21・収穫ラッシュと問題発生
ピヤパの刈り取りが続いている。勢い込んで随分播いたからその分刈り取りも大変なことになっている。ピヤパを乾す木組みも造るのに忙しい。
ピヤパを刈り取りながら、不意にあるものが浮かんできた。
「そうか、エンジンなんかなくても刈り取りは出来るかもしれない」
コンコの播種機は当然ながら手押し式で動力は車輪の回転を利用している。播種機は溝を切ってそこに種を落として溝を埋めて土を抑えるという作業工程を一つの機械で行っている。動力を必要とするのは、種を落とすローラー部分のみ。だから、簡単に作れると思った。前世、手押し式は手記は存在していたし、出来ると思った。
しかし、バインダーはエンジンの動力によって動いている機械という発想が頭を離れなかったが、バリカン式の刈刃さえ動かせたら良いのならば、車輪の動力だけで可能かもしれない。
夕方、早速鍛冶師に相談してみた。
ところが、これが大変だった。バリカンが分からない。
「ばりかんとは何だ?」
いきなりそこで話が止まってしまったので、ジェスチャーと絵で何とか説明することに成功した。
「なるほどな、それは便利そうだ。それを使えば草刈りも出来るかもしれんな」
そう言って快く引き受けてくれた。
好都合というのか、次の日は雨で刈り取りは休みとなった。そこで、刈り取り機の制作に付き添ってあれこれ指示を出したりして、その日のうちにそれらしい機械を作ることに成功した。
「これは草を刈るには向かないな。綺麗に一列になったもの専用だ」
鍛冶師の山の民が何か納得いかない顔で腕を組んでいるが、俺にとっては大成功だった。ただ、俺の知るコンバインやバインダーと大きく違って、引き起こし部が存在しない。引き起こしの奥にある星形のホイール部分とバリカンのみで構成された人力駆動の機械になっている。大きめの車輪から動力を得て、車軸からホイールとバリカンを駆動させるかなりシンプルな構造をしている。
「あとは、これが本当に使えるかどうかだ」
カラで押す分には正常に動いているが、実際にピヤパを刈れるかどうかが問題だ。
次の日、実際に畑へ持ち出して刈ってみることになった。
「これは良いかもしれない」
押して進むだけでどんどん刈ることが出来た。なかなかに優れモノだった。そう思ったのもつかの間だった。
「刈ったは良いが、バラバラと刈り倒すと束ねるのが大変そうだな、これ」
結局、刈ることは出来てもそのまま刈り倒すのでは意味が無かった。最低限、一定量を塊にする装置が無いと使えないことが判明した。
実際、手刈りと比較してみたが、束ねるまでに二人は必要な事から、時間としては二人で手刈りするのと一人が刈って、もう一人が束ねるのとでは、大きな時間の差が無かった。
「これでは機械を作るほどの意味が無いな。もう少し改良すれば使えるかもしれないが」
こうして、鍛冶師必要な改良点について話をするだけで終わった。少し機械の実験用に残しておくピヤパを除いて、今日中に刈り終えそうだ。
それから二日かけて一応モノに出来た。機械に慣れればそれなりに早くなるかも知れないが、ベテラン農夫の作業速度と比べて格段に速いかと言われたら、そうとまでは言えそうになかった。
こうして天日乾しを15~20日ほど行うという。どのくらい乾すかは天候次第とのことで、10日ほどはそのままにすることになった。
そうこうするうちにアピオの葉も変色してきているのだが、収穫は何時なのだろうか?自然薯は完全に枯れた後だった気がするが、サツマイモやジャガイモはそうでもなかった気がしないでもない。どうなんだろう?
今、村に居るのは直接農業に携わっていない山の民ばかりなのだが、彼らによると、枯れた後で収穫するはずだという。それが正しければもう少し先の話なんだろう。
こうして何とかピヤパの刈り取りをおえて、一息つくことが出来た。
そんなちょうど暇な頃にルヤンペが話があるとやって来た。
「話とは何だ?」
俺の問いにどう話したものか少し考えてから口を開く。いつもと少し様子が違う。
「あ~、あれだ、カルヤラの船に盾を20枚ほど渡したそうだな」
たしか、そんなこともあったかもしれんが、今更どうしたのだろうか?
「作ってる俺たちからすればどうという事はない、普通の盾なんだがよ。嬢ちゃんたちの国じゃあ神盾とか呼ばれるそうじゃないか。ちょっとまずくねぇか?」
何かまずいのだろうか?確かに山の民の作ったものだから高価なのかもしれない。
「あの盾はそんなにすごいものなのか?」
ルヤンペの言わんとすることがイマイチ把握できない。
「盾自体は、戦斧と同程度の品だ。持ち手さえ頑丈ならばそう易々と戦斧で割るのも難しい。強度と湾曲でも居の連中の矢を弾くことも出来る。ウゴルの連中の攻撃にはビクともしないだろうな」
そう言って胸を張る。なるほど、相当にすごい品らしい。
「それのどこがまずいんだ?」
それだけ性能が高いならば何も問題ないように思うのだが、何を悩んでいるのだろう?
「嬢ちゃんにとってはなんてことは無いかもしれんが、カルヤラの連中がそうとは限らんだろう?と言っても分かんねぇか」
ルヤンペによると、あの盾の性能が高い事で、兄や貴族たちに俺がカルヤラを超える武力を手にしているという疑いを持たれているかもしれないという。
「仮にそうだとしても、こちらから攻めない限り、問題は無いだろう。そもそも、縁辺領を自由にしてよい、そして、兄は攻めてこないことも約束している」
ルヤンペはそれでも何やら唸っていた。
「嬢ちゃんはここをどうしたい?今更だが、どう考えているのか直接聞いておきたい」
本当に今更だと思う。
「僕はここが昔の様に栄えるならそれでよいと思うが、出来ればのんびり過ごせる場所であって欲しいと思う。東のガイナンカやカルヤラの様に争いを抱えた場所にはしたくない」
そう言うと、ルヤンペは大きく頷いていた。
「そうかそうか、嬢ちゃんの言う通りだな。わかった。だが、すべてが嬢ちゃんの思い通りにならんこともある」
「長!牛だ!牛が出た!」
山の民がそう叫びながら飛び込んできた。
「どこだ!どこに出やがった?」
ルヤンペも話を切り上げて牛の事を聞いている。
「取水口の辺りだ。そこから下ってくる様子はないらしい」
「取水口か、しかし、この辺りにまでケッコナンの奴らが来てるのか?」
ルヤンペがよく分からない話を始めた。そして、なぜか俺を見た。
「嬢ちゃん、悪いが確認取ってる余裕はないらしい。後は本人たちに任せるから、うまくやってくれ」
「おい!ガイナンへ走ってくれ!牛が出たことイアンバヌを寄こすように伝えてくれ」
何だかわからないうちにルヤンペはガイナンへの伝令を走らせた。牛ってなんだ?ただの牛じゃないのか?




