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44・カルヤラからの使者が来た

 ピッピの栽培は初めてだが、非常に手間いらずの様だ。ピヤパよりも成長が早いため除草もあまり必要が無く、気が付いたら成長している。

 ならばいっそのことピッピで良いのではと思うだろうが、事はそう簡単ではない。なんせ、ピッピは森の民との交易品、大半が森の民への手に渡ることになる。その対価がナンションナーの安全なのだから文句は言えない。

 そうイアンバヌに言うと、ナンションナーの安全はピッピの対価ではなくホッコの個人的な理由というが、そんな訳は無いと思うよ?


 ただ、問題が無いわけではない。


 ナンションナーは良好な扇状地であるため、水はけがよく土も肥えている。しかも、魚肥もある。


 が、春の初めはところによって雪が残っていたりもするので、どうしても乾くのが遅い場所もある。

 そうしたところを開墾して播いたのだが、それがいけなかったらしく、発芽が疎らだった。流石に水はけがよくて多少の水分は発芽に良いだろうと思っていたのが甘かった。ピッピはそう言うのが苦手だったらしくて、畑が2枚ほど残念な状態になっている。


「あとは、花が咲くころに少し盛り土をしてやれば実りがよくなります」


 と、農業指導を兼ねる森の民が教えてくれた。


 今更の話だが、除草に使う手押し式の中耕機は前へ押すのだが、盛り土用の手押し機は引張る形になっている。ガイナンで使われている溝切り用のヒトリビキを改造して作った人力犂を両反転にしたモノだ。


 だが、前世、外国の家庭菜園用の器具の動画宣伝をネットで見た時には、押していた。中耕用や菜園の土づくり用にいくつかの種類が紹介されていたのだが、すべて前方に大型車輪を付けて、押して使う仕様だった。

 日本ではどうだろう。と言っても水田の除草に使うこの世界で再現したアレと形がほぼ同じヒトリビキくらいしか知らない。と言うか、日本にあるのかな?俺の感覚としては、ヒトリビキ同様に引っ張った方が効率がよく思うんだが。


 そんなこともあって、盛り土用の器具は引張る方法にした。


 これ、ミケエムシ製でなく、ルヤンベ製ですらない。初のナンガデッキョンナー工房の製品だ。品質はミケエムシやルヤンペには及ばないが、細部の修正を加えながら十分実用に耐えるモノが量産できるようになっている。


 播種機と除草機と盛り土機をセットにして売れるんじゃないかと考えている。


 ガイナンカだと自分たちで作るかもしれないが、ルヤンペが言うには作らない可能性の方が高いらしい。


「種まきを一人で出来る様になれば人が余る。草取りを一人で出来る様になってもだ。自分たちで作ると色々責任を背負い込むことになるだろう?だが、買ってくるならそうでもない。ましてや余った連中が新たに開墾して畑を拡げた分の作物がナンションナーに売れるとしたらどうだ?」


 なるほど。効率化のダシに使われるのか。なんだかあまりいい気はしないが。


「まあ、そう言うな、嬢ちゃん。食い物がよそから手に入るなら、その分ナンションナーの人手を畑仕事以外に振り向けることが出来るじゃないか。ガイナンやガイニは他所から食い物が大量に入らないから幾ら鍛冶技術があっても鍛冶師の数は限られちまうだろ?ここなら、余力を鍛冶に向けたり、森の民の食料生産に回せる。下手したら昔以上にデカくなるぞ、ここは」



 なるほどな。ここで鍛冶をやろうと思えば、やはり人員確保に畑に関わる人手を少なくする必要がある。そして、同じ山の民といっても、ガイナンやガイニは伝統的な鍛冶を中心にした生活だが、東の民は山を下りた部族なので、鍛冶以外の仕事へと移って行っているという。

 農機具や武器は消耗品だから、必ず修理が必要になる。鍬の刃が摩耗したり、剣が切れ味悪くなったからと言って捨てたりはしない訳だ。

 東ではそうした修理がメインで、一から作るような鍛冶師は少ないという。そりゃあ、高品質的のものが容易にガイナンから入って来るのに、わざわざ対抗しても、素材入手で費用がかさんで太刀打ちできないという。ナンションナーで東の鍛冶師でも扱える鉄を生産するのは、彼らの実情に合った武器や農具を作れるようにするためだという。

 なので、普遍的に使える製品ならば、十分に売れるという。


「あとは、嬢ちゃんの故郷だな。兄王がどう出て来るかだ。本音を言えば、嬢ちゃんが草原を治めてくれれば、俺たちも安泰なんだがな。そううまくはいかんだろう」


 そんな事を言って笑っていた。


 改革派と言われる次兄が長兄ほどのバカとは思えない。それに、俺自身、カルヤラを治めようとか言う野心はない。ここで皆と一緒に畑仕事や乾麺作りをしている方が性に合っているんだがな。



 そんな話をしていると、カルヤラから使者が来た。長兄ではなく、王からだ。春は長兄が攻めてきたことで交易船も近づかなかったが、ようやく交易船がやって来た。昨年のあの商人だった。


「お久しぶりです。縁辺公」


 そう言って挨拶にやってきたので、兄からの手紙をまずは置いておいて、新型農業セットとして、播種機、除草機、盛り土機のセットを見せた。

 当然だが、種まき皿を交換するだけで複数の作物の種蒔きが可能な事は、前世の使用のアイデアをそのまま採用しているので間違いない。アマムもピヤパもピッピも豆類も可能だ。流石にアピオは無理だが。


 少し早くはあったが、コンコの種蒔きが出来そうだったので、実際に見せると商人も乗り気だった。


「あちらのポニーが曳いている農具も便利そうですが」


 確かにあれは便利だ。種まきや苗を植える土壌はアレできめ細かな土にすることで発育が良い。しかし、


「アレはガイナンの鉄を使わなければ作れない。ナンガデッキョンナーの鍛冶師だけで作るにはまだ足りないものがあるから販売は無理だろう。ここで使う分は石炭との交換で購入できるのだが、カルヤラで石炭はいくらするんだ?」


 そう聞いてみると、コークスの値段がとんでもなかった。売れるという前提の話だが、船に満載して帰れば、商人自身だけでなく、船員も数年遊んで暮らせる額にはなるという。


「そうすると、コレ一台で家が建つな。買い手はあるか?」


 商人は首を横に振った。やはり無理があるらしい。

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