2・やはり、ダメだこいつら
どうしようか悩んでいる間に寝ていたらしい。不安でも寝られるんだなと素直に感心した。
外は明るいので朝あるいは昼なんだろう。起き上がってみると特に体に異常はないらしい。少し歩いてみるが大丈夫そうだ。
部屋には誰もいないので立派なドアを開けてみた。
外には衛兵らしき人物が居り、物音で振り向いた衛兵と目が合った。
「殿下、お加減はよろしいので?すぐに知らせてまいりますのでお待ちください」
そう言ってどこかへ行こうとする衛兵を呼び止める。
「呼んでこなくていい。皆はどこにいるのか?」
駆け足になろうかというところを呼び止められた衛兵が勢いよくこちらを向く。
「はっ、大会堂にて会議をなさっていると思われます」
「なら、僕をそこへ案内してほしい」
衛兵は一瞬躊躇したが、「ご案内いたします」と応じて、案内してくれることになった。
俺から衛兵を見るとそれなりに見上げるようになる。記憶が確かならすでに15歳だというのに、案外小さい体の様だ。これでどっかの天才みたいな頭脳があれば良いのだが、残念ながら良くて平凡、悪く言えばボンボンの頭脳しか持ち合わせていないらしい。王子の思考より、日本人の「俺」として思考した方がよほどマトモだ。お世辞にもコイツは出来がよろしくなさそうだ。仕方がないと言えばそれまでか。なにせ、王家のボンボンだもんな。
そんなことを思いながら衛兵の後に続く。大きな扉の前で止まって、彼がドアをノックし、俺の来訪を告げる。
ドアが開くと中には大勢のオッサンや爺さんがたむろしているのが見えた。あまり良い景色とは言えない。
見るからに、SF大作やら映画や小説にあるダメな貴族の集まりという情景がそこには広がっている。
「おお~、殿下!」
知らない爺さまが喜んでいる。他のオッサンや爺さんも同じような事を口々に叫んでいる。
「王子がお越しだ、まずはこれまでの経緯を説明して差し上げよう」
昨日の脂ぎったオッサンがやってきて勝手に場を仕切っている。勝手にとは言っても、事実上、最上位なのだから仕方がない。「僕」から見たらお祖父さんにあたる。つまり、母の父親だったりする。そりゃあ、権力持っていて当然だよ。
その説明によると、兄である第二王子が側室の子にもかかわらず、正室の子である「僕」を差し置いて王位に就こうとしているのだという。
そのことに怒ったお祖父さんをはじめとした主要な「中枢貴族」が第二王子を誅すべく立ち上がったのだとかなんとか。ところがどっこい、第二王子は文武に優れた人物で、新興貴族や官僚、騎士たちには人気があったとのこと。それを利用して誅罰に立ち上がったお祖父さんたちを奇襲し、今に至るらしい。
いやね、俺が冷静に考えれば、これは物語によくある「賊軍」のソレだよ。既得権やら旧弊にしがみついたような連中が新体制に反抗してる姿そのもの。
「王子もご承知のように、王はあなたが王位を継ぐことを望んでおられた。『人を率いる術を知れ』というのは、王位について、我らが補佐し、力を付けよという意味でしかありえない」
脂ぎったオッサンがそう言ってるが、客観的にそうは思えないんだよなぁ~、ボンボンで何も知らない王子に対して、人を率いるとはどういうことか学べって事で、第一王子が大公領を与えられたように、俺にも何らかの地位でまっとうな見識を養えって意味だと思うんだ。
「それがどうだ、『敵』は王を謀殺した挙句、自らが王位に就こうとしている!このような事はあってはならん!!」
王が死んだ。それは半年前の出来事だった。乗馬の途中、落馬したのだが、どうやら鐙が落ちたというのだ。そのことでバランスを崩して落馬、頭を打って数日後に死亡している。
しかも、タイミングが悪い事に、「僕」が15になる直前で、「僕」が15になるとともに、王位継承権の指名が行われる運びとなっていた。
まさに、謀殺があり得るタイミングではあったが、第二王子にその容疑をかけるのはおかしい。
兄の母親は正規の女官や貴族の令嬢ではなく、王が目にとめた平民の娘を周囲の反対を押し切って側室にしている。そんな経緯から守旧派貴族からは受けが悪い。仮に謀殺犯だとすれば、皆が喜々として追い落としに走るのは目に見えている。聡明な兄がそんなことも分からないなど、今の「俺」にしてみればあり得ない話だ。
かといって、お祖父さんがやった可能性も低い。死の当日まで側近にすら何も知らせていない。宰相ですら何も知らなかったのだから。
「卑劣な奇襲で砦を取り囲まれているが、外には多くの仲間がいる。事実が広まれば皆が我らに賛同し、眼前の『敵』を必ずや誅することが出来る。いましばらくの辛抱だ」
現実的に考えて、その様な事態はあり得ない。第三王子派はここに集まってしまった守旧派がほぼすべてだと言って良い。外に居るのは新しい風を望む新興貴族や改革派だ。
籠城とは支援があって初めて成り立つ。こんな支援も望めない籠城は座して死を待つに等しい。