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33・期せずして牛の餌が見つかった

 兄からの使者は剣と槍で満足して帰ってしまったので気にしないことにした。考えても仕方がない。


 さて、随分と居なかったので変わったことはというと、そろそろピヤパの脱穀のころ合いだという。


 ピヤパは地面に敷いた敷物の上で叩いて実を落とすのだが、それでは一緒に葉や茎が混ざってしまう。


 何を当たり前のことをと思うだろうが、脱穀は実を茎から落とすだけでは済まない。落とした実を混入した異物と分けて、食料として保管できるようにして初めて作業が完了する。


 そんなの当たり前だと思うだろう。そう、当たり前だ。しかし、脱穀、選別を同時に行えたらどうだろうか?


 前世ではそれこそ当たり前だった。機械がやってくれるのだから。しかし、ここはそんな便利な機械が無い異世界だ。

 脱穀から保管までには幾多の工程を必要とする。


 しかし、それを一挙に短縮する道具を開発した。そう、唐箕だ。


 しかも、ピヤパの性質を生かして、唐箕の漏斗部分に脱穀を行う叩き板を設置して、脱穀と選別を同時に行う様にした。


「おい、実が飛んでるぞ、もっと遅く回せ」


 風車のハンドルを回す人が早く回しすぎているらしい。何分はじめてなもので、どうにもうまくいかないらしい。

 そんな試行錯誤がありながらも、選別はある程度順調らしい。


 唐箕を使う事で実と葉や未熟クズなどは簡単に分けられているが、一部、茎や未熟な者が混ざっている。

 その程度はいつもの事らしいが、それも少し気に入らない。


「ルヤンペ、こんなものは作れないか?」


 確かに唐箕は優秀な道具だとは思う。現に、その伝来以来、300年にわたって基本的な構造を変えることなく使われているのだから、その構造はほぼ完成されたものと言って良いだろう。


 しかし、その機能は風力によって軽いものを飛ばすという単純な機能しかない。


 選別のやり方にはいくつか種類がある。


 唐箕の様に風力による選別。


 万石通しのような網目による選別。


 揺動板による揺動による選別。


 それぞれ個別のモノのように思われるが、コンバインにはこれらすべてが内蔵されている。


 ならば、それを作っちゃおうと考えた。


 しかし、言うは易し。そう簡単ではなかった。


 躯体は木製だから、大工にも参加してもらった。


 コンバインには存在しているこぎ胴は今は必要ない。


 唐箕に揺動版を設けて、茎や葉をあらかじめある程度排除してしまう構造を目指した。


 まず、脱穀板の下に網を設けて大きな茎や葉を排除する。


 そこから揺動板に落ちてきたものを振動によって、軽い葉や茎、未熟なクズと実にふるい分ける。


 そして、そこに風を吹き付けながら落下させることで、茎や葉を外へ、選別しそこなったモノも風によってさらに選別するという構造にした。


 こういうと複雑に思うが、そうでもない。見れば一目瞭然、唐箕の漏斗の下に斜めの網を設け、その下に揺動板があり、そこへと風車で風を送る。


 いたってシンプルな構造。網と波型鉄板のプレートを唐箕内に設置しただけ。プレートの固定をどうするか困ったが、可動部品なので吊り下げ式とすることで解決した。ただ、すぐに縄が切れて落っこちそうなので、薄い鉄板の支柱を付けてある。

 鉄板の支柱なんて、山の民の合金鋼じゃなきゃあっという間に疲労折損してしまうだろう代物だ。ルヤンペが居て本当に良かった。


 そんなことをやっていると一週間があっという間に過ぎ、脱穀もほぼ終わりかけていた。


 何とか試作機の試験は行えたが、考えたとおりにうまく選別出来てはいないので、試行錯誤が続いた。

 そうこうしながら、この新型選別機の開発には一人の山の民とナンションナーの弟子、数人の大工が担当となる事で、後は任せることにした。


 さて、問題は山と積まれた脱穀後の残骸の始末なのだが、これにも一つ案がある。


 今では使われなくなった藁用カッターだ。


 二枚の回転する歯と、固定の歯によって構成された、構造は至ってシンプルな機械だ。ただ、人力可動はかなり難しいが・・・


「こんな構造にすれば、アレを簡単に切り刻めるんだが」


 いくつかイラストを描いてルヤンペに見せるが、腕を組んで唸るばかりだ。


「確かに、これなら作れるが、普通のアレじゃダメか?」


 彼が視線を向けた先には、うどんやそば切りを行うようなまな板と包丁が合体したような道具があった。


「アレで悪くはない。だが、コレならもっと簡単に、短時間に仕事を終わらせることが出来る」


 そう、一束ごとにコットン。コットン切断していくよりは、機械に投入すれば勝手に切断してくれる方が断然早い。


「それは構造を見ればわかるが、誰が回すんだ?」


 それを言われたら返す言葉もない。アレは内燃機関による動力供給があって初めて成立する機械だから・・・


 ルヤンペもため息をついている。


「水車で回せねぇ事も無いが、水車は用水路のある所にしか作れないし、アレの動力となるにはそれ相応の力が居る。嬢ちゃんの発想は良いんだがな」


 そうフォローしてくれるが、確かに言われた通りだ。


 残骸の山を見ていると、牛がやって来た。


「あいつが食ってくれりゃあ、何もしなくて済むんじゃないか?」


 ルヤンペがそう言う。牛の世話をしている森の民が付いて来て残骸の束を手に取った。


「牛が食う様だ」


 牛に食わせているようだ。


「こりゃいいや、問題解決だな」


 ルヤンペはそう言って他の作業へと向かった。俺は牛に近づいて行った。


「それは牛の餌になるのか?」


 俺は森の民に声をかけた。


「おう、領主殿か。そろそろ草も枯れ始めてるので、草以外の餌を探してたんですが、これを食うようですよ。餌として食わせて構いませんか?」


 どうやら、ピヤパは牛の餌になるらしい。そろそろ刈り取るアピオのツルはどうかと思ったが、そちらはダメらしいとの話だ。ツルはカッターでは切れんし、仕方がないか。


「餌になるなら、保管小屋を用意しよう」


 そういえば、牛用の犂や馬鍬も作らないといけないが、そこまで手が回っていない。ミケエムシが来たら頼んでみよう。既存の農具はルヤンペよりも彼が詳しい。


 しかし、分からないものだ、処理に困っていたゴミが餌になるなんて。


 こうして、冬の間の牛の餌も部分的に解決した。あといくらか干し草を用意して、足らない分は牛便で森の民の郷から取り寄せるらしい。


 いっそ、この辺りにもドングリや栗の木なんかを植林してもよいかも知れない。ウマゲで食べたすいとんも悪くなかったしな。


 そんなことをやっていたら、とうとう、ミケエムシたちがやって来た。とうとうアピオの収穫とフェン作りだ。


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