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71・アマムの収穫が始まった

 次の日、あれだけ飲んでいたのに大半の連中は二日酔いになっていなかった。どんだけ強いんだ、こいつらは。


 さて、それはそうと、さすがに長居しすぎたので帰ろうと思った。が、


「貴族と熊の騒ぎでほとんどなんも出来てねぇ、俺は水門の件でちょっくら行ってくる」


 ルヤンペがそう言って波止場へと向かうことになった。


 そして、来るときに案内役をしていた騎士を連れて出ていく。


 さて、どうしたものかと考えていたのだが、不意に思い出したことがある。

 シヤマムの脱穀は行った。しかし、アレは脱穀だけで食べることが出来るわけではない。それはアマムだって同じだが、米の様なあの穀物は籾摺りや精米が必要になるだろう。

 籾摺りを何でやっているのか気になったので、見に行く事にした。


 ヘンナや山の民が付いて来たが、それが良い目印になったのだろう。以前訪れた村へ行くと村長がすぐさま現れた。


「これはこれは」


 ゴマをすっても何も出ないが、普通に挨拶して、あれ以後の事を聞いてみた。


「はい、あの機械は非常に良いモノです。脱穀、選別があっという間に終わりました。ただ・・・、籾と実の選別に使える機械もあった方が良かったと・・・」


 言いにくそうにそう言ってくる。


 そこでようやく気が付いた。


 そうだよな。ピッピやアマムは製粉するから唐箕を使うのは脱穀後の選別のみだが、シヤマムは米系穀物なんだから、脱穀だけでなく、籾摺り後の選別にも使えた方が良い。そんな簡単な事を忘れていた。


「そうだな。大工は居るか?」


 俺は村長に頼んで数人大工を集めてもらい、ナンションナー同様にその作り方を教えることにした。すでにより複雑なハーベスターを見ていた彼らはすんなりと唐箕について理解し、製作してくれることになった。


 さて、そこでだ。


「乾燥を終えたシヤマムは殻を獲る作業があるはずだが、どの様な道具を使うんだ?」


 そう言って連れていかれた農家で見せてもらったのは、やはり臼だった。そりゃあそうだろう。残念な事に、ゴムが無いのでこれに代わる籾摺り機を作ることは出来ない。

 籾摺りと言えば、木の臼で行うのが一般的だろう。石臼でやったら粉になってしまうからな。


 臼が使われている事で、俺としては何もすることが無くなった。


「なるほど、やはりこれか。これがあるならば問題ない」


 俺はシレっとそう言うしかなかった。


 村長もそれを好評と受け取ったのか、嬉しそうにしていた。


「それは良かったです。これで殻を剥ぎ、箕で殻を飛ばすのですが、あの選別機が使えたならば、より短時間で、多くの作業ができるようになるのです」


 まあ、そうだろうなと思う。


「それでですね、アマムの刈り取りもそろそろ始まっており、あの機械をそちらにも使えないかと思うのですが、可能でしょうか?」


 と、村長が聞いて来た。可能も何も、出来て当然だ。


「もちろん可能だ。だが、機械も少なく、広範囲の村が使う訳にもいくまい」


 俺がそう言うと、はたと気が付いたらしく


「そうですね。わが村の脱穀には使えますが、わざわざ遠くから運んでくるわけにもいきません」


 もともと、熊さえ出なければ足踏み式脱穀機と唐箕を広めるつもりでいたので、そのことを伝えることにした。


「だろうな。そこで、アレより簡単な脱穀機と大工に作らせている唐箕を各村へ配布しようと思う」


 そう言うと、村長は喜んでいた。流石に僅かな村だけが特別扱いを受けるのは非常にマズいようだ。


 足踏み式脱穀機も軸受けさえあればその辺りの大工が作れなくもない。軸受けについては山の民が簡易の鍛冶場で作れるというので任せることにした。


 足踏み式脱穀機の構造は難しくない。円筒があって、そこにU字の針金を指せば完成だ。必要なのは滑らかに回すための軸受けくらいだろう、後は大工が作れる。簡易の軸受けなので消耗品だが、それは追々、新たに購入してもらえばよい。カヤーニに伝えておけば上手くやってくれるだろう。


 という事で、刈り取り中のアマムの畑へと案内してもらった。


 麦の様なのに、なぜか穂には髭が無い。米が垂直に立てっているように見えるから不思議だ。


 刈り取りは当然だが、鎌で行う。ナンションナーでは刈り倒し機を作って多少は省力化されているが、ここにはない。


 いや、正確に言えば、使うのが難しい。


 刈り倒し機を使おうと思えば、まずは条植えされている事が前提になるが、当然だが、ナンションナー以外には種まき機が無いので、アマムは筋状に植わっている訳ではない。これでは刈り取りが上手くできず、歯に噛ませられずにただ押し倒してしまう茎が多発してしまう事だろう。それではせっかくの機械刈りが単なる手間を増やす事へと変わってしまう。


 なので、まずは種まき機の使用からだ。


「アマムはどのように種まきをしているんだ?」


 そう聞いてみると、やはりと言うか、耕した畑にただ播いているだけらしい。


「安定した発芽や生育には播いた種に土をかぶせた方が良い。そして、風通しを良くするために筋状に蒔くのが良い」


 そう言うと、人手がかかってしまうという。それはそうだ。人力でやっていればそうなる。


「種を播く機械がある。いくつか持っているからこの後に播く野菜に使ってみると良い」


 すでにアマムの休耕田は野菜のために耕されており、種まきを待つだけの所があったのを見逃していない。


「分かりました。後日、ご指導お願いいたします」


 機械の制作やその使用法を教えるために幾人か残ってもらうつもりでいたのでそこは問題ない。


 が、俺はそろそろ帰らないといけない。後ろ髪を引かれながらその場を後にするしかなかった。

 




 

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