34・アピオとフェン
ミケエムシたちがやって来た。
「何だこれは。なかなかよく出来てるじゃないか」
そう言って、ミケエムシは選別機を見て何やら考えている様だった。
「これはなかなか面白い。豆や種の選別が楽になるな」
すぐさま改良点まで指摘していた。さすが、農具を専門に行っている鍛冶師だけのことはある。ルヤンペは鉄の知識はあっても、こうした農業系の知識はないので俺の言うがままにしかモノが出来ない。
できればそのまま農機具談義をしたかったのだが、まずはアピオの収穫が待っている。
「程よく枯れてきているな。では、蔓を切って掘り返すぞ」
畑へと案内すると山の民の一人がそう言って自ら蔓を切り出した。
蔓を切って棚も解体していく。木から蔓を外すのは完全に枯れてからという事で、今はただ解体して一か所に集める作業を続けている。
それが終わると今度は畝を崩して芋ほりが開始される。
まずは鍬で畝を崩すグループとそれに続いて芋を掘り出すグループに分かれて作業が始まった。
ナンションナーでは見たことが無い芋なので、皆が作業よりも出てきた芋に興味を持っているのでなかなか作業ははかどらない。そう言う俺も作業よりも芋に興味が向いてしまっている一人だが。
「親芋から数珠つなぎに次々と芋が出て来るな」
掘るたびに様々な大きさの芋が現れるのでそちらにばかり興味が行ってしまう。
出てきた芋はある程度の大きさ毎に別々の箱へと仕分けされる。
ここで箱を載せた荷車を牛に曳かせることも考えたが、そこまでの怪力は必要ないのでポニーを使っている。
そこで思い付いた。
「そうだ、鍬で畝を崩すのではなく、刃の付いた輪を牛に曳かせれば・・」
ミケエムシに掘り取り機の構造をイラストにして説明した。
「ほう、これは楽が出来そうだが、今回はそれを必要とするほどではないな」
あっさり却下された。しかし、機械自体は後で作ってみるそうだ。
そんなわけで、ピヤパの脱穀と違い、俺も作業を黙々と続けること二日。芋ほりと選別が終わった。
「さて、芋を洗う場所はどこにあるんだ?」
そんなことを聞かれたが、そう言えば、そんな場所は用意していない。芋なんて掘ってそのまま保存して、必要な時に皮をむけば良いくらいの感覚だった。
「それでも間違っちゃいないが、泥付きだと土に埋めた時ほどじゃないが、勝手に芽が出て食えなくなるぞ?」
そんな風に言われてしまった。
そうそう、来年用の種イモは既に畑に埋めている。きちんと植えなおすのは来年の話だが、今年発芽していない芋も含めて、芋畑に放り込んで、埋めた位置に目印をしている。
さて、芋洗いか、場所が無いなと思ったが、完成したばかりの用水路を使うという話になった。
ただ、芋を洗うのは非常に面倒な作業だ。これがサツマイモの様にそこそこ大きければ良いのだが、大半が握りこぶしほどの大きさしかない。そのくせ数はあるのでなかなかに面倒だった。
そう言えば、芋洗い機なんてのがあった気がする。
「芋を洗うのに、こんな水車が使えないか?」
多角形の水車型で中にモノを入れることが出来る様にしたイラストを見せた。
「ここの用水路なら十分使えそうだな。作ってみようか」
そういって、大工を伴っていくつか製作することになった。
出来た水車に芋を投入して用水路に設置して回す。
それほど大きなものではないので山の民もナンションナーの手すきの大工も遊びの一環として楽しそうに作ってくれた。
しばらく回して中を見てみると、程よく土や汚れが取れた芋が出てきた。
「これは良いな。形を工夫したらガイナンでも使えそうだ」
ミケエムシも芋を見ながら感心していた。ナンションナーの皆は重労働が無くなってホッとしていた。
洗い終わった芋は冷暗所で保管することになる。が、早速フェン作りをやろうと言い出したものが居た。
誰がと言わなくても、ポニテが揺れているのを見ればわかる。
フェンは、要するに麺類な訳だが、芋だと片栗粉の様にでんぷんを取って、それを使うのかと思ったがそうではなかった。
「潰して水にさらして粉を取り出したりはしないのか?」
俺はそう聞いてみたが、そう言ったことはしないらしい。まあ、片栗粉を作ったとしても今のところ使い道が無い。仮に、ピヤパが小麦の様に麺やパンに向いている穀物ならば、片栗粉を混ぜて冷麺のように出来たかもしれないが・・・
と、そこであるものを思い出した。
「森の民からもらったピッピを挽いて、混ぜてみるとどうだろう?」
山の民は不思議そうにしていた。ケッコナも「何を言ってるんだ?」という顔だった。
分量がよく分からないのでまずは少量、ピッピを挽いて、ふるいで皮を取り除いてみた。
「それをアピオに混ぜるの?」
イアンバヌがどこか嫌そうな顔をしているが、まあ、分からなくはない。
予想通りの失敗だった。アピオとピッピが喧嘩した非常にろくでもないものが出来上がっただけに終わった。
「アピオを潰して水にさらして・・・」
不確かな記憶を基にでんぷん採取を行う事にした。そして、取れたでんぷん量はそんなに多くはない。
これならでんぷん取ってそれを使おうなんて無駄な事はしないなと改めて思ったほどだ。
うろ覚えだけにやり方はめちゃくちゃだった。それでも一応はでんぷんが取れたのでそれを乾燥させることにした。
やはり、周りは何やってるんだという顔をしている。
そして数日、
「これにピッピの粉を混ぜて練る」
分量も分からないので大部分は山の民に任せたが、ピヤパ、でんぷん、ピッピを使った麺が出来上がった。
「色が黒い」
イアンバヌがチェで持ち上げたフェンは確かに少々暗灰色系だ。ピッピがそんなだから仕方がない。それを魚介系の出汁で食べるという、別府冷麺に近いモノが何とか完成した。
「これは、おいしい。ピッピにこんな食べ方があったなんて」
ケッコナは驚いていた。ただ、出汁が魚介系であることがネックだろうか。ケッコナンでこれを作るのは難しいと悩んでいた。
ピッピ単体で麺に出来ないかとやってもらったが、さすがに無理があるらしい。繋ぎとしてでんぷんやピヤパを混ぜた方が良いとの事だった。
「私は、アピオのフェンがいいな」
イアンバヌさんにはどうやら食感がお気に召さないらしい。
そもそものアピオのフェンは、ゆでた芋を潰してそのまま練って作るので、芋自体の甘味が風味として引き立っている。その上にモチっとした麺に仕上がっている。ピッピを使うとどうしても噛み切りやすい「パサッとした」食感なので、この差が大きく好みを分けるんだろう。