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49・期せずして交易の話になった

 ヘンナを紹介し、話しは次へと進んだ。


 呼ばれたヘンナだが、兄の近くに席が用意され、座るように促されて戸惑っている。


「気にすることはない。お前は縁辺公夫人になるんだ、ここへ座ることが許される」


 兄がそう言い、意を決したように座った。


「さて、ウルホ。縁辺には鉄、炭、保存食とあるようだが、それらがカルヤラへ流れ込むと非常に困るぞ。鉄はまあ良い。炭は各所で作っているが、縁辺の炭はまるで別物だ。今のところ、かなり高価なものだから買い手も限られる。が、問題はこれだな」


 そう言って食べかけのフェンを巻き取ってかざす。


「食い物はいくら高いと言ってもたかが知れたモノ。こんなものが入って来てはカルヤラの農業に打撃があるのではないか?」


 なるほど、どうやら兄は気が付いているらしい。


 縁辺の産物のうち、金属製品についてはカルヤラの鍛冶技術よりはるかに高度なため、そもそも相手になっていない。ただ、非常に高価なため、流通量は限られる。炭と言うか、コークスについてもそれは同様。ナンションナーではすでに木炭とコークスは用途ごとに使い分けられる程度には普及しているが、カルヤラでは流入量が少なく、用途もあまり考えられていない。

 高火力が必要な料理や鍛冶には必要なのだが、そのことさえ広まってはいない。そもそも、この時代の船で運べる量を考えると需要に供給が追い付かないので高止まりは必須。これまで通り木炭で十分賄えることを考えると、よほど高度な鍛冶が必要にならなければ現状維持で問題ないレベルと言って良い。



 が、フェンはそういう訳ではない。保存が利いて調理も楽になるのだから幾らでも需要はあり、価格も低下しやすい事だろう。


 そうなると、当然だが、パンムやンビセンの消費に打撃を与えることになる。それはアマムの生産に響くことになるのも至極当然だ。


「いえ、兄上が考えるほどの打撃はありませんよ。一般的な乾燥フェンであれば、カルヤラで作ることも可能です。製法もこちらで教えることも吝かではありません」


 それを聞いた兄が驚いている。


「良いのか?せっかくの交易品だぞ?」


 まあ、それはそうなんだが、


「はい、交易品として重視することに変わりはありませんが、それは縁辺でなければできないモノに限っての事です。それに、フェンを乾燥させようと思えば、我々の製法では油が必要となるのですが、それは獣脂や魚油ではなく、植物油が必要となります。その生産が可能なのは今のところ縁辺だけです。フェンを作るためには縁辺から植物油を買わなければならないでしょう」


 他の製法もあるかも知れんが、俺が知っているのはゴマ油を塗って乾かすやり方だ。そのためにはナンションナー製の油が必須。搾油と濾過に必要な器具があるのはナンションナーだけだ。


「ほう。どうやっても利益が出るわけか」


 兄は警戒して俺を見る。


「現在はそうですが、カヤーニにも植物油の製造は行わせるつもりです。縁辺の生産量だけでは到底、カルヤラの要望を満たせそうにありませんから。そして、機械自身はカルヤラへの売却も可能です」


 そう言うと、兄は驚いた顔をした。きっと、独占すると思ったのだろう。


「植物油自体は食用の植物の種や実から絞れます。カルヤラでも一部行われていますが、機械の効率が悪く、綺麗な油として精製できていないので食用には向いていません。あくまで灯火油として使う程度です。同じ植物からより多くの油を搾り、さらに食用に出来るほどきれいに濾過することが出来ます」



「ただし、カルヤラで出来るのはこちらのフェンです。こちらのコシの強いフェンを作るには、日中も氷が張るほど冷たい環境で数日間乾す必要があるので、縁辺でないと作れません。ただ、作るにも材料が無ければいけないので、カルヤラへ販売するには、カルヤラから材料を調達する必要が生じるものと思います」


 ここまで説明すると、兄がニヤニヤしだした。


「なるほどな。これは確かに売れる。そうか、これを食うにはより食糧を増産し、縁辺へと渡して加工させる必要があるのか。巧く考えたもんだ」


 兄はそう言って俺を見た。


「フェンだけではありませんよ。この肉、これは森の民の作った燻し肉や腸詰です。こうした加工品もカルヤラでの需要が大きくなると思いますよ?」


 俺がそう言うと、兄も頷く。そして、取り分けられた料理を食べたヘンナが目を丸くしている。


「おいしい」


 はじめてヘンナの声を聞いたが、普通に女性だった。


「この燻し肉や腸詰についても、辺境での生産も可能なはずです」


 俺がケッコナを見る。


「我らは森のある所なら特に問題はない。辺境領には我らの生活環境も十分整っている。人を出して燻し肉や腸詰を作ることももちろん可能だ」


 ケッコナもこういう所向けの声と話し方でそう答える。


「という事なので、辺境へカルヤラから家畜を持ってきていただければ、肉類へ加工することも可能になります」


 兄が腕を組んで少し考えている。


「なるほどな。よく考えているな。分かった。縁辺、そして、お前に譲る辺境との交易は我々にも大きな利がありそうだ」


 兄がそう頷く。兄は既にすべての皿を平らげている。


「さて、この後だが、ウルホとその二人は一部屋で良いな?部屋を用意しよう。式場が整うまで自由に使うと良い。ヘンナ、侯爵へ使者を出した。期日までに準備をせよ」


 兄はそう言うと立ち去っていく。


 やれやれ、ただ食事を振舞うだけだったはずが色々大変なことになりそうだ。


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