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41・どうやら攻められているらしい

 夏獲りのピッピを播き、ピヤパの種蒔きも終わって何とか一息つけると思っていたら、ケッコナが慌てたように俺のところにやって来た。

 そう言えば、一昨日からケッコナンへ帰っていたはずだ。


「ウルホ!大変だ!!」



 そう言ってやって来た彼女は何か喚いていたがよく分からなかった。


「ケッコナ、落ち着いてくれ。何言ってるのかわからない」


「だから、落ち着いてる場合じゃないの!ヒョウゲの先の道を騎馬が来てるんだって!!あそこだと森に入る事はないから私達には害が無いけど、海岸沿いだからひと月以内にこっち来るの!!」


 ヒョウゲがどこか分からない。そう言えば、辺境領から海岸沿いに道はあったが、相当に細くて騎馬が通れるとは信じられない。

 そもそも、馬で来るのがそんなに荒てるような話なんだろうか?


「伝令か何かが来ているのか?」


「そんな感じじゃないみたい、後ろに荷物持ちも大勢いるみたいだから、攻めてきてるのかもしれないんだよ!」


 イマイチ要領を得ない。こんなところを攻めて何になるのだろう?


「ウルホ分かってない!今のナンションナーは攻めるだけの価値があるんだよ!」


 ルヤンペやミケエムシが居ないと発展できないし、牛が居なければ農業も小規模にしかできない。冬が厳しいので馬を飼おうにも、飼い葉の維持が難しい。

 もし、馬を飼うとなると、農地の大半を牧草地にして飼い葉を育てなければならない様な本末転倒な土地なんだ。


「ここはカルヤラの手勢が来たからと言って今の街を維持するのは無理だと思うが?」


 それがそう言うと、ケッコナはため息をついた。


「ウルホみたいにそれが分かってる連中ばかりなら苦労はしないよ」


「それに、兄からこの地へ攻めてこないという約束も交わしている。書状もある」


 俺はそう言って屋敷に保管している書状を見せた。


「え?そんなものがあるの?でも、攻めてきてるのは大公の騎馬らしいよ?」


 まさか、長兄があの王位継承争いを知らないはずがない。確か、兄の側で兵を出していたはずだ。それならば、書状の件も知っていると思うのだが。


「見間違い・・、でなければ、二人の間に何かあったのかもしれない」


 なにせ、一枚岩とは言えない国だ。ただ、兄はそう言う造反を許すとは思えないが、俺の例がある。親族には甘いのかもしれない。


「そんなことは良いから、どうするの?迎え撃つの?ウルホが早く決めないと、ホッコが勝手に全滅させちゃうよ?」


 なにそれ、怖い。


 ホッコが勝手に全滅させては、もし万が一、使者であった場合に困る。


「わかった。一度会いに行ってみよう」


 ケッコナが驚いた顔をしていた。


「・・・会いに行くの?そう・・じゃあ、私も行くよ」


 そう言って出発準備をしているとイアンバヌにも話が伝わった。


「ウルホ!戦に行くんだって?なら、私が戦士を30人連れて行く。ホッコはどうせもう動いてるだろうからケッコナに任せるよ」


 喜々としてそんな事を言いながらコンパウンドボウの準備を始めた。いや、そんなつもりは無いんだがね?



 それがどう言おうとイアンバヌは完全に戦支度である。


「残る戦士は村の防衛だ!海から来る場合に備えて石弓も用意しておく様に!ガイナンにも連絡して必要なら300ほど応援を要請しておくこと」


 ちなみにだが、山の戦士350人居れば、ウゴルの騎兵を2000人は相手できるそうだ。歩兵なら5000人でも余裕だとか、ちょっと何言ってるのかわからなかった。


「ウルホ、心配ないよ、応援に来るのはガイナンカへ行ってウゴルと戦った事のある連中ばかりを見繕うはずだから、1万のカルヤラ騎兵だって蹴散らしてみせるよ」


 そこ、ドヤ顔して言うセリフじゃないと思う。


「それはホッコが撃ち漏らして残ってればだけど」


 ケッコナも何か言ってる。


 ただ確認に行くだけなのに、なんだか大公領を占領しに行くみたいな勢いになっている。話がおかしい。


 そんな異様な空気の中で、俺たちは森へと向かった。


「海岸へ行くんじゃないのか?」


 俺がそう言うと、どうやら近道があるらしく、大きな半島をショートカットするらしい。


「この道を行けば半島の付け根を一跨ぎだから10日もあれば反対側へ出られるよ」


 なるほど、大公が新道を作りたがる訳だ。


 そして、10日と言っていたが、俺の歩みを無視するかのように皆が急いだ。俺は山の戦士におんぶされている。


 結局、4日で横断してしまった。


「あれだな」


 どこをどう走ったのか知らないが、森を抜け、草原に出てしばらくすると目の前に馬の列が見えだした。


 更に近づくとそれは騎馬隊ではなく輜重隊だった。


「しまった。出るところを少し間違えたかな」



 ケッコナがそんなこと言っている。


「一応、彼らに聞いてみよう」


 俺はそう言うと輜重隊へと近づいて行った。


「誰だ!」


 輜重隊の警備兵から誰何の声が聞こえた。しかし、俺の顔を見たひとりが警備兵を制した。


「まあ待て、あれは見たことあるお貴族様だ」


 そう言ってニコニコこちらへ近づいて来た。


「生きてたのかい。まさか幽霊じゃないよな?」


 一体だれか分からない。


「まあ、顔を覚えてないのも仕方がない。ほら、砦の牢屋で飯係やってた連中がいただろう?」


 そう言われて何となくわかった。


「もしかして、パンムの話をした兵か?」


 何となくそんな気がした。


「おお!思い出したか?そうだ、おれだよ。あれからなぜか出世してな、いまじゃ、馬10頭を任された小隊長だぜ」


 そう言ってドヤ顔している。


「それは良かったな。もしかして、牢の貴族共に飯を出すようにしたのはお前たちだったのか?」


 そう言うと、わが意を得たりといった顔をする。


「そうそう、俺たちだよ。いくら敵とはいえ、飯も食わさねぇのは可哀そうじゃないか。それで、俺らが用意してやったんだ。それでも旨そうに食ってたのはお前ぐらいだったがな」


 どうやら、事情を知らないらしい。まさか、貴族が手で食ってはいけないと知らずに始めていたとはな。


「お前さんがあんまり可愛らしいんでな、他の奴らは正直どうでも良かったが、食い物出したと上に知られたら、怒られるどころか毎食出せと言われたのには驚いたぜ。戦のあとにはこの大出世だしな」


 そう言って笑っている。


 そりゃあ、出世もするだろうさ。貴族の精神ぶっ壊して兄の思惑を完全に成功させちまったんだから。


「ところで、どこに向かってるんだ?」


 俺は核心的な話を切り出した。


「今か?なんでも森の向こうにある縁辺とかいう所らしい。大公様の領地なのに好き勝手やってやがるらしいから、懲らしめるんだとさ」


 何だそりゃ


「それは変だな、縁辺は王様から直々に任命された領主が治めてる。王様との約束で王国から攻め込んだりしないという誓詞まであるそうだが?」


 そういうと、オッサンはかなり驚いていた。


「嘘だろ?それじゃあお前、大公様が逆賊になっちまうじゃねぇか。如何にか知らせる方法はないか?このままじゃ危ない。軍勢を率いて船で縁辺へ向かうそうだ」


 どうやらこのオッサンの頭はマトモだったらしい。


「それならここから森に入って進むと良い。縁辺へ先回りして戦を止めれば良いんじゃないか?」


 そう言うとさすがに怪訝な顔をした。


「おいおい、森は森の民の領域だ、迂闊に入ると生きて出られないんだぞ?」


 そう言って笑う。


「心配ない。ケッコナ、案内を付けてやってくれないか?」


 俺は後ろに居たケッコナにそう言う。するとオッサン、初めてケッコナの存在に気が付いたらしい。


「うお!すんげぇ美人じゃねえか。しかも、っておい、そいつ森の民じゃ・・・」


 オッサンが狼狽しだした。


「心配しなくていい。縁辺領主からの依頼だ、約束通り無事に案内するよ」


 ケッコナがそう言ってほほ笑んだ。


「信じて良いんだな?」


 オッサンは疑いながらそう言う。


「僕が保障する」


 俺がそう言うと、一応従ってくれるらしい。


「お前さんがそう言うなら・・・」


 そして、ケッコナの合図で現れた森の民に案内されるように俺たちが来た道を輜重隊が進んで行った。


「ウルホ、アイツら生かしておいて良いのか?」


 ケッコナが怖い顔でそう言う。


「心配ない。ナンションナーまで無事に送り届けて欲しい」


「ウルホがそう言うなら、任せて」


 ケッコナが案内役の一人に指示を出して、輜重隊が森へと消えて行った。


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