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152・それでも話は前へ進んでいく

 疲れる晩餐の次の日、幼女と境界領振興策についての資料を取りまとめた。


 境界領ではすでにベルナの生産が大々的に神盾兵団により始まっている。それに加えて、マイシィやピッピを加えることで輪作を可能にする。


 これは連作障害や疫病による打撃を抑えるのに必要な事だ。一つに集中しては疫病や干ばつや冷害など、ある特定作物に大きな影響を及ぼす打撃で危機に瀕してしまう。


 違う作物を作付け時期や収穫時期をずらすことで打撃を分散し、飢饉に対処する事が出来る様になるだろう。


 さらに、ナンションナーでも導入している事だが、漁業も組み込んで、魚油の搾りかすや廃棄する骨を砕いて肥料として利用する。


 今はまだ行われていないそれらの方策を行う事で、農業生産の多角化によるリスク回避、収量確保、増収と言った結果が期待できるようになる。


 さらに、南部や新たに加わるヴィーブリやその周辺での放牧による毛糸生産。


 さて、昨日アホに言った乳製品についても、アホカスですでに行われている。


 幼女が懸念するように、乳製品については完全に競合してしまうのだが、保存性の低い物については、境界領が王都へ卸すには有利になる。


 アホカス領から王都までは運河でつながっているのだが、距離を考えれば境界領は半分でしかないし、ヴィーブリからは高速船なら半日の航海距離にしかならない。

 うまく行けばヴィーブリから生乳や保存期間の短い乳製品を王都に送る事も可能で、その点、どうしても運河という性質から3~5日を要するアホカス領では真似が出来ない。


 幼女とヘンナの間で色々と話が形になって行っている気がする。


 俺がやるのは生乳やチーズ、ヨーグルト類を運ぶ容器の提案程度しかない。


 高速船については、運河を用いて奥地から木材を搬出すればヴィーブリで造船業を興す事が出来るので、森の民と組めば東の造船所ほどではなくとも、境界領の流通を賄う程度のモノは可能だろう。


 結構、先の見通しが立ってきた。


 というか、あのアホは一体これまで何をしていた?


「縁辺公からすれば何もしていないように見えますが、旦那様も流通網については既に考えておりますよ。海路については、山の民頼みであったらしいですが」


 と、幼女が苦笑している。


 確かに、幼女が用意した資料によれば、境界領からベルナを王都に流通させるために商会や馬車組合などと話を行い、街道整備の具体案もある。


 馬車鉄道と言っていた話の基礎となる街道整備計画だ。


 ヴィーブリで製鉄が可能になる事から、境界領から王都までにあるいくつかの河川や谷には鉄橋を架けて画期的な交通量を実現するとの話だ。渡し舟や木橋ではなかなか実現が難しい。かといって、石橋では建造費がとんでもない事になる。



 アホはアホなりに自分の分野では秀でたモノを持ってはいるんだな。たぶん。


 などと話していた日の晩餐である。


「乳製品!」


 と、アホが喜々としている。


 そう言えば、決裁書類を随分精力的に始末していたと聞いたが、幼女との話し合いに姿を見せないので何をしているのかと思えば、昨日の俺の発言から何か思いついて厨房で喚いていたらしい。


「乳製品と聞いて、そう言えばと思いました。パスタですよ!パスタ!!」


 何言ってるのか分からないんだが。


「ええ、そうでしょう!カルヤラで麺類と言えば、公がひろめたモノがはじめてですからね!!」


 まあ、そうだな。もしかしたら刀削麺の仲間ならすでにあったかもしれんが、お目にかかった事がない。


 たいていは硬いか柔らかいかの違いはあるが、パンや薄く説いて焼いたクレープ状のパンムの類、ないしは硬く焼いた煎餅みたいなンビセン。


 さもなければ、麦粥あたりだろう。


 麺類は主に山の民の食べ物であったらしい。


「チネリ米を乾燥させるという公の発言から、パスタの存在を思い出しました!もちろん、チネリ米と似た製法で作るショートパスタです!!」


 またうるさいな。


「昨日の今日でマカロニは用意できていませんが、チーズを使ったオーブン焼き、そう!ラザニア!!」


 そう言ってお皿に乗せたモノが運ばれてきた。


 ナイフで切ってみるとチネリ米にチーズをかけて焼いたのだろう。確かに、日本でよく見かけたラザニアだ。


「そして、マカロニ代わりにワンタン麺やコインを模したナントカパスタを用いたグラタンです!」


 ナントカパスタってお前・・・・・・


 いや、俺も知らんけど。


 そういって、まだグツグツいってる器が運ばれてくる。


 なるほど、こいつなりに考えてはいるんだ。


 たしかに、チーズを使ったこの手の料理というのも、この国では珍しい。


 そもそも、チーズ自体が珍しい珍味扱いだから、利用法も多い訳ではなかったはずだ。


「なるほど、ヤギ乳を固めた保存食にこのような使い方があったとは、境界伯も公に劣らず、食に関心がおありなのですね」


 他人の事は言えないが、たしかに、前世の食に執着する部分が無いとは言わない。


「ところで公、食事中ではありますが、実は、ラガーの谷にカンチレバートラス橋を架けたいのですが、いえ、アーチ橋、アイアンブリッジなども良いのですが、支間長を考えると、カンチレバー構造にガーダーを延長した橋、フォース鉄橋やゲートブリッジみたいな奴が最適かと」


 と、よく分からない事を言いだした。ゲートブリッジ?そう言えば、何かでっかい橋の事だったか。よく分からんが。


「よくわからんが、鉄の橋を架けたいなら、山の民とよく相談してくれ。錆びさえ抑えられるなら、木の橋などより丈夫なのだろう?」


 まあ、その程度の事しか俺には分からん。どうも、アホの言うアイアンブリッジと言うのは1781年に完成し、21世紀にも現存しているという。フォース鉄橋と言う奴も1890年完成の鉄道橋で21世紀も現役なのだとか。そうか、しっかり管理すれば100年以上、場合によっては200年以上持つのか。

 ならば、作る価値はあるだろうな。


 なんだろう、この落差。


 自分の専門分野の話をするとマトモだ。


 俺にはよく分からない専門的な話をつらつら並べて、王都までの路線計画をレクチャーしてくる。


 よく分からない上に、ラザニアとグラタンが冷めては困るので、アホに促され、食べながら聞いていた。


「いつもこのように冷静な旦那様なら良いのですが」


 幼女のそんな呟きは聞かなかったことにした。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 突っ走るなぁ(笑)
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