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122・伯爵の出兵

 これで俺に迷いは無くなった!今すぐ、あの手づかみ王子を誅殺してくれようぞ!


「キエシ伯、お待ちください」


 決起に向けて準備を始めていた仲間からそう制止された。


「何を言うか、我はこうして陛下より朱の弓を下賜頂いたのだぞ。これは手づかみ王子を今すぐ討てと言うお言葉に相違ないではないか」


 陛下は俺の腕を見込んでこの弓を下賜されたんだ。それをみすみす引き延ばせだと?こいつは一体何を言っているんだ。


「しかし、今動いてはアマムの収穫ができなくなります」


 アマムだと?たかが食い物がどうして関係するというのだ。こちらは王の勅命ではないか。まったく意味が分からん。


「アマムなど、帰ってから刈り取れば良かろう。それとも、我が自ら出陣するというのに敵わないとでもいうのか?貴様らは」


 何とも非礼な連中だ。


「そうではありません。しかし、アマムには刈り取り適期というモノがございます。これから出陣となれば、一月、いえ、クフモの平定や縁辺への進軍という事は夏の内に帰れるかどうか」


 だから何だという。どうせ蔵に積み上げておくものだ。畑にはやしていて何が問題だというのか俺にはサッパリわからん。

 そんな不機嫌な顔を察したのだろう。


「アマムは刈り取り適期を逃せば、実は落ち食用にはなりません。いえ、下手をすればそのまま腐るやもしれないのです。下手に腐らせれば畑の病の元となりかねず、秋に新たなアマムを播くこと適わずとなりかねないのです」


 はぁ?アマムとはそんな使い勝手が悪いモノなのか。本当に作物とは使えない。ただでさえその年の作柄がどうとか言って値段が変わり、せっかくの年貢がうまく富にならん年まである始末だ。

 そうか、縁辺をモノとして焼石や鉄を手にすればそんな思いもせずに済むな。


「いや、すぐだ。敵が準備を整える前に出るのだ」


 だが、誰も動こうとはしない。一体どうした事だ?


「キエシ伯。貴殿の配下の多くも今は動けますまい。アマム無くして我らの富は成り立たないのですぞ」


 などと腑抜け事を抜かす腰抜け。


「だから何だ。縁辺をモノにすればその様な富、すぐに霞んでしまおう」


 こいつらは目の前に縁辺の焼石や鉄があることが見えないのだろうか?


 本当に動きも鈍ければ頭も回らん奴らだ。


「伯は山の民や森の民を相手にあの地を奪えると?」


 知れた事。神盾がいくら硬かろうと、手段はある。俺だから可能な手段がな。


「無ければいうまい」


 そう自信をもって返したが、それでもこいつらは動く気配を見せなかった。


 そればかりかわが騎士達さえもが言う事を聞こうとしない。


「なぜ20日も待たねばならん!」


 そう叫んだが、返ってきたのはアマムの収穫だという。


「そんなものが無くとも王都にいくらでもフェンとやらがあふれ、ベルナなる芋が手に入るではないか!」


 本当にこいつらは話にならん。アマムがダメならフェンを買えばよい。ただそれだけだ。

 

 だが、そのフェンの材料がアマムだと言って譲らない。


 だが、俺はここで弓を射たり槍や剣を振り回すような、あの手づかみ王子の取り巻き連中ではない。


 そんなにアマムが大事なのかと思わなくはなかったが、準備にかかる時間を考えれば20日ならば妥当ではないかという判断も出来る。


 刈り入れがあるというが、出来るだけ多くを戦の準備へと向かわせ、とにかく早く打倒の兵を進ませることに注力した。


 王都では縁辺公が先のウゴルとの戦で多大な功績をあげたという。


 だが、考えてみればわかるが、手づかみで喰らう様な人間がそのような高度な戦を立案するはずがない。大方、アホカス候キエロ夫人の考えた事だろう。その功績を娘を盾に自らの功と言い張るとは見下げ果てた態度というほかない。


 そもそもだ、山の民や森の民を従えているというが、元のあの王子の性格からすれば、担がれて踊らされているだけではないのか?

 先の陛下との戦自体、あの王子が差配したものではない。欲にまみれた古い貴族連中が担ぎ上げたに過ぎないと思っている。

 そして、決定的だったのが手づかみの件だ。事もあろうに由緒正しき王族が手づかみでものを食べるなど許される行為ではない。何のためにフォークやナイフがあるのか。何故、その使用が我ら高貴な者に対してのみ許されていたのか。

 現在では陛下のご高配でもって平民農民どもにも利用が許されてはいるが、それをもって貴族が手づかみなどという野蛮な行為を行って良いわけではないのだ。


 考えれば考えるだけ虫唾が走るではないか。


 あの手づかみ王子は折角の陛下からのご配慮を何だと思っているのか。ウゴルとの戦いでまるでアホカス家へ恩を売ったようなあの態度。思い上がるにも程があるではないか。


 挙句にベルナの揚げ物を陛下にまで手づかみさせる始末。本当に侮辱するにも程がある。


「おい!今日で20日だ!」


 何とか集まった兵力はお世辞にも多いとは言えない。本来ならば、この倍近く集まってもおかしくはないのだが、アマムの管理とやらで農民が集まらないという。本当は後20日欲しいだとか馬鹿も休み休み言えと言いたい。


 仕方がない、何とか集まった兵を引き連れ誅罰を達するしか無かろう。前回失敗した連中は熊にやられたというから、熊が人食いを始めてしまう以前に片を付けるしかない。そう、時間が無いのだ。

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