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47・兄にフェンを食べてもらうことになった

 俺が形式的な挨拶を済ませると、早速兄が質問してきた。


「ウルホ、アウリに攻められたというのに堂々とカルヤラに乗り込んでくるとは、肝が据わっているな。それとも・・・」


 兄がイアンバヌとケッコナを見る。


「山の民、ガイナンと森の民、ケッコナン。双方の娘を従えてやって来るというのは、王宮を引渡せとでも言いに来たか?」


 特に嫌味そうな顔はしていないが、居並ぶ側近たちは僅かに動揺している様だ。


 どうしたら良いかよく分からないが、とりあえず微笑んでみる。そして、そんなことは無いと、伝えておく。


「いえ、わずか一年前に反乱を起こしたその首謀者がそのような戯言を言ったりは致しません。私は縁辺で皆と畑を耕している方が性に合っております」


 兄は特に表情を変えずに俺の言葉を聞いていた。


「あのどうしようもない奴が畑を耕すか。人は変われば変わるモノだな。だが、お前が連れているのはガイナンとケッコナンの娘ではないか?その様なものを侍らせておいて、縁辺だけで満足できるのか?」


 さらに追及してくる。


「陛下もご承知の様に、縁辺では新たな鍛冶工房を立ち上げております。東方の民との交易、そして、カルヤラとの交易が行えるのであれば、領土を欲しいとは思いません。皆が暮らしていける畑さえあれば良いのです」


 そう言うと、なぜかため息をついている。


「アウリとは随分と違うな。そうだ、先の商人が知らせたであろうが、貴族もパンを手で食べる様に法を改めたぞ。アウリや一部貴族が反発しておったがな。お前が食っていたンビセンもなかなかに旨かったぞ」


 そう言うので反応してしまった。


「そうですか、それは良かった。ンビセンはアマムとピヤパで風味は違えど、同じように作れるのですが、パンムはピヤパの粉では手のひら程度のモノしか作れません。なので、油で揚げる新しい食べ方を考案しております。いかがですか?あと、山の民の食べ物であるフェンというモノを使い、カルヤラでも食べやすい料理も作ってみました」


 うれしくなったので、そうまくしたてる。すると、兄が笑った。


「なるほどな。お前にとっては権力よりも食い気か」


 そういうと、側近に何事かを言った。


 すると、側近の一人が俺のところに書類を持ってくる。この人は宰相だったか。そんな役職だったと思う。


「それは辺境北部を縁辺に編入する旨を記した勅書だ。お前の所に降ったカヤーニの所領も入っている」


 宰相によって読み上げられたモノに兄がそう付け加えてくる。


「では、大公はどのような処罰を?」


 長兄がどうなったのか、俺の所には何も入ってきていない。


「アウリは大公の座を幼い息子に譲り、今は王都で隠居中だ。本来ならば一族郎党処罰の対象だろうが、相手が反乱の首謀者であったお前ではそうもいかん。一応、アウリは我が支援者だったからな。お前に娘が出来たなら、辺境へ嫁がせると良い」


 兄はそう言う。つまり、辺境をすべて俺が手に入れろと言いたいのだろう。しかし、無駄に領地を拡げても統治に困るだけで俺としては旨味が無い。


「カヤーニの所領は・・・クフモ・・・、アマムの栽培も出来る土地ですね。これ以上の物は要りません。カヤーニを所領に還し、アマムを作らせるだけで私は満足です」


 なぜか側近たちは驚愕した目をしていた。


「本当に欲がない奴だ。それならば、お前には山の民、森の民がカルヤラへ侵攻して来ぬよう、防壁となってもらうが、良いな?」


 今度はイアンバヌとケッコナが固まる。


「防壁・・・にはなれません。すでに山の民を妻に迎え、森の民からも妻を迎えることになりますので。・・・カルヤラと両者を取り持つことなら出来るかもしれませんが」


 それを聞いた兄が感心している。イアンバヌも俺を見ている。ケッコナも驚いている様だ。


「なるほどな。縁辺は鉄の交易を行う拠点としてその昔、開かれたところだった。山の民が独自に東西の交易を行う様になって廃れた街だったが、お前はそこをわずか一年で見事に復興した。しかも、アウリがまるで懐柔も支配も出来なかった森の民をあっという間に懐柔してしまった。お前がそう言うのなら任せよう。以前の約束もある事だしな」


 そうして、謁見の終了が告げられた。


「ウルホ、お前の言っていた食い物は持ってきているんだろう?俺にも食わせろ」


 謁見が終わり、退出しようとしたときに兄がそう言った。


「分かりました。では、餐の間で準備をしております」


 そう言うと、兄は笑った。


「分かっているな」


 そう一言付け加えた。兄が何を察したのか分からない。まあ、餐の間とは、王家の家族や係累のみが食事を行う場所だ。来賓を招く場所ではない。兄も他人の目を気にせず羽を伸ばしたかったんだろうな。


「ウルホ、さんのまとはなんだ?」


 イアンバヌが聞いて来たので、王の係累が食事する場所だと説明した。すると、なぜか驚いている。


「まさか、ウルホがこんな交渉上手だったなんて」


 そう言われたが、何が交渉上手なのか俺には分からなかった。



 俺は持ってきたフェンを厨房へと持って行き、料理人たちにレシピを示して、パスタっぽい料理を作って貰った。元々はカヤーニたちが喜びそうな料理として考えたモノだった。


 当然ながら、料理人も俺の事は知っているが、わずか一年でこうも変わるとは、と、何やら戸惑っている様だった。


「ウルホ様、これで如何でしょうか」


 料理人がオイル炒めを持ってくる。


「このくらいで良い。これと茹でたフェンを和えてくれ」


 持ってきた小皿を味見してそう答える。


「ウルホ様、ソースはこちらでよろしいでしょうか」


 別の料理人が持ってきたものを味見する。


「これで良い。そっちの色が濃いフェンが茹で上がったら掛けてくれ」


 持ってきたのは、丼で食うタイプの麺類ではなく、パスタの様に皿で食えるタイプのモノ。一緒に持ってきた燻製肉と野菜をいためたモノで一品。もう一つは魚醤っぽいものがナンションナーにあったので、それを使ってピッピを冷麺風にしてみたもの。


 あとはいつものようにカルヤラ料理を出してもらうことになった。


 しばらくして餐の間へと兄がやって来たと知らせが入ったので俺も向かう。


「お前は本当に変わったな。ところで、縁辺で式を挙げたのか?それとも山の民の街か?」


 いきなりそんなことを聞いて来た。


「いえ、まだです」


 俺がそう言うと呆れている。


「ああ、そうでした」


 俺は改めてイアンバヌとケッコナを兄に紹介した。


「山の民と森の民は縁者だとは聞いていたが、その娘を寄こすとは、山の民も考えたな。森の民の方は次代の妹か。相手が交渉上手なのか、お前が交渉上手なのか分らんな」


 兄がまた呆れている。


「王宮の神殿ならばラッピの神々も奉っている。数日待てば準備はしてやる。嫁が二人も増えるが、構わんだろう」


 最後にはそう言ってきた。


「では、そうさせていただきます」


 何か言い回しがおかしかったが、受け入れるしかないと思った。


 





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