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144・まさか、ソレが存在するのは驚きだった

 汎用型コンバイン、或いは普通型コンバインと呼ばれるモノは、箕やチリトリにカゴ状の回転体が取り付けられた刈り取り部(ヘッダー)でもって作物を茎や葉もろともかき込んで、脱穀部で子実部分を脱粒する構造になっている。


 というのが一般的な仕様なのだが、何事にも例外は存在している。


 中にはあまり普及していないが、ライスヘッダーなんてのも研究されている。


 そう、自脱型コンバインの刈り取り部を汎用型に取り付けているんだ。


 そう言うと、なんて意味の無い事をと思うかもしれない。


 しかし、稲は倒伏しやすい。特に日本では時期的にも品種的にもその傾向が強い訳で、そうした倒伏稲を効率的に刈り取るには、自脱型の刈り取り部というのは非常に有効な機構といえる。


 普通型はその様に作物に合わせて刈り取り部を交換することで作物に合った収穫方法が可能になる。


 その為、作物ごとに専用のヘッダーが開発されていたりするわけだが、特に多い専用ヘッダーがコーンヘッダ―だろう。


 コーンヘッダーの最大の特徴はその形。帽子状のお菓子は有名だと思うが、それに似た形状のものがいくつも取り付けられているので見分けがつきやすい。


 さらに、機構的にも他の作物用ヘッダーとは大きく異なり、スクリュー状の装置が帽子の下に隠れており、この機構によって、茎とトウモロコシが分離され、機械の上にはトウモロコシの実が残される構造になっている。


 と言っても、コンバインで収穫されるのは日本でおなじみの甘味種(スイートコーン)ではなく、実が硬い殻に覆われた硬粒種(フリント)馬歯種(デント)になる。


 日本でトウモロコシと言うとスイートコーンを想像するけれど、保存性や利便性で言えばあのような果物系では当然利用価値が低い。


 そもそも、アメリカ大陸で栽培されていたトウモロコシというのは硬粒種がメインであったという。


 その保存の利くトウモロコシをコメやムギの様に食べていた。


 そして、コロンブスによってヨーロッパへと伝わったというが、異説もあって、それ以前からアメリカ外でも栽培が行われていたとの研究が有ったり、イマイチ判然としない。


 日本では戦国時代に硬粒種が伝えられ、稲作に適さない地域で栽培が行われていたが、あくまで雑穀として用いられていたらしい。


 硬粒種が古くからの栽培種と言われ、同様に古いとされるのが爆裂種(ポップ)だという。


 そんな昔からポップコーンがあったのかと驚くのだが、アメリカ大陸では古くから存在したらしく、もしかするとマヤの階段ピラミッドやアステカの神殿の祭祀でポップコーンを食べていたかもしれない。


 アメリカで映画上映と共に普及し、戦後日本にその文化が入って来たという価値観から見ると、とても信じられない光景ではあるが、無かったとは言えない。


 おっと、話が逸れた。


 

 さて、そんなトウモロコシの歴史がある訳だが、収穫に機械が導入されたのは当然ながらコンバイン誕生と同じころの話になるだろう。


 当然ながら脱穀まで行われるようになるのはより後の話だが、トウモロコシを茎から分離するだけならば牛馬で曳く牽引式の収穫機械でも可能だ。


 茎を切って引き倒しながらトウモロコシを取り出していく。今でもトウモロコシ収穫機としてその機構がベースとなった機械を見ることは可能だ。


 柔軟な素材を用いてスイートコーンの機械収穫も行う事が出来る。


 当然ながら、ナンションナーのコンバインで脱穀が行えるかと言うと、無理だ。


 ナンションナーのコンバインはその基本構造が普通型と自称しながら自脱型の脱穀部をベースとしている。


 この世界のトウモロコシであるマイシィの脱穀を行うならば、より堅牢な脱穀部を製作する事から始めなければならないが、今のところはポニー用に新機構としてようやく開発を始めたばかりだ。


 そんな訳で、ポニー2頭曳きで稼働する収穫機を製作する事にした。


「で、この三角の下に螺旋を仕込んだコレでマイシィが収穫出来ると?」


 アホに言った通り、まずは構造を把握するために木製の模型を製作し、マイシィの利用や栽培のためにやって来ている山の民に見せてみた。


 当然ながら、あちらにはこのような機械は無いらしい。


「そんな事しなくても、引き倒しながら茎をコソゲば穂は取れるんだから、もっと簡単な機構で可能だぞ?」


 などと思っていたら、既に存在していたらしい。


 話を聞いてみると馬に曳かせて刈り倒しながらトウモロコシだけを収穫することが可能だという。


 なんだ、すでにあるのかとも思ったが、それはそれとしてよりスムーズに、高速に作業が可能であろうこの機構を棄てる必要も無いだろう。


「すでにあるのか。ならば、その作業速度を向上させるのがコレだ」


 そう自信ありげに断言してみたが、反応はイマイチだった。


「まあ、よく分からんが、実際に作ってみるのが良いんじゃないか?」


 励ますようにそう言われてしまったが、その余裕を収穫時期には粉々にしてやりたい。


 当然だが、収穫道具ばかり作っても仕方がない。


 土壌づくりなら今ある機械で十分だが、播種機には専用の播種ローラーを用意しなければならない。


 何のことは無い。これまでよりも一粒が大きく、そして間隔をあける様にヘコミの少ないローラーを用意すれば済むんだ。


「ところで、長。実は、面白いマイシィがあるんだ。食ってみるか?」


 コーンヘッダーのモックアップの詳細を製作してたら、件の山の民が何やら持って現れた。


「面白いだろ、コレ。あの実験台になってる奴がマイシィをフライパンで焙れとか言い出すからコイツを思い出してな。黍蜜で食うのが普通なんだが、塩ってのもたまには良いもんだな」


 などと、白い物を差し出してくる。


 おい、この世界にも爆裂種あったのかよ。


「これは?」


 そう言ってポップコーンの説明を求めた。


「祭祀用のマイシィだ。本来は祭祀の供え物として使うんだが、その日にはみんなに振舞われる。祝いの席にも出るから結構ありふれているな。地域限定での話だが」


 などと説明してもらった。


 マヤやアステカではどうか知らんが、ハルティ半島においては、ポップコーンは神聖な食べ物であるらしい。それはもしかしなくても、うどん県西部で結婚式の引き出物に用いられるオイリみたいな感じなんだろうか?





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