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55・どうやら新たな燃料を発見したらしい

 湖畔の宿場で朝を迎えた。しかし、ここで困ったことが起きる。


「ここに水門を付けるって話が出てるらしいぞ」


「水門ってなんだよ、湖の水を抜くのか?」


「いや、どうやら川に水門付けて船を行き来できるようにするって話だ」


「水門付けたら船が川登るのか?そんな話があるか?」


「なんでも、新しい領主が魔法だか手品で水門で船を上げるらしいぞ」


 などと、よく分からない話が街角で行われていた。


 俺はナンションナーの感覚で町中をブラブラしていたのだが、そこで聞こえてきたのがそんな話だったのだが、確かに、いきなり閘門式運河を理解しろというのが間違いだとは思った。


「だがよ、それで積み荷の載せ替えが無くなったら俺たちゃどうなるんだ?お前の飯屋もそうだろ?」


 屯している連中の話の雲行きに、その場を去ろうとした足が止まる。


「そうだな。船がここで上り下りしちまうとなると、荷運びの仕事も飯屋の仕事も無くなるだろうな。宿屋だってだろ」


 そんな話だった。かなり深刻なようだ。確かに、ここに閘門式運河が出来てしまえば、荷物の載せ換えはしなくて良くなる。

 荷運び人足は要らなくなるだろう。

 それに付随して成り立っているであろう飯屋も成り立たなくなる。宿屋だって必要なくなるのかもしれない。


 運河の開通で流通は良くなる、そのために仕事がなくなるのは果たして良いのかどうか。


 俺はそんなことを考えながら、その場を後にした。


「わっはっはった。嬢ちゃん。流石にお前は心配性だな」


 ルヤンペにその話をしたら盛大に笑われた。そんなにおかしい事だろうか?


「あれだけ思い付く賢い嬢ちゃんがこんなに悩むとはな。よく考えてみな?」


 そう言って、昨日の話を再度聞いたのだが、やはり半分くらいは分からない。


「・・・そう言うこった。だからな、人足は水門係や船押し役としての仕事がある。それにだ。この町の人数からしたら、設けられる水門は4つ程度だろうよ。水門の開け閉めは俺たち山の民でもかなりの力仕事だ。草原の連中じゃあ、一つの水門に10人は掛かりっきりだろうよ。船の数だけ開け閉めするとなりゃあ、水門一つに40人くらいは用意しなきゃ話にならんだろうな。そのくらいで交代しながらじゃなきゃあ続かねえぞ」


 そう言って笑った。


 なるほど。閘門式運河の閘門はかなり大掛かりな設備だから、蒸気も油圧もない今の状態ではすべてを人力でやるしかない。確かに人手は大量に必要になるな。


「それにだ、水門や側壁の強度なんかも考えると、船一艘が下の船溜まりから上の湖畔に上がるのに半日は掛かる。上りと下りの水路を一組ずつ揃えるだけでここの連中の仕事が出来上がるぞ。それ以上は無理だ。そうなりゃあ、今みたいに往来が少ない時期でも、客や水夫の休憩所が必要になる。上で獲れた食いモンを港に運ぶ忙しい時期にゃあ、今と変わらず順番待ちで一泊って事になるだろう。ここの仕事はほとんど変わりゃあしねぇよ」


 と、解説してくれた。それなら一安心だ。


 そんなことをしている間に船の準備ができたらしく、新たな屋形船に揺られて湖畔を進んでいく。まっすぐ湖の真ん中を突っ切らないのは水深のせいだ。オールで漕いでいる訳ではないので、竿が湖底につく浅い所しか進めない。


 そして、しばらく進むと湖はどんどん狭まって昨日のような川へと変化していった。そして、森と時折湿地が現れる、昨日とは少し違う景色に出会うことになった。


「この辺りは川がかなり入り組んでおりまして、冬の一時期を除いて、陸上に道を作ることが出来ません。幸い、川幅があって本流は大きな蛇行をしておりませんので、支障はございませんが・・」


「おい、あれはなんだ?」


 騎士の説明は未だ途中だったが、ルヤンペが叫び出した。その方角には湿地が茶色く変色し、なぜか煙が上がっている場所があった。


「ああ、この辺りは時折あるんですよ。秋のこの時期には夏に伸びた草が枯れて、時折そこに火が付くんです。だいたいが小さな島なので数日で火が消えてしまいます」


 そう説明してくれた。自然に下草を焼いているという事なんだろうが、少し怖い話だ。周りが湿地だから容易に山火事には至らないようだが。


「いや、燃えてるのは枯草だけじゃねぇぞ、土が燃えてやがる」


 ルヤンペは船から飛び降りんばかりにその光景を見ていたので、止まれそうなところで船を止めて、湿地の一つに上陸することになった。


「こいつはすげぇや」


 なぜかルヤンペは岸の土を掘り返してその泥を練って歓声を上げていた。何がしたいのかよく分からない。


「何をやってるんだ?」


 俺がそう言うと、ルヤンペが笑顔のまま振り向いた。


「嬢ちゃん、こいつはすげえぞ。燃やしても無いのに枯草や枯れ枝、落ち葉なんかが炭みたいになってやがる。いや、炭じゃねえな。泥なのに、燃える泥になってるといった方が良いか」


 燃える泥ってなんだ?よく分からない。


「まあ、なかなかわからねぇかも知れねえが、ここいらの湿地は枯草がそのまま泥になって、炭みたいになってんだ。まあ、あれだな。泥みたいな炭だ」


「どろすみ?」


 そう言うと、ルヤンペが泥をまじまじと見て


「嬢ちゃんが言うならそう名付けよう。こいつはドロスミだ」


 そう言ってルヤンペはいくらか泥を掘って、なぜかおもむろに石の上に塗りたくりだした。


「この石を乾かして、泥を集めたら、炭代わりの燃料になりそうだ。匂いが炭みたいだからな」


 と、なんとも野生なことをやっていた。もしかして、これって泥炭でいたんなのか?


 そんなことをしながら、今日の目的地へとすすんで行く。流石に毎度降りて確かめたりはしなかったが、多くの湿地状の中州では泥炭が形成されている様で、ルヤンペが騎士と何やら話をしては、騎士が驚いていた。


「山の民というのは博識ですなぁ~」


 騎士がそう驚いていたが、ルヤンペは博識というより、チートだと思うんだが。


 

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