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135/161

135・ソイツはこっちが不安になるほど無自覚だった

 当人がこちらに気付いて駆け出した。


「これは縁辺公に縁辺公夫人。まさかお出迎えなど恐縮でございます」


 ヘンナより年下であろうその人物が目の前まで来てそう言って礼を取って来る。


「いや、礼には及ばない。それより・・・・・・」


 俺がそう言うと、何か察したらしい。


「はっ。ユッカ・アホカイネン。この度カレロを拝領し境界伯を賜った次第にございます」


 うん、それもどうでも良い。


 アホカイネンだぞ?


 まずはそこから説明しろよ。


 どうやら俺の思いが通じたらしい。


「我がアホカイネン家は第三王子派としてあの戦いに臨み、私も捕まり、牢に入れられておりました」


 うん、そうだろうな。皆騒いでたもんな。


「あの牢での食事は中々に珍しい物でした。それまで食した事のない、パンムやンビセンでしたからな。周りが騒がしくなった時には何が起きているのかと思いましたが、まさか、陛下が食事中に現れるとは思いもしませんでした」


 などと平気な顔で思い出話を始める。


 何でもコイツ。兄が訪れた際にパンムやンビセンについて聞かれて、普通に食レポやったらしい。貴族らしくないな。


「しかし、あの様々な地方の料理を僅かな期間で色々味わえたのは良かったです」


 いや、お前貴族だよな?


「ならばなぜ、僕に与したんだ?そこまで先見の明があるなら兄に着くべきであったろう」


 そう言うと、頭を掻いている。


「いえ、縁辺公に着く方が勝てると父が言ってましたので、そうなのかと」


 本当にアホだコイツ。ちょっと考えればわかるだろ、アレ。何だよ、何でパンまでナイフとフォークで食うんだ。オカシイだろ。


「結果を見れば、完全な間違いでしたが、テンプレの内政やってたことが陛下の目に留まったらしく。私は少領に減封されましたが、父に代わって領主となれました。それでです。千歯扱き以上の道具があるじゃないですか。もうホント驚きましたよ!」


 テンプレ言った。コイツ、テンプレ言った。挙句に千歯扱きだと?


「まさか、脱穀機や唐箕を山の民が作っているとは思いませんでした。わが領でも千歯扱きと唐箕で農業効率を引き上げはしましたが、まさか、その上を行っているなど・・・・・・」


 どうやら、自身が何を言っているか気付いていないらしい。まさか、鈍感系?


「えっと、何か?あ!千歯扱きですね。それはですね・・・・・・」


 まあ、千歯扱きを説明しているが、聞かずとも知っている。それより、なぜ千歯扱きを知っているのかと問い詰めたいが、鈍感なのか無自覚なのか。


「なるほど、境界伯が自ら考えたのか。それは中々の才能だ」


 そう言ったらまんざらでもないらしい。が、話しは全く見えて来ない。コイツは何をしに来た?俺が転生者だと確かめに来たのだろうか。


「それならば、ナンションナーの農具を見ていくと良い。神盾兵団には犂や馬鍬も渡しているが、そうだな。帰りに芋ほりを持ち帰ると良い。すでに扱い方は学ばせている」


 当たり障りなくそう言って様子を見ることにした。


「それはありがとうございます!しかし、目的は農具ではございません」


 話が長くなりそうだと察したヘンナが屋敷へ向かおうと言い出したので、話を切り上げて屋敷へと向かう。


 その間も、この転生者の疑いがある人物は周りをキョロキョロしながら進んでいる。


「あれが神盾。あ、山の民!おお!まさに美形。という事はあの長身が森の民!」


 などと勝手に盛り上がっている。


「ところで公、これだけ鉄製品があるなら蒸気機関もあるのでは?」


 コイツは間違いない。転生者だ。


「蒸気機関?」


 警戒しながらそう問いただす。


「え、無いんですか?釜で沸かせた湯気を管に通して筒に導いて上下運動させるんですよ」


 と、間違いなく蒸気機関の原理的な説明を始める。


「山の民の鍛冶師なら作れるんじゃありません?」


 と、言ってくる。


「手で回さなくとも勝手に回り出す玩具なら作ったらしいが、それ以外のものは知らないな。筒に湯気を溜めてどう動かすんだ?」


 最も大事なのがそこだ。俺は詳しい構造を知らん。


「いえ、筒に送り込めば勝手に動くかと」


 爆発するわアホ。


 ケロッととんでもない事を言いやがったので、一応説明しておこう。


「それに近い事は既に試した鍛冶師が居るが、動きはしなかったらしいぞ?」


 と言うと、驚いている。


「そんな。それじゃあ、蒸気機関が作れない」


 知らんがな。構造を知らんのにどうして作れると思ったんだ?


 そこで、ヘンナに行き先を変更してもらった。



「蒸気機関とやらが何かは分からんが、僕の考えたコンバインだ」


 そう、俺は農機具を仕舞ってある倉庫へとソイツを連れて行った。


「コンバイン?ああ、なんかアメリカっぽい機械ですね」


 何とも無警戒にアメリカってお前・・・・・・


「アメリカっぽい機械というのは何だ?似たモノがあるのか?」


 ワザとそう聞いてみると、きょとんとしたのち、どうやら伝わらない事に気が付いたらしい。


「・・ああ、それは・・・生まれ故郷の比喩で、広い農地で使う機械って例えですよ」


 嘘つくな。ってか、焦ってるのが丸わかりだぞお前。


 だが、気にしないふりを続ける。バレるのもめんどくさい。無自覚だから、知られたら普通に転生仲間と叫び出しそうで怖い。


 しかし、普通型コンバイン知らんのか?普通にあるだろ。


「そう言えば、縁辺公は中々面白い弓を使われるとか」


 いきなり話題替えやがったよコイツ。


 探ってんの?それとも、興味なさ過ぎてここを出たいだけなのだろうか?


「使っているが、農具についてはもう良いのか?」


 一応その様に聞いてみよう。


「あ、はい。私、農具にはあまり詳しくないモノで、現状は縁辺に頼り切っております。お恥ずかしながら」


 うん、そやな。千歯扱きと唐箕はテンプレだが、脱穀機や馬鍬って確かまともに出てきたことないもんな。え?普通型コンバインって、日本じゃ認知度低いんだっけ?まあ、低いのかな。たぶん・・・・・・




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