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31・交渉はすんなり終わった。そして、ピッピの謎も解けた

 湖の畔を案内されて、割と大きな建物の前までやって来た。


「すでに長には連絡がいっている」


 ホッコがそう言って建物の中へと案内する。ナンションナーの俺の家より小さい。前世の古民家みたいなサイズだろうか。平屋の建物だ。


 そして、予想通りというか、屋敷の中へ入るのではなく、横へ廻って庭へ出た。すると、軒下に座っている人影が見えた。


「イアンバヌ、久しいな。母は元気にしているか?」


 軒下に座る人物がイアンバヌに声をかけた。俺とイアンバヌは庭先に立っている。


「お久しぶりです。おじいさま。母も元気におります」


 どうやら、森の民というのは跪いたりさせる習慣はないらしい。どうやら、身分の高いものが座り、低いものは立って応対するという事なのだろうと思う。


「それは何より。それで、今回は浜の件だったな。浜でも鍛冶を行うそうだが、今作っている堰のところまで木を伐りに来るのか?」


 あれ?なんでイアンバヌにきいてるんだろう。


「いえ、今行おうとしている鍛冶に使う燃料は木ではなく、燃える石を使います。これまでより遥かに木を切る量は減ります。堰を作っているのも、水車を回す動力としてです」


 イアンバヌもそのまま答えてる。俺は黙って立っている事しか出来そうにない。


「石か、それならガイニでもその様に言っていたのではなかったか?しかし、現実には我らの境を越えて木を切倒していたではないか」


「はい、ガイニで採れる石の質の問題で、以前決めたほど使える物が無かったのが原因です。ルヤンペの独断で迷惑を掛けたことは謝ります。しかし、今回は既に石の採掘と使用が軌道に乗った上での話ですので問題ありません」


 イアンバヌも堂々と、そして俺が何か言うより的確に話を進めている。俺、必要あったのかな?


「そうか、しかし、今回も主導しているのはルヤンペだというではないか」


「鍛冶工房の建設はそうですが、それらすべて、ここに居る縁辺領主の監督下で行っている事です。問題はありません」


 そうだっけ?問題ないと言ったら牛が居たような気が・・・


「その者、男というが、そうは見えんな。ホッコが男というのだから偽りは無かろうが」


 これはようやく俺の出番だろうか?


「私の夫です」


「そうか、お前がそう言うなら、今回は問題とせぬ。その者と共に今日の決め事を守れ」


 なんだろう。ものすごくあっさり終わってしまった。これで良いのか?



 そんなことを思ったのだが、それで良いらしい。



「自らの孫のいう事を疑うほどこの地は荒んでいないよ。ウルホの国は兄弟ですら争うみたいだけど、山の民や森の民はそんな欲深くない」


 屋敷を辞したあと、イアンバヌがそう言った。まあ、確かに、ルヤンペ見てたらそれは思った。


「私だって、ウルホでなければこんな簡単に話をまとめようとは思わなかったかもしれないよ?父が認めたウルホがどんな人物か、一目見て父の言う通りだと思ったから、嫁ぐ気になったし、おじいさまにも素直に村の現状を話したんだ」


 だそうだ。ウテレキとは一度しか会っていないが、えらく評価されてるな。


 長との交渉が長引く可能性を考慮して、今日はここで一泊する予定にしているので、しばらく周りを見て回った。

 その結果わかったのだが、ここでは本格的な農耕が行われている訳ではないようだ。一応、牛の放牧地と食料の栽培地は分けてはいるが、草を刈ってピッピという作物の種を播き、実れば収穫するというそんな活動しかしていないという。正直、縄文人の方が本格的な農耕民族じゃなのかというレベルだ。


 そして、気になっていた牛なのだが、牛小屋らしきものがどこにもないので、案内について来ていたケッコイに聞いてみたのだが、森に入ったところにいくつか大きめの横穴が掘ってあって、そこが牛の寝床らしい。ウマゲで牛が飼えないという理由がよく分かった。

 なんせ、牛が居る周辺は全て放牧地で、その奥の森に巣穴があるという。放牧地の周りに集落が点在し、集落の中にポツンと空き地があって、そこがピッピ畑になっている。

 そんなに多くない牛のために人間より多くの面積を割いているのを見ると、ウマゲで牛を飼うと人の住む場所が無くなる。


 なるほど、これじゃあ、とんでもないが、ウマゲで牛は飼えないな。


「ところで、そのピッピというのは主食ではなかったのか?」


 ケッコイに聞いてみた。


「確かに、長やホッコならば、望めば毎日でも食べられるだろうが、祝いの席や郷のマツリゴトでもなければ食べないな」


 だ、そうだ。作付面積から言えばそりゃあそうだろう。基本的に、ウマゲ同様、木の実や狩猟による肉類、目の前の湖での漁労が食料源だという。


「今日はイアンバヌとウルホが居るからピッピだな」


 ケッコイがそう言ってくれた。


 さて、俺たちが泊まる場所だが、当然ながら長の屋敷ではない。どうやらホッコの家だという。

 で、ホッコは何をやっているのかとイアンバヌに聞いてみた。というのも、ケッコイの話では要領を得なかったからだ。


「ナンションナーでいえば村長のようなことをやっているといえば一番近いんじゃないかな?」


 疑問形だが、なんとなくわかった。ケッコナン一族が国だとすれば、宰相兼外相みたいなものだと思う。ザックリいえば。形態が違うからケッコイによるケッコナンの制度に関する説明ではイマイチ要領を得なかったが、そう言う事だと思う。


 さて、夕食だ。


「これがピッピ?」


 俺の目の前にあるのは粥だった。なんかよく分からないが、鍋に水と一緒に放り込んで煮たのだから粥だろう。

 スプーン上のモノで掬って食べてみた。


「ピッピというのはソバに近い様だ。これなら挽いて粉にして練ればもっといろんなものが作れるんじゃないか?麺とか」


 ピッピを掬って見ながらそんな独り言を言っているのをイアンバヌに聞かれた。



「フェン?ケッコナンにフェンはないよ?帰ればちょうどアピオの収穫時だろうから、少し待てばフェンも食べられるけど・・・」


 ものすごい速度で反応したけど、話しはしりすぼみだった。


「いや、アピオのフェンではなく、このピッピを挽けば、粉になるから、それを練ればフェンみたいにできるかもしれないんだ」


「だったらやってみよう!」


 どんだけ麺類好きなんだよ、イアンバヌさん。


 そんなわけで、翌日、ピッピの実を見せてもらったが、やはりソバっぽい。潰すと殻と中身に分離した。そして、実を潰すと荒いが粉に出来た。舐めてみたが、やはりソバっぽい。


「ここでフェンや団子を作るほどの粉を挽くのは難しいが、ナンションナーに持ち帰ればピヤパの臼で粉に挽けるかもしれない」


 そう言うと、イアンバヌがいくらか分けてもらうと言い出した。


「それならば、来年栽培するための種も譲ってもらうべきだろう。ピッピの畑を拡げるには更なる労働力も要るが、今の村の人数では限界がある。牛を何頭か貸してもらえば畑も広げることが出来る」


 が、そこには思わぬ障害があった。


「牛を貸せ?牛は俺たちにしか躾ができないし、扱えないぞ?」


 ホッコがその様に言ってきた。


「ならば、扱う人と牛を貸してほしい。ナンションナーで育てたピッピをこちらに渡すという条件ではどうだ?」


 少し悩んでいるらしい。


「ホッコ、悩むことはない。ピッピが楽に手に入るんだ。しかも、フェンに出来るかもしれない」


 イアンバヌさん、きっとフェンは交渉材料になりませんよ?食べさせたら欲しがるにしても、まずはやってみなきゃ麺に出来るかどうかも分からないんだから。


「フェンはともかく。そうだな、牛を貸す対価として、ピッピを我らが受け取るというなら悪い話ではないか」



 その様に話がまとまって、3頭の牛とその牛使いとして4人を連れて帰ることになった。


「イアンバヌ、よろしく」


 そのうちの一人はものすごく美人でケッコイに似ている。どうやらケッコイの妹らしい。


「代表者としてケッコナを連れていけ」


 ホッコがそう言って他の3人と共に紹介してくれた。他の3人はまあ、ガタイの良いお兄さんやオッサンばかりだ。4人は帰りの護衛も兼ねるとの事だった。


 


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