「確かに、食料には困らなそうだ。これから開墾すればピヤパの種まきに間に合うかもしれない」


 そう、人数がそれなりに居るので、草を刈って多少耕せばピヤパ程度なら栽培できそうだ。カルヤラで主流のアマムの場合は肥料や土壌を気にしないといけない。第一、ピヤパではパンは出来ない。膨らまないのでンビセンのように固く焼くか、粥にして食べることになるが、やせた土地や冷涼な土地で育つ。

 ピヤパはヒエとかアワとか、そんな感じの雑穀で、アマムは小麦に近いと思うが異世界なので前世と一緒とは限らないよな。


 前世の救荒作物にサツマイモやジャガイモがあったので、イモ類はないのかと思ったが、残念な事にナンションナーみたいな北方で栽培できる芋はカルヤラに存在していなかった。


「はい、この人数なら。ただ・・・」


 村長は申し訳なさそうに、農具が不足していると告げた。ここは山の民との交易拠点で、鉄製品の扱いは多かった筈なのだが?


「山の民との交易で鉄器を扱ってるのではなかったのか?」


 と、当然の事を聞いてみたのだが、それは昔の話で、ここから見える禿山ではすでに鍛冶や製鉄の衰退著しいらしい。

 そりゃあそうだ、製鉄や鍛冶は砂鉄や鉄鉱石だけでなく、火力源となる炭が重要になる。それが無くなれば自然と衰退していくのは当たり前だろう。


「では、農具は手に入らないのだろうか?」


「いえ、森では我々が炭を焼いておりますので、それを鉄器と交換しております。もう数日で次の炭が出来上がりますので、その時にいくらかは用意できるかと」


 なるほど、まだ炭焼きが出来るのなら何とかなるか。


「それで、この街では暖房に何を使っているのかな?」


 これ重要。王都で見た資料によれば、暖房用の燃料は薪や炭ではなく、「焼き石」というものだという。俺の勘が確かなら、それは石炭の事だろうと思う。


「これになります。『焼き石』といって、街外れの崖に存在している燃える石です」


 それは黒い塊で、間違いなく石炭だ。しかも、露天掘りでそこそこ掘れるとなるとより期待が持てる。

 

 それから数日間、移住者総出で新たな畑の開墾を行った。頼りない農具しかなかったが、そもそもどこでも育つ雑草みたいなピヤパは大きな石を取り除いて多少耕しておけばそれで良い。収量を求めるならちゃんとした開墾が必要になるが、手始めにやるならこの程度で良い。


「大鎌があって良かった。これがあるだけで作業が違う」


 移住者は農業なんかほとんど知らないから、わずか数人ナンションナーの農民が指導に付いているのだが、彼らが大鎌で草刈りをしてくれるおかげで作業は大いに捗っている。


「縁辺公自ら野良仕事など、畏れ多いことです」


 移住者の中にはそんな事を言う元貴族が居るが、人手が無いのだから仕方がない。チビでやれることは知れているが、何もしない訳にはいかない。


「名前だけの公爵なんだ、そのうち豊かになったら他の事を考えるとしよう」


 そう言いながらせっせとあまり掘れもしない鍬を振るう。

 畜力があればもっと楽なのにと思ったのだが、この村、馬や牛は居ない。馬車ではなくポニー車ってなんだよそれ。

 そもそも、牛や馬を買う資金力もないのだから仕方がないのだが。


 まずは、炭を「山の民」に持って行って、鍬と出来たらツルハシを買ってこないといけない。古い切り株がそのまま残ってるようでは今後のためにもよくない。




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