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56・どうやら敵が攻めて来たらしい

 ルヤンペがあっちへこっちへと上陸こそしないモノの、有力な泥炭がありそうな中州を巡ったため、今日の船溜まりへの到着は薄暗くなってからとなった。


 本当ならもっと回りたそうにしていたルヤンペを何とか宥めて船着き場へと向かった。


「嬢ちゃん!ここはすげぇぞ!焼石とはちと違うが、あの泥はすげぇ!アレがあれば無暗に森を切り拓くことなくこの辺りの発展が見込めるぞ!」


 喜々として延々そう話していた。さっき騎士に話していた内容ではあるが、いやはや・・・


 どうも、騎士によるとクフモ周辺にはいくばくかの高低差がある湖が点在しているとのことで、ナンガデッキョンナーの様に水路を引いて水車を回すことが出来そうだという。

 水車は鍛冶仕事だけに使う訳ではなく、製粉にも大いに役立つ。


 輸送の関係上、製粉状態で輸送するのはあまり得策とは言えない状況なのだが、フェンや乾パンの様な製品として売り出した方が利益を得やすいので、そのための製粉小屋の話も行われている。


 そのような話をしていると慌てた騎士がやって来た。


「至急!縁辺公は居られるか!」


 そう言って走ってくる。


「どうした!」


 ヘンナが騎士に声をかけると騎士はヘンナのもとへとやって来た。どうやらナンションナーから戻った騎士ではないらしく、俺たちの事を知らないようだ。


「はっ!クフモより至急のお知らせです!現在、クフモを辺境伯助勢の軍勢が包囲しており、一部がこちらへも向かっております!」


 何を言ってるのかわからなかった。そんなものは既に片付いた話ではなかったのか?


「何を言っている。騒乱の件はすでに決着し、裁定も下っているではないか。何故今更そのような事になるのだ?」


 ヘンナが俺にかわってそう詰問している。


「はっ。実は。我々はカヤーニさまがご帰還されるまで御裁定の話を知りませんでした。包囲軍もその話を全く関知しておらず、カヤーニさまと争いになっているのでございます」


 何という事だろうか、あれから半年近く経つというのに情報が回っていない?いや、あり得ない。ではなぜだ?兄が二枚舌を使ったのだろうか?


「おい、嬢ちゃん、お前の兄貴、信用できるのか?春に来た奴と同じじゃないだろうな」


 ルヤンペもそう言ってくる。


「いや、それは無いだろう。大臣たちが居並ぶ中で辺境領分割と大公への裁定の話をしていた。そして、ヘンナだ。ヘンナは王国でも大きな力を持つアホカス家の娘だ。それを俺の下へ送り出しておいてこのような事をすればどうなるか、それが分からないほど愚かではない」


 筈だ。


 そうだ、考えても見ろ。兄が俺を騙したとすれば、常識的に考えてヘンナは処刑、森の民、山の民によるカルヤラ侵攻が起きてもおかしくはない。あのナントカ船がカルヤラの港へ乗り込めばどうなるか、それがわからぬ兄ではあるまい。そうであって欲しい。


「縁辺公、ここはムホスまで戻って様子を見るのが得策と思われますが?」


 ここまで案内してきた騎士もそう言う。


 もちろん、彼は分かっているはずだ。ここには20人もの山の民の戦士が居る。それはつまり、500人程度の騎士団や騎兵が攻めてきたところで、返り討ちにできる。


「こちらへ向かっている軍勢はどのくらいだ?」


 俺は伝令に来た騎士に問いただす。


「およそ千ほどかと!」


 それでは守り切れるものではないな。


「分かった」


 ここは一旦帰るしかないのだろう。


「まあ、まて、たかが千だろう?そう急がずとも良いだろう。もう日が暮れる。今日はここの宿に泊まろうや」


 ルヤンペは何とも暢気な事を言う。


「だが、ここへ軍勢が来ているんだぞ?」


 そういうと、ルヤンペはニヤニヤしている。


「ここからヒョウゲまでどのくらいある?あの木偶の坊なら一日で来ちまうだろうな」


 木偶の坊、つまりホッコか。案外近いな。しかも、カルヤラの兵ではまるで分からない道を辿るんだから尚更か。


「わかった。ここで泊まろう」


 そういうと、伝令が慌てている。案内の騎士も驚いている。


「心配ない。山の戦士が20人もいる。ここの北にある森の民の郷からも援軍が来るかもしれん。そうなれば千の兵など恐れる事は無い」


 縁辺侵攻に参加していた案内の騎士はホッコとその取り巻きを知っているので青い顔をしている。


「まさか、あの・・・」


 そう言っている。それとは対照的に、伝令は呆れている様だ。


「公がそうおっしゃるのであれば、私も護衛として公をお守りいたします」


 キリっとヘンナがそう宣言する。


 長い夜の始まりだった。



 

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