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72・帰ったらホッコに絡まれた

 ナンションナーへ帰るとすでにピヤパの収穫が始まっていた。


 それもそうだろう、本来、10日程度で帰って来るはずだったが、貴族軍の来襲や熊退治で結局、辺境にはひと月ほども滞在してしまった。


 そうではあっても、ナンションナーはまるで混乱していない。行政は村長やイアンバヌ、ケッコナが滞りなくやっているし、農作業や鍛冶、炭焼きなども俺が居なくとも問題ない。


 それに、森の民による定時連絡は行われていたので、俺への連絡も僅か2、3日で出来てしまう。まったく困る事が無かったわけだ。電話や無線が無いのに何と便利な事か。


 そんなわけで、帰着してすぐに熊退治の祝いが行われた。


 当然だが、俺が川を下って時間を要している間に、森の民は森の中の道を使って最短ルートでナンションナーへ帰還の連絡が行われている。

 もちろん、それは森の民の能力あっての事で、俺が同じことをする訳にもいかない。海岸道を使う手もないではないが、それでも船と時間に大差はない。いや、隊列が長い分、船より時間がかかるかもしれないな。


「やったね、ウルホ」


 そう言って迎えてくれたのはイアンバヌだった。


「イアンバヌが弓を持たせてくれたからだ」


 そう言ってイアンバヌを労う。ケッコナもその隣で微笑んでいる。


 宴が始まってそう時間も経たずにすでに酔ってる連中もいる。蒸留酒の大樽を開けたからだろうな。なにせ、あの酒はかなりの度数があるはずだから。



 そんな騒ぎの中、どうにも雰囲気の違う人物が俺に近づいて来た。


「ウルホ、どういうことだ?ケッコイ配下の男と混浴して同衾までしたとは何だ」


 ホッコがそう言って迫ってくる。


「熊を倒すためだ。それがどうかしたのか?」


 ホンデノは熊に俺たちのニオイを悟られないように、匂い消しを使ったに過ぎない。一体、ホッコは何を怒ってるんだろうか?


「本当にそれだけか?相手は男だろ?」


 俺もホッコも男なんだから、何を言ってるのか全く分からない。


「そのくらいにしておいた方が良いよ?」


 ケッコナがホッコを窘める。


「はぁ?ケッコナ、お前は何ともないのか?ウルホが男と寝たんだぞ!」


 ホッコがなんかバカな事を言っている。


「それがどうしたの?ホッコだって村の男たちと寝てるじゃない」


  ケッコナもどうやら呆れているらしい。


「いや、それとこれとは話が違うだろ。ケッコナ、お前がそう言うなら、俺がウルホと寝ても良いんだな?」


 ホッコはニヤッと気持ち悪い笑みを浮かべながら言う。


「もちろん。村の男たちと寝るようにならね」


 ケッコナがニッコリそういう。目が全く笑ってない。


「・・・・・・ったりまえだろ・・・」


 ホッコは何故か言葉に詰まる。なぜ?


「それならいいよ。でも、分かってると思うけど・・・・・・」


 ケッコナの目が怖い。きっと、熊でさえ怯えるんではなかろうか、アレは・・・


「お・・・・・・おう・・・」


 ホッコはさらに消え入りそうな声でそう応えたが、どうしてそんなに汗かいてるんだ?


「ま、そ・・そうだな、ウルホ、またそのうちな。それはそうと、お前もとうとう熊を倒す一人前の戦士だな!!わっはっはは」


 いきなり話題を変えたホッコはそれだけ言うとなぜか酒を求めてどこかへ消えて行った。


「ケッコナ、何かしたのか?」


 あまりに事にケッコナに聞いてみた。


「ケッコイの真似をしただけ。あれほどの迫力はちょっと出せなかったけど」


「・・・・・・そうか」


 ケロっとそう言う。まあ、ケッコイの怖さは知ってるから無粋な事は言わない。


「そう言えば、ホンデノが僕の弓を改良してくれるという話をしていたが、彼は弓づくりの名人なのか?」


 そう言うと、ケッコナは驚いていた。


「え?あのホンデノが?確かに、彼は名人だよ。ホッコの弓を作った人の弟子で、師匠も認めてるくらいだもの」


 なるほど、それは凄い事ではないか。あの熊を貫通するトンでも弓の作り手から認められてるなら相当な腕前だ。それでルヤンペも快く了承してたのか。


 後から聞いた話だが、どうやらホッコはホンデノにも絡んだらしい。が、ケッコイに肩を叩かれて顔を青くさせてそれ以後何も言ってこなかったそうだ。


「いやぁ~。流石姐さんだ」


 ホンデノがそんな事を言っていたが、そりゃあそうだろう。だいたい想像がついてしまう。ケッコナも怒ると怖いが、ケッコイはそんなもんじゃない。これ以上は身の危険を感じるので差し控えるが。




 宴の翌日から、ピヤパの脱穀に参加したが、今年は水車動力式が導入されたことで更に自動化が進んでいる。


 水車式のハーベスターで脱穀し、水車小屋内にある石臼で製粉まで行う一貫作業となっている。それまで人力で家ごとに冬の間じゅう行っていた作業が数か所の水車小屋で持って、僅か数週間で全て終わるのだからすごい。機械化ってのは本当にすごいが、コンバインが量産できれば、さらに早くなるだろうな。


 このシステムを参考に辺境にも水車式の機械を広めるのもありかもしれない。川が多いから広めるのは苦労はないし、省力化できればその分、耕作面積を拡げたり、他の産業振興にも役立つだろう。



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