38・冬が来たのでやることなくなった、そこで少し思い付いたことをやってみることにした
ホッコとケッコイはディスクハローにも驚いていた。
ホッコが何かと言ってくるが、あまり気にしておるのもアレなので、出来るだけケッコイに何とかしてもらっている。
ホッコはケッコイに頭が上がらないらしいからちょうど良い。
ただ、それ以外の面では完全に次世代のリーダーだった。
「ピッピをここで栽培してもらうのはありがたい。しかも、粉にして持って帰れるならば、保存もしやすいし、フェンにするのが容易だ。しかしだ、そうなるとケッコナンからは何を持ってくればいいんだ?俺で良いなら構わないが」
まあ、このように一言を多いんだが。
「牛を貸してもらう事で足りている気はするが、一度、ルヤンペを川の上流まで探索させてやってはもらえないか?何か優良な鉱物があれば、森の民からナンションナーが買うことも出来る」
交易を行うのだから、森の民から何か買わなければいけない。すべてこちらのモノを売りつけているだけでは交易にならないだろう。
ただ、これといって思い付く者が無いんだよな。
「ナンションナーには猟師が不足していて、魚ならよく食べているけど、肉を食べる機会が少ない気がする。熊はあんまりだけど、鹿とかイノシシとか、干し肉だけじゃなくて燻し肉なんかもあるんだから、それを買えば良いんじゃないかな」
俺が困っているとイアンバヌがそう提案した。
確かにそう言えばそうだ。山の民からすると、これまで山、特にまだ森が残る北部でとれるイノシシの干し肉が食卓に上っていたものが、ナンションナーでは戦士が自ら獲る以外にはわずかな人数の猟師しか居ない。
そのかわり、漁師はたくさん居るので魚は溢れるほど獲れて、魚肥にしているほどだ。
そう言えば、ケッコナンで食べた物の出汁って結構、動物系だった気がする。肉も旨かった。
「なるほど、燻し肉があるのか、干し肉だけでは飽きるし、そうだな、ナンションナーで塩づくりも出来るだろうから塩を送って、燻し肉を貰うのもありかもしれない」
イアンバヌが頷く。肉に飢えているらしい。
「なるほど。塩をこっちで融通してくれるのなら色々な肉が用意できるよ。作り方次第じゃ、イアンバヌをうならせる熊肉の燻しだって作れるから期待して」
ケッコイがそう自信ありげに言う。
なるほど、森の民にはこちらにはないものがありそうだ。
「干し肉や燻し肉を作るのもちょうどこれからだから、春にはいくつか持ってくるよ、フェンの出汁に出来るモノだってあるかも知れないしね」
それを聞いてイアンバヌが目を輝かせている。
そうだな、これから冬だから森でも常に獣が獲れる訳じゃなくなる。冬は多くが保存食で過ごす訳だから、これから本格的に雪が積もるくらいまでがそのタイミングか。
ただ、そう言えば、真冬に作るものがあったと思いだした。
「これから水が氷るくらい冷えるようになると、フェンを寒風に晒して乾燥させることが出来るかもしれないな。乾燥がうまく行ったら保存も利くから粉ではなく、フェンの状態で置いておいて、茹でたら簡単に食べられるようになるかもしれない。ガイナンでそう言うのはないのか?」
乾麺ならすでにできているかもしれないと思ってイアンバヌに聞いてみた。
「ガイナンやガイニではそんなものは作ってなかった。ガイナンカへ行った時も見ていないと思う」
新しい食べものに目が輝いているんだが。
「それがピッピでも出来るなら、いつでも食べられるね。ピッピの粉だけじゃ作るの難しいし、森でアピオを手に入れるのも難しいから、干し肉や燻し肉みたいに持ち歩けるならさらに良いね」
ケッコイとケッコナも目を輝かせてる。
そこに交じって俺に熱視線をおくるホッコが怖い。
「思い通りに出来れば、干し肉と一緒に持ち運べると思う。ンビセンほど嵩張らないし、出来る事も多くなるだろう。常に湯を沸かす必要がある以外は問題ない」
そもそも、大なり小なり湯を沸かさなければ干し肉も食えたもんじゃない。そのまま齧るんなら、お湯で戻して出汁を取って野菜か何かを放り込んでスープにした方が食べやすい。
そこにフェンを投入すれば、さらに良くなるかもしれないな。蕎麦っぽいアレが干し肉の出汁に合うかは分からないが、そばがきっぽいあのスープがおいしかったから問題ないだろう。
そんな話をしたのがひと月ほど前だった。
それから少ししてホッコとケッコイは帰って行き、牛便で来た牛がそのままナンションナで留まることになった。その便で燻し肉が数種類持ち込まれ、イアンバヌが喜んで食べていた。
燻し肉、多分ハムなんだろうと思ったら、ハムだけでなく、ソーセージもその範疇らしい。
ケッコナンでは牛しか見ていないが、地域によっては育てた木の実を飼育している家畜の飼料として、晩秋にその家畜を解体して様々な保存食を作る中の一つが、腸を利用したソーセージらしい。
塩に付けるだけのモノや香草や野菜らしきものを混ぜたモノがあり、ケッコナに保存法やどれがどの程度持つかを聞きながら片付けや消費をして行った。
「これおいしい」
イアンバヌは食う事に夢中だった。ただ、戦士としての鍛錬を毎日やっているからぶくぶく太るという事はない。
そして、雪が降りだす頃になると、お待ちかねの乾麺づくりに挑戦することになったが、何分、誰も作った事が無い。
まずは普通にフェンを作って茹でずに乾かすことにした。乾麺はこうやって作るはずだと思うのだが、アピオとピッピの配合やそこにピヤパを混ぜたものなど、何種類も作って実験している。太さも変えている。見よう見まねで手延べそうめんみたいなこともやってみた。かなり失敗して千切れたが、やり方がよく分からないのだからこんなもんだろう。
そして、乾かして完成したっぽいものを茹でて食べてみたり、様々なことをやって、その中で、油で揚げてみたり、生の生地に油を塗ってみたり。塗る油を動物性と植物性を試してみたり。
流氷が海を埋め尽くす頃には、夜に外へ出してみた。あれだ、凍み豆腐みたいになるかと思ったんだ。
たしかにそんなものも出来上がった。凍らせたモノを更に乾燥させてみた。
そうやって複数の製法や太さ、配合の乾麺が出来上がったが、山の民、ナンションナーの住人、森の民で好みが分かれた。
山の民はアピオ主体の乾麺に人気が集まり、森の民はピッピを混ぜた乾麺がお気に入りで、ナンションナーの住民には魚介出汁に合うピヤパ風味がウケた。
だが、総じてみんなどれでも食っている。つか、保存食なのに春までもつかどうか分からないほど消費してるんだが、大丈夫なんだろうか?