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27・森の民の弓はさすがにどうかしてると思うんだ

 街道と言って良いのかどうかわからないが、山道程度には踏み固められた道を進んで行く。だが、全く人に会う事はなかった。


「誰も通っていないようだが、これは街道なのか?」


 そんな俺の疑問に答えたのはホッコだった。


「街道とは言っても、この道はオンゴロモチへ行くだけの道だからな。数日に一往復の荷便以外はたいして通ることは無い」


 そう言いながら、辺りを警戒している。いつもならば顔を近づけてくるはずなんだが。


 俺には何が居るのかよく分からなかった。どうやら三人とも辺りを警戒している。何があったんだろうか?


「どうしたんだ?」


 俺は隣のイアンバヌに聞いてみた。


「分からないか?何かがこちらを窺っている」


 真剣な顔でそう言うが、俺には全く分からなかった。


 警戒しながらも止まることはしない。そうして日が真上に来ただろうか。昨日は昼食を食べたが、今日はンビセンをかじりながらひたすら歩くことになった。


「まだ付いて来るのか?しつこい奴だ」


 ホッコが辺りを見ながらそう言う。俺には全く分からないが、何か気配を感じるんだろう。狼かな?


 それでもひたすら歩いた。そろそろ夕暮れだという頃になってようやくそいつは居なくなったらしい。


「どうする?このまま進むか、一度ここで休むか」


 ケッコイが俺に聞いてくる。他の三人はどちらでも良いらしい。


「このまま進むとしたら、どこまで行くんだ?」


「今の位置から考えると、今夜は夜通し歩いて、明日、ウマゲの郷だな。ここで休んで明日の朝発てば、どの道明日中にはウマゲには着ける」


 どうする?と言いたげに俺を見る。


「夜道は慣れていない。ここで休んで良いかつけられている?」

「そうしよう」


 ケッコイはそう言うと野宿の準備を始めた。ただ、今日は何かにつけられているのでテントではなく、ポンチョのような羽織ものだけで休むのだという。そして、下手に獣をおびき寄せないように火も使わないらしい。


「獣は火を恐れるんじゃないのか?」


 そう聞いてみたが、違うらしい。


「カルヤラではそう言われているのかもしれないが、少なくとも、この辺りの獣は火があるところへ寄って来る。火があるところには人が居て、食料があると知ってるからな。火が無ければ、狩人だと警戒して寄り難くなる」


 なるほど、それは初めて知った。


「いや、来てるのは一頭か二頭だ。おびき出した方が良いかもな」


 ホッコはあたりを見回してそう言う。


「何言ってるんだ?その一、二頭が危ないじゃないか」


 イアンバヌがそう反論するが、ホッコはそれを見て笑う。


「俺を誰だと思ってる?」


 そこ、ドヤ顔するとこか?


「ホッコ、それで良いのかい?」


 ケッコイは呆れながらそういう。


「その方が良い。こいつら、ここで始末しなきゃ、牛がやられかねん」


 ホッコは真剣な顔でケッコイにそう返す。


「よし、ウルホ。今晩は新鮮な肉が食えるぞ」


 俺にそう言って微笑むが、それ、男に向ける顔じゃない様な気がするぞ?


 俺がそんな心配をしている間にも準備が行われている。イアンバヌは俺から離れず警戒し、ホッコとケッコイが薪を拾ってきた。


 そして、昨日同様に干し肉が炊かれる。


「来たようだな」


 ホッコが静かに弓を手にした。しかし、目線は鍋から離していない。


「二頭だな。どちらをやる?」


 ケッコイも鍋を見ながらそう言う。俺にはどこに何が居るのかも分からないが、イアンバヌが顔を上げるなと小声で言ったからそれに従った。


 それから少しして俺にも気配が分かった。どうやら背後にいるらしい。


「ケッコイ、小株、そっちは任せた」


 ホッコはそう言うと立ち上がって振り向いた。


 少し離れたところにデカイ熊が居るのが見えた。


 ホッコが矢を放つ。


「え?」


 ホッコの放った矢が熊の後ろの木に刺さった。撃ち損じか?


 同時に動いたケッコイとイアンバヌは俺が気配を感じた後ろに向かって矢を放った。


 どうやらそれも熊だったようだ。小さなうめき声のようなものを聞いたがそのすぐ後には倒れる音がした。


「ホッコ、あんた・・・」


 ケッコイが振り向いて呆れている。


「うそ・・・」


 イアンバヌは驚いている。


 俺たちの視線の先には仁王立ちしたデカイ熊が居る。


「なあ、こっちが旨いと思うんだが、解体するのこっちで良いよな」


 ホッコは暢気にそんなことを言っている。おい、その熊、矢が刺さってないじゃないか。そんな無警戒で良いのかよ。


 俺が呆れている間にホッコはその仁王立ちの熊へと向かった。だが、熊が動く気配はない。どういう事?


「ウルホ、あの熊、心臓撃ち抜かれてるよ。矢が体貫通しちゃってるんだ。いくら森の民でも普通そんな事できやしないのに・・・」


 俺の事を察したイアンバヌがそう言う。しかし、そのイアンバヌも動けないでいた。そりゃあそうだろう。熊を撃ち抜いちゃうって、常識では考えられない不可思議現象だよ。


 そして、俺は振り返った。そして少し歩くと熊が見えた。矢が二本刺さっている。


「その短い方があたしの矢だ。心臓を狙った。場所は間違っていないが、心臓まで届いたかどうかだろう。ケッコイの矢は確実に心臓を射抜いてる」


 俺に付いて来たイアンバヌがそう言って俺を追い越し、自分の放った矢を抜く。


「良かった。私の矢も心臓には届いてる」


「山の民にしておくのがもったいない腕だな」


 ケッコイもこちらへやってきて自分の矢を引き抜いてイアンバヌにそう言う。


「でも、威力はケッコイに敵わない」


 イアンバヌがそう笑う。


 俺はイアンバヌの弓に興味を持った。


「ちょっと弓を借りて良いか?」


 何も言わずに弓を差し出され、受け取った。引いてみるとかなり力が必要だが、引けないことは無かった。


「あれ?かなり綺麗な引き方するね。カルヤラでは弓を習ってたのかな?」


 ケッコイが俺を見てそう言う。


「一応、王族だから」


 そう答えたが、実はカルヤラで弓など習っていない。俺は前世、武器に興味があったせいで高校の時に弓道をやっていた。今でも型だけなら何とかできる。


「でも、ウルホの引き方は弓とあってない」


 イアンバヌがそう言う。確かにその通り。今引いているのは短弓だ。かといって、ホッコやケッコイの弓は長弓とはいっても和弓とはまるで別物。2メートルの巨人だから引けるが、俺がやると弓が地面に着きかねない。


 イアンバヌの短弓も、ケッコイたちの長弓も、矢を番えるのは弓の中ほど、しかし、和弓は下三分の一の位置に番える。そうすることで2メートルを余裕で超える長弓なのに、チビな日本人でも引けるように作られている。

 ちなみに、試しにケッコイの弓を借りてみたが、何とか地面に着かなかったが、少ししか引けなかった。


「それだけ引ければ十分だ。引き方を知らなければこれを引くのは至難の業だからな」


 ケッコイはそう笑っていた。


「なあ、ウルホ。私の弓を撃ってみるか?」


 イアンバヌにそう言われて少しやってみることにした。


「久しぶりだから飛ばないかと思ったが、一応飛んだな」


 俺は15メートル先の木に当てることが出来て何とか安心した。一応、何とかなるらしい。


「なかなかやるもんだ。しかし、その撃ち方は見たことが無いな」


 ケッコイにそう言われてしまった。


「それは西方の射法だな。カルヤラでは西方弓術までやってるのか?アレは特殊な弓を使うらしいが」


 いつの間にやらホッコが来ていたようだ。


 ホッコによると西方には和弓のような弓を使う地方があるらしい。しかし、この辺りやウゴルではその様なものは使われていない。


 騎馬民族のウゴルは動物の腱や骨を使った弓を使っているという。森の民は数種類の木を組み合わせているという。ちなみに、イアンバヌの弓は一種類の木でできているらしい。


「遠くへ飛ぶように我流を混ぜたらこうなった」


 まさか弓道やってたとは言えないのでそう誤魔化すことにした。


「そうか。その技を小株に手取り腰取り教えてやれよ」


 手取り足取りだろう?何言ってんだろうか。いや、顔を見ればわかるよ。


「腰取り?確かに腰は重要そうだな」


 イアンバヌさん、ホッコはそういう意味で言ったんじゃないよ?

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